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[C235] 魔法の使えない魔法使いの魔法 35

更新、お疲れ様です

まぁ 展開的に必要なシーンかも?とは思いますが、どこまで人として堕ちていくのか楽しみですよ?
(同性愛が、と言う事ではありません)

[C237] おー・・・・

おじちゃん、死んじゃう
早く砂糖を・・・・ぎぶみー糖分・・・
  • 2008-07-27
  • 投稿者 : ぎるばと?
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[C238] コメントありがとうございまーす

〇あんずさん
 書いているクロガネ本人がベタだなぁ、と思いながら書いちゃいますが、展開には必要ですし。どこまで堕ちるかはお楽しみに……

〇ぎるばと? さん
 砂糖? ふふ、しばらく無いよ。
  • 2008-07-27
  • 投稿者 : クロガネ
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[C239] 昼ドラってレベルじゃねえ。

何というか最悪の状況、縁もすずかも大丈夫か!?
何かブラッディーでバイオレンスな欝展開になりそうな予感… 最近の子どもがこんな事言われたら自殺しかねんぞ、鮮血の結末一直線か? ガクブルガクブル
  • 2008-07-27
  • 投稿者 : ミヅキ
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[C240] コメントありがとうございまーす

〇ミヅキさん
 そもそも昼ドラに小学生は取り上げないと小一時間……状況は最悪ですが。
 自殺するにしても飛び降りはちょっと……
  • 2008-07-28
  • 投稿者 : クロガネ
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[C241] キ、キツイ

うああぁぁあぁ(泣)
すずか・・・(泣)
いや、もうわかってたんですが、いざこういう場面を読むとキツイですね。

個人的にはすずかはもうアリサ以外好きにならないほうが嬉しいんですが・・・(すみません、アリすず好きなんで)
というより、今もそういう意味での好きなんですか?
  • 2008-07-29
  • 投稿者 : りんご
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[C242] コメントありがとうございますー

〇りんごさん
 書いているこっちも辛かったという罠が。クロガネもアリすず好きですしねぇ……
 現段階ではまだ そういう意味で好きなんでしょうけど、これからは?
  • 2008-07-29
  • 投稿者 : クロガネ
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[C244]

更新お疲れ様です。

なんとも心の痛む回でした……。
すずか玉砕。でもきちんと向き合っての事だし、それはいい。
問題は縁、というよりアリサの縁に対する諸々ですね。
淫夢にレイプ未遂、好きになっちゃらめぇ、というかなれない環境、状況?
そんな諸々に追い込まれちゃってますね。
縁に聞かれちゃったし、魔王様降臨の危機も含めてガクブルですよ。あとなんか次元犯罪者に目つけられてるかもだし、ぴんちぴんち。

あとはやてがなんか気づいたのはなににきづいたんやろー?
  • 2008-07-31
  • 投稿者 : 春都
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[C245] コメントありがとうございマウス

〇春都さん
 すっきりしない、嫌な回です。しばらく嫌な展開が続きます。
 精神的にも立場的にもヤバい状況のアリサ。主人公ですから追い詰めるだけ追い詰めようかと(サド
 はやては――うん、丸分りかなと。

 なのはの映画化決定かぁ……
  • 2008-07-31
  • 投稿者 : クロガネ
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[C348]

講義→抗議

最後には仲直りして欲しいなぁ(落ちてくのは嫌
  • 2008-10-31
  • 投稿者 : A
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魔法の使えない魔法使いの魔法 35

「平均魔力発揮値、1億7540万ノン。瞬間最大発揮時10億オーバー。これは確かなのか?」
「いえ、明らかに無茶苦茶な数値っぷりっすから観測記録ミス扱いなんっすけど」
 資料に目を通し、渋い顔のままなクロノにガンザは苦笑しながら説明を繰り返す。
 そこの記述には、八神はやてと偶然遭遇した際の看視者に対する観測記録があるのだが、到底信じることが出来る数値ではない。そも、これは任務行動中に対する観測結果ではなく、観察対象世界に張られている管理局の常時観測機器から偶然拾うことが出来たデーターでしかないので、当然ながら精密性には欠ける。
「――ところでガンザ君、キミの平均魔力発揮値は?」
「訓練卒の測定で11万4600ノンっすた」
「へぇ、意外とあるんだね」
「いや、このデーター見ながらだと惨めになってくるんっすけど」
 同じくクロノにも凭れるようにしながら資料を見ていたエイミィが視線を向ける事無くガンザに向けた質問に対して、ガンザはちょっと苦い顔をした。クロノでさえ以前の検査の際の結果は400万ノンである。その3%もないガンザから見たら、1億とか10億とか世界が違いすぎる。
 ちなみに、11万ノンならば魔力数値のみで言えばBランクに所属する。
 エイミィに凭れ掛けられているクロノは、その資料に目を通しながら小さく鼻を鳴らす。
「どう? これ信憑性あると思う?」
「その前に重いぞエイミィ」
「バカちんっ」
 後頭部に頭突きを喰らった。納得がいかない。
 痛む後頭部を擦りながら、クロノはサイドデスクに置いていた1冊の本を手に取る。これではどっちが上司なのかが分からない。
「確かに観測結果は無茶苦茶だが、その無茶苦茶なのがロストロギアだ。無視できる話じゃない」
「でも、流石に10億オーバーって……」
「エイミィ」
 ぱんっと、エイミィの頭を持っていた本でクロノは軽く叩いた。何すんの、とエイミィはその本に視線を向け
『魔王の心臓』
 その微妙に汚れている本のタイトルに、あ、と小さく声を上げた。
 確か、クロノが無限書庫から借りパクしたまんまの、看視者が保持しているであろうロストロギアを取り上げていた本である。この本のデータ―を興味半分でエイミィが照合したからこそ、ドールタイプによる魔道師連続襲撃事件やら看視者の事やらをアースラチームが担当する事になったのだが……あれ、この面倒な事件を背負う羽目になった責任者って私?
 ちょっと顔が青くなった。
「ここに記述されているロストロギアの記述が本当だとしたら、エイミィは今回の数値をどう思う?」
「どうって……」
 今度はちゃんと視線を向け、問いかけたクロノの言葉にエイミィは口を開き――すぐに閉口した。
 ああ、そうだ。自分の記憶違いじゃなければ、魔王の心臓というロストロギアの特性は3つある。
 その内の2つ。

 魔力の無限生産。

 魔力の無限保持。

 無限、と言うのは基本的に2通りの意味がある。
 本当に 『限界が無い』 のと、もう1つは 『計測できない』 という意味だ。
 例えば海。
 地球の広さの内、約7割が海だ。その7割というのが海の量の限界で、海の広さの限界だ。
 しかし、そもそも地球の広さや海の広さを測る技術力が無い時代、海はその広大さから無限だと思われていた。限界があるにも関わらず、それは無限だと思われていたのだ。
 海だけじゃない。大気や、空の広さや、人口、宇宙の大きさ、有限なのに無限だと思われていたものは沢山ある。全て、計測できなかったからだ。
 そういう当時の技術力では 『計測できない』 という意味合いで、魔王の心臓のその特性は思われていた。
 が、それが違う意味での本当ならば、話が違う。
 それが正真正銘、限界が無いのであれば。
「え、でも、今まで80万行ったり来たりくらいでしょ? はやてちゃんの前だって、確か79万ちょっとだよね?」
「何かあったと見るべきか、本当に観測ミスなのか、だな」
 ほら、見るといい、とガンザに本を手渡しながら、クロノはエイミィの言葉に失笑と共に答えた。
「いや、何かあったから、看視者は息を潜めていると考えるのが自然か。それともはやてが何かをしたか。どちらにせよ、考慮に入れておくべきだな」
 独り言のように呟くクロノの言葉を聞きながら、さて、この2人ってもしかして八神はやての知り合いなのだろうかと、ややずれた感想をガンザは抱く。名前呼んでるし。
 しかし、100万にも届かなかった数値が、突然1億にもなるものだろうか。100倍以上の伸びである。
 特につっこみを入れる事無く、ガンザは付箋でびっしりの本を適当に開いた。何故か絵本のような所であった。
「……何っすかこれ、童話?」
 良かったなエイミィ、君と同じ事を言っているのがいるぞ。そう視線を送るクロノに、エイミィは思いっきりガンを飛ばす。ちょっと怖かった。
 そんな漫才を見る事なく、ガンザは本に書かれている内容を高速で目を通す。
 昔、悪魔の王様がいた。魔王か。
 その魔王は、友達が誰一人としていない、独りぼっちの魔王。
 友達を作る事を諦めてしまい、そして寂しいのに我慢して、独りぼっちでい続けた魔王。
 そんな魔王の下に訪れる少年。
 少年は願う。魔王のみが扱える、その力を扱い方を教えてほしいと。例えその力で人から忌み嫌われ様とも、その力で救える人がいるならば、力を手に入れたいのだと。
 その心意気に感激した魔王は、魔王のみが扱えたその力を少年に教え――

 そして魔王は、餞別として少年に心臓を授けた。

 心臓。
 これが 『魔王の心臓』 というのだろうか。随分と無茶苦茶な話である。
 しかし、微妙に納得できてしまうから怖い。
「看視者の術式は、魔王のコレ、ってオチっすかね?」
「まあ、童話だがな」
 本から顔を上げつつ視線を送ってくるガンザに、クロノは苦笑いと共に返した。どうも童話形式で書かれると何処までが資料で通用するのかが分かり辛いのだ。
 そこでふとガンザは気付く。
「ああ、じゃあ魔王の心臓を封印したら、看視者は死ぬかもしれないんっすね……」
 え? とエイミィがカンザへと視線を向ける。
 死ぬって、あの看視者がか?
「そうだな、心臓である限り、封印はそれを意味するな」
 ぽつっと呟くように返したクロノの言葉に、エイミィは再びクロノへと視線を向けた。
 ああ、そうか。そこでようやくエイミィは気が付いた。
 『魔王の心臓』 がその名の通り、そして童話の通りに心臓であるならば、それを封印するという事は同時に看視者から心臓を抜き取るという意味でもある。
 看視者自身はドールタイプによる魔道師連続襲撃とは直接的に関わりがあるという証拠は無いし、魔道師に対して攻撃をしかけている訳でも無い。が、看視者は少なくとも2つのロストロギアを所持しているのが判明しているので、正式に捕獲の指示が出ている。捕獲されれば当然ロストロギアは封印され、時空管理局にて保管される事になる。
 例えそれが、心臓だろうと何だろうと。
「で、でも、あのロストロギアが心臓の代わりをしてるとは限らないじゃない。もしかしたら普通の心臓だってあるかもしれないんだし」
「だったら良いんだけどね……」
 フォローを入れるものの、相変わらず夢の無い返答だった。まあ、クロノはロストロギアと誰かの命を天秤にかける事など、初めてという訳ではない。かと言って、慣れた訳でも平気な訳でも無いが。
 口をへの字にして、フォローを入れたエイミィの言葉にガンザが口を開いた。
「でも、看視者があの海鳴 恋慈って奴だとしたら―――」
「ガンザ」
 言わんとしていた言葉を、クロノは止める。
 止められ、ガンザは素直に言葉を消す。
 それはあまり、考えたくない事だった。
「これが、仕事だよ、僕達の」
 続けたクロノの表情は、冴えなかった。











 ロストロギアを封印して死ぬかどうかは別にしても、恋慈が捕獲されれば、残された妹は―――











 雨脚が、急に強くなった気がした。
 それは単に、降りた沈黙のせいで雨の音が嫌に耳に障るからかもしれない。
 もう一度、アリサはすずかの方を向いた。身体ごと、しっかりと目を見て。
 揺れる瞳、呑んだ息、若干引き攣るような口端。動揺していた、あのすずかが。
 そのすずかの目を、真っ直ぐ見る。
 怖い。
 何が、どのように。そう訊ねられたって困る。
 純粋にそう思えた。
 今から出す結論は、確実にすずかを傷つける。そう分っている。分っているが、口にした以上は撤回なんて出来ない。
 その、傷つけなくてはいけない相手の目を見るのが、怖かった。
「――――な、なんの……」
 何のこと?
 そう、惚けたかったのかもしれない。違うかもしれない。
 しかし、その言葉はすずが自身が口を横一文字に閉じて断ってしまった。
 じっと、揺れるすずかの目を見る。
 この話題を有耶無耶にするのならば、それはそれで良かった。正直に言えと、強制する気はない、欠片ほどにも。
 ごくりと、すずかが唾を飲んだ音が、嫌に耳についた。
「……気付いて、たんだ」
 揺れながらも、すずかの目は確かにアリサの目を捉えていた。
「半分以上、カマよ」
「――そっか」
 答えるその言葉は、非常に短い。歯切れも悪い。
 別に、確証があった訳じゃない。
 すずかに好きな人がいるなんて、あの時聞くまで本当に知らなかった。それこそ、予想すらしていなかった。
 しかし、冷静に考えてみればどうだ?
 クラスは違えど昼休みは毎日一緒、習い事の半分以上は一緒、休みの日は会わない日の方が少ない。それだけ一緒にいながらも、すずかには男の存在なんてまるで感じ取ることが出来なかった。勘違いではない。
 違うクラス、なんて言い方をしている以上、それは同時にこの学校の生徒であるという意味も含めている。そうすると塾関係などは一気に削除され、尚且つこの学校の生徒で同じ年、つまりは同じ学年のすずか達のクラス以外の生徒に限られてくる。
 その条件で引っ掛かりそうな男といえば、精々アリサのクラスにいる男子くらいしか思い浮かばないのだが、すずかがアリサのクラスに遊びに来たときにクラスの男子はすずかの眼中にない事くらい分っている。毎日のように隣にいれば、それくらいは分かっている。
 そう、隣にいれば。

 すずかの眼中には、いつも自分がいることくらい、ずっと前から知っていた。

 いつだって人の視線を意識して、その視線に敏感なアリサである、すずかの目が自分を追っていたことなど、ずっとずっと前から知っていた。
 ずっと、ずっと前から、それは友達だからという風に思っていた。納得していた。
 しかし、考えれば考えるほどに深みに嵌る。
 昼食の席はいつだって隣。
 休み時間に遊びに来たとき、その立ち位置はいつもすぐ近く。
 家に遊びに行ったり遊びに来たとき、すずかは真正面か隣にいる。
 いつだって、近くにいて当たり前で。
 だから、すずかの眼中に男の姿が全然映っていない事が分かった。
 だから、すずかの眼中に自分がいる事が分かった。
 その状況で、すずかが恋する相手といえば誰だろうか。

 それこそ、アリサ・バニングスを置いて他に誰がいる。

 そう考えてしまったのは、縁に惚れてしまったからなのかもしれない。それ以前ならば、ンな馬鹿な、なんて笑って済ませられただろうが、今のアリサにそんな事は出来ない。
 それに、今までそういう素振りがなかった訳でもない。
 思い当たる節が多すぎた。
 自惚れであれと、そう思った。
 だから、カマを掛けてみた。
 気のせいであったのならば大変恥ずかしい話ではあるが、胸のつかえは取れるし、笑い話にだって出来るだろう。
 気のせい、ならば。
 しかし、それは当たってしまった。当たってしまったのだ。
 外れて欲しかったという密かな願いは叶わなかった。
「……すずか」
 名前を呼んだ。
 カチューシャを取り上げなのはに思いっきりブン殴られてからこっち、呼び慣れた親友の名前。
 そう、親友の。
 それは直結して、アリサの答えでもある。
 すっと、すずかは目線を降ろして顔を伏せた。
「ずるいな、アリサちゃん。何でもかんでもそうやって、1人で答え出しちゃうなんて」
「それは―――」
「アリサちゃん」
 もう一度、顔を上げる。
 目は、揺れていない。
 すぅ
 はぁ
 深呼吸。
 それからきゅっと、すずかは表情を引き締める。

「あなたが、好きです。私と、一緒にいてください」

 まっすぐに目を合わせ、真剣なその告白。
 その気持ちには応えられないと、一番最初に言ったのに。
 いや、言ったからか。
 すずかなりの、けじめなんだろう。
 そう、アリサは捉えた。中途半端な返事じゃ駄目という事か。
 はっきりと、きちんと、断れと。
 胸が痛い。
 胃も痛い。
 最近痛んでばかりで、そろそろ穴が開きそうな気がする。
 逸らす事なく、すずかの目を見返し―――
 頭を、下げた。












「ごめんなさい」













 授業が始まるギリギリの時間になってからアリサは教室に戻り、自分の前の席に座る縁が何故かジャージ姿であるのに気がついた。自分がいない間に何が起きたのか。まあ、縁の事だ、蕎麦汁でも制服にブチ撒けてしまったに違いない。というか7月も近いというのに長袖長裾完全防備のジャージ姿というのは見ているこっちが暑い。何でそんなに肌を晒すのが嫌なのか。
 教室の後ろから、アリサは縁に感づかれないようにゆっくりと足を進める。
 何故か授業がそろそろ始まるというのに席につかず通路の邪魔をしていた男子生徒が道を空けてくれた。何か怯えている様子だ。怖い話でもしていたのだろう、うん。
 席まで近付き、そこでアリサは足を止める。ぴくっと、縁の耳が器用にひくついた。
 気がつかれた。それは分かった。
「―――――」
 しかし、アリサは無言のまま席につく。
 食べかけであった弁当箱は、袋へ綺麗に片付けられ机の横にぶら下げられていた。何故か机も綺麗に拭かれている。これだけ几帳面にやると言えば すずかかはやてだろうが、すずかは、まぁ、まずない。
 ちらっと はやてに視線を向ける。
 はぁい、なんて言うようにして手を振られた。気楽な奴だ。
 視線を戻す。
 目が合った。
「おかえり、アンス。急に走って行くから驚いた。何かあったのか?」
 にこーっと、笑顔で問われたその言葉に、アリサは言葉ではなく態度で応えた。
 ぷいっと、顔を背けて。
 どんな鈍感が見ても分かるくらい不機嫌な面で。
 露骨なくらいだった。
「――――ぇ」
 小さく息を呑むかのような声。たぶん、あの笑顔は凍りついている。余計に背けた顔を戻したくなくなった。
 胸が痛い。
 ずきん、ずきん、と。
 胃が痛い。
 きり、きり、と。
 ごめん、なんて言うのはただの現実逃避だろうか。
「ぅ、あー、ぁ―――――アンス?」
 若干、恐る恐るという色が混ざりながら、名前を呼ばれた。
 混乱しているのだろう。困惑と言うべきか。抱きしめ、突き飛ばし、逃げて、不機嫌で、分かれと言う方が無茶がある。
 だけど、アリサは返事をしなかった。
「はーい、皆席についてー」
 チャイムが鳴る寸前、ドアをがらりと開けて先生が入ってきた。良いタイミングだ。縁にとっては、嫌なタイミングだろう。
 う、と言葉に詰るような声が聞こえた。
 むすっとした表情のまま、アリサは鞄から必要な教科書とノートを取り出し、ばすんっと机の上に叩きつけるかのように置く。視界の片隅で、その音に跳ね上がる小さい肩が見えた。
 最低だ。
 いや、最低に、ならないと。
 スピーカーから流れるチャイムの音に、おずおずと黒板の方を向くように姿勢を正す縁を視界の隅に置きながら、心の中で小さく呟く。
 縁に嫌われれば、それで良い。
 嫌われさえすれば。
 それが最善なんだ。
 そう、呟いた。












「あれ、月村さんがいませんね」
 授業開始直後、教室を見渡してから小さく呟いた先生の言葉に、何故か分からないが なのはの背中に嫌な汗が流れるような感じが走った。
 これから始まる授業は国語、しかも内容は古文。体育のマラソンと対を成す、高町なのはの天敵であった。普通に国語も得意じゃないと言うのに、古文や漢文とか言われても困るのだ。と言うか、古文など勉強して一体何の役に立つと言うのだ、是非授業内容から消去してほしい。ちなみに、なのはがこの世でなくなれば良いと思うベスト5は争い・暴力・差別・貧困・古文と並ぶ。勉強出来ない者の厄かみである。
 結局、アリサを追って出たすずかは、帰って来なかった。授業のチャイムはもう鳴ったのに。
 ちらっと、なのははすずかの席へ視線を移すが、当然ながらその席の主は不在である。一体どうしたと言うのか。
「高町さん、何か聞いてませんか?」
 問われた先生の言葉になのはは慌てて視線を戻した。
 どうしよう、ここは真面目に正直に、友達追って出て行って帰ってきてません、と言うべきだろうか。
 ……あれ、何故だか凄く説得力がない。
「あ、えーっと、その……あ、体調が悪いなーって言って保健室に―――」
 何となく理由は伏せて置いた方が良いと思い、適当な理由を口にしてから、なのはの表情がちょっと固まった。
 明らかに胡散臭いという先生の表情がバッチリ見えたからだ。
 それはそうである。あ、えーっと、その……とか言っている時点で嘘臭さ全開なのだ。まだ正直に話した方が説得力があった気がする、低次元な争いだが。
 あー、なのははもう少し国語力のある子に生まれたかったです。
 小さく心の中で呟くそれは、無駄に切実な響きがあった。

「そう言えば月村さん、何だか今日顔色悪かったよね」

 ふいに、すぐ近くから声が上がった。
 え、と顔を向ける。
「アレなんじゃないですかー? 青いの」
 追従するように、別のところから微妙にオヤジ臭い発言が上がる。
 今度はそっちに顔を向けた。
「ぁ―――」
 小さく、なのはの口から声が漏れた。
 2人だった。
 あの2人だった。
 最近は随分仲が良くなって、世間話で軽く笑いあえるくらいになった。
 軽口で、冗談だって言い合えるくらいになった。
 未だ分数の計算でモタつく、その2人。
 味を覚えたか、算数の宿題は必ず泣きついてくる困った2人。
 勇気を出して、最初に声をかけた、あの2人。
「先月も今くらいに体育見学してたし」
「重いんじゃないっすかねー?」
 ウィンク1つ返してから、先生へと若干オヤジな発言をする。片割れは完全にセクハラ発言だが。
 フォロー、してくれたんだろうか。
 いや、明らかにフォローだ。
「はいはい、下世話な事言うんじゃありません。まあ、月村さんには戻ってきてから聞きましょう」
 2人の言葉に苦笑いを浮かべながら、先生は溜息と共に返した。呆れてると言うべきか。少なくとも、すずかの行方を疑う色はなかった。
 はーい、と2人はそれぞれ返事を返し……にこっとなのはへ笑顔を向けた。
 ちょっとだけ、じぃんときた。
 あの時、勇気を出して良かったと、こういう時に思えるのだ。
 ちょっと涙目になりそうになりながら、なのはもにこっと笑顔を向け――
「では、高町さんは後で月村さんにノートを見せてあげてくださいね」
 ぴたっと、固まった。ほら来たよ、と頭の中で冷静な自分が笑うように囁く。
 これから始まる授業は国語、しかも古文。これが本当に日本語なのかと思うような奇怪な文章を読み解けと、竹取り物語の姫様の如く無理難題を押しつけてくる悪魔の授業である。ただでさえ元より苦手科目中の苦手科目であり、去年辺りからフェイト並とは言わないが出席率とて良くないので、授業に追いつくので精一杯なのだ。
 そんな授業のノートである。授業内容の重要なポイントなど分かる訳がなく、とにかく必死で黒板に書かれた物を全て写し、先生の言っている内容も重要そうなのをひたすら殴り書いている、見るも無惨なノートである。急ぎ過ぎた結果、たまに自分でも読めない時がある、そんなノートである。
 それを、すずかに見せろと。重要なところにカラーペンを使い、丁寧にしっかり、しかし簡潔にまとめられているノートを持つ、あのすずかに見せろと。それは一体どんな羞恥プレイなのかと。
 ついっと、2人を見る。
 ごめん、無理、とでも言うかのように、2人揃って手の平を横に振っている。ああ、そうだった、あの2人は算数が苦手というか勉強が苦手だったんだ。
「………はい」
 答えた声は、若干涙声だった。












 チャイムが鳴り、今日の授業が全て終わったのを告げる。放課後だ。
 起立、礼、いやっほーぃ!
 着席する事なく弾ける生徒達に、やれやれと先生は溜息を1つ。気を付けて帰るのよ、とお決まりと言えばお決まりな台詞を言うが、果たして何人が聞いている事やら。育ちが良いのか教育が良いのか、忠告する事なく皆安全第一で帰るので安心ではあるが、話は聞いてほしい。
「アン――」
「ごめん、今日は先に帰って」
 そのお決まりな忠告を律儀に聞いてから、振り返る未だジャージ姿の縁の言葉が終わるよりずっと早く、教科書を鞄にしまいながら目線を合わせる事なくアリサは拒絶の言葉を口にした。昼休みからこっち、ようやく縁にかけた言葉であった。
 視界の隅で、しょぼんと落ちる小さい肩が見える。
 これで良い。
 これで良いんだ。
 さっさとこんな自分なぞ見限って、嫌いになってくれれば良い。
 心の中で呪文のように呟く。不思議と、胃も胸も痛くなかった。慣れてしまったのか。最悪だ。
「そ―――そうか。うん、分かった」
 気にしてないとでも言うかのように、縁の声色はいつものように明るいものだった。顔は見えないが、きっと笑顔だ。
 にこーっと、その仮面の笑顔で。
 アリサはその言葉に、返事をしなかった。目だって、合わせない。
 かた、かた、と小さな音。縁が机に向きを戻して、帰り支度を始めた音。
 顔を上げる。ただでさえ小さい縁が、もう一回りくらい小さくなっていた。しょんぼり、という音が似合いそうである。
「お、何や、縁ちゃんもう帰るんか?」
「ああ……うん、今日は教授のところに早めに行かないと」
 うぃんうぃんと音を響かせ、近付きながら既に帰り支度をさっさと始めている縁に対して質問するはやての言葉に、縁はアリサの事は口にせずそれっぽい理由を上げた。縁はいつだって、こうやって言葉を濁して気付かれないようにしている。口が上手いというのか。

 だとしたら、縁は今までどれくらい自分に嘘をついてきたのだろう。

 そう思ってしまうのは、疑心暗鬼と言うのだろうか。だけど、最初の頃のように、縁は嘘もつけないような馬鹿正直な奴だとは思うことが出来ない。
 分からなくなってくる。
 縁の言葉が、信用できない。
 ネックレスの事も、護ると言った約束も、好きだと言った言葉すら、信じられなくなってきている。
 はたして自分はこうも疑り深い奴だっただろうか。嫌になる。好きな人を信じられないとか、どれだけ汚れた奴なんだ。
「それじゃあアンス、八神さんも、また明日」
「また明日なー」
「………」
 アリサに一礼、はやてに一礼、頭を下げて縁は挨拶をする。対して、はやては返すも、アリサはむすっとした表情を作ったまま一言も返さなかった。
 一番最初に、はやてより先に、名前を呼ばれたのに。
 数拍置いてから、アリサの返事が聞けない事を悟ったのか、んっ、と小さく呟いてから縁は手を振る。残念そう、という感じだ。
 かたん、と席を立つ。目を逸らした。
「――ああ、そや、縁ちゃん」
「ん、どうしたんだ、八神さん」
 ふいに、はやてが引き止めた。あくまで自然に。
 逸らした目線の先にいたはやてが、縁が振り向くまでの一瞬だけ睨むかのような鋭い目をしていたのを見なければ、呼び止めたその声に違和感を覚えることも無かっただろう。一体全体今日のはやてはどうしたと言うのか。
「縁ちゃんは私のこと、八神さん、って呼ぶんやな」
 振り向いた縁に、にこっと笑いながら一言。意味が分らない。
 縁もそうなのか、不思議そうに首を傾げた。
「ああ、そうだが……八神はやて、では間違っていただろうか?」
「いやいや、せやね、八百万の神様故に八神、間違っとらんよ」
「そうか、それは良かった」
「良かった良かった。まあ、ただの確認や、気にせんといて」
 ぽんと手を合わせ、何でもないと言うかのように微笑むはやてに、縁は反対側へと首を傾げた。何が聞きたかったのだろうか。
 じゃあ、また明日。
 また明日なー。
 再び挨拶を繰り返し、軽く手を振ってから縁は教室を後にした。最後まで少し、元気が無かった。
「八神さん、ねぇ……」
 ぽつっと呟いたはやての言葉に、アリサは特に言葉は返さなかった。
「雨、強ぉなってきたな」
「……はやて、仕事は?」
「お休みや。せやけど、こんな雨じゃ帰れんしなぁ」
 ようやく返ってきたアリサの言葉に、残念、と言うかのように溜息と共にはやてが応える。小雨くらいなら何とでもなるのだが、流石に本振りの雨では車椅子のモーターが心配である。
 やはり不便な物なのだ、車椅子は。
「まあ、雨脚弱くなるの待つしかあらへんな。少しのんびりさせてもらうわ」
「付き合うわよ、暇でしょ?」
「縁ちゃん追い駆けてもええんやけど?」
「……冗談」
 かなり本気の、返答だった。












 雨は強く、まるで弱まる気配を感じさせなかった。もしかしたら待っとるだけ無駄やないんかなぁ、と困ったように漏らしたはやての言葉が、嫌に現実味を帯びている。
 廊下をぶらぶらした後に教室の掃除が終わったのを見計らい、教室にのんびりと屯してみるが、他の生徒は早々と帰って行く。皆、雨は止まないと思ったのか、それとも普通に何か用事があったのか、随分と教室は閑散とした風景になってしまった。と言うか、自分とはやて以外誰もいない。
 ぱらっと、はやては 『猫丸先輩の事件簿』 と表紙に書かれた小説のページを捲る。面白いの? と聞いてみると、縁ちゃんに勧められてな、とややカチンとくる答えを返してきた。音読したろうか、と冗談目化して続けたはやての言葉に対して、リアルに感情込めて読んでくれるなら聞かせて、という返答をアリサは笑顔と共に向けてみると、素直にごめんなさいと謝られた。そんな恥ずかしいのだろうか。
 小説を読むはやての横顔をぼけっと見つめていると、がらっと教室のドアが開いた。
 目を向ける。
 や、と手を上げて挨拶するなのはと……すずか。
 目が、若干腫れて赤い。
「にゃはー、掃除遅れちゃった―」
 何故か既に疲れた様子のなのはの言葉を聞き、そこではやてが顔を上げる。そうか、掃除当番だったのか。
 しかし彼女は本日午後五時よりお仕事があるのだ。以前とは違ってお仕事に張りを取り戻したのか、毎日元気で何よりである。
「お疲れさ――随分疲れとるみたいやな」
「あはははは……ちょっとね」
 挨拶しようとはやては声を上げ、途中から労うように少し真面目に言葉を変えた。これには笑って流すしかない。明日も国語があるというげんなりしてしまう現実からは目を背けてしまいたいのだ。
 ちなみに、ノートはなのはにしては頑張った、というレベルに留まった、ノートを開いたすずかが一瞬固まった程度には。結局羞恥プレイである。
 当のすずかは、結局6限目に帰ってきた。言い訳としては生理痛で通ったようだ。すずかに対する先生の信頼の高さが窺えた。
 ちらっと、アリサはすずかに目を向ける。
 赤い目が、合う。
「―――おつかれ」
「……うん、お疲れ様」
 少しだけぎこちないやり取り。これも、時が癒してくれるのだろうか。
 おや? と、なのはの視線を感じはしたが、こればかりは答えられない。気軽に答えられるものでもない。最近そういうのばかりだが。
「アリサちゃん達は雨宿り?」
「そうね、雨が弱くなれば良いんだけど……たぶんこのまま強行突破ね」
「ごめんなー、ウチの子繊細やから」
「乗ってる本人には似てないのよね」
「酷っ!」
 私だって繊細や! と抗議するはやてを軽く笑って流し、すずかと目が合う。苦笑のように、2人して笑った。なのはだけは普通に笑っていた。
「はやてちゃんの車椅子、お姉ちゃんに改造してもらおうか?」
「うぇ、忍さん!?」
「うん、お姉ちゃん」
「良いわねはやて、きっちり改造してもらえば良いわよ。きっと空くらい飛べるようになるわ」
「ロボットにも変形しそうだよね、ブライ何とかみたいに巨大化して」
「J9!? じょ、冗談やないで、一応これ生まれてこっちの相棒なんやから。それにほら、夏休みには杖になるんやし!?」
 不思議改造されたら堪らないと慌てて弁解するはやてに、また笑う。
 少しだけ、和めた。
 和んでから、なのはが気付いた。

「あれ? 縁ちゃんは?」

 ぴたりと、アリサは口を閉じた。
 ついっと、すずかは視線を落した。
 禁句だった。
「あ――今日は教授さんの所に行かなあかんって、先に帰ったんよ」
 即座にフォローしたのは、はやて。
「あ、そうなんだ」
「別々に暮らしとるって言うてたけど、一緒に暮らしたら良ぇのにね」
「家庭の事情だよ、はやてちゃん」
 そう諭すなのはは、たぶんこの中で最も複雑な家庭事情を持っている。
 まぁ、せやけどね、とはやて。
 もっとも、縁とアステマ……特に恋慈と共に暮らすとなると、色々と問題があるのだが。魔法技術の関連で。
「―――――?」
 おや? と、急にはやては首を傾げた。
 何か、引っ掛かった。
 恐らく恋慈関連で、何か忘れているような気がする。と言うか、今何か重要な事が全力で頭を通り過ぎて行った気がする。
「どうしたの?」
「ん、んんー、何やろ? 何か大事な事忘れた気が……」
 急に言葉に詰ったはやてに対し、なのはが不思議そうに訊ねると、はやて自身訳が分からなそうに首を反対側に傾けた。喉に骨が残ってる感覚と言うのか、何かすっきりしない。
『はや――』
 急になのはが念話を開き、そしてすぐ閉じた。
「はやてちゃん、“仕事” の方の話?」
 そして普通に口にした。
 仕事……この話の流れだと、看視者の事だろうか。
 ちらっとはやてはアリサに目線を向ける。不思議そうに見返された。

 なるほど、秘密の話をしようにも、念話ではアリサに 『漏れる』 のだ。

「んー、たぶん仕事の事かなー?」
「何よはやて、今日実は出勤予定だったとか?」
「いやいや、休みやってのは昨日ちゃんと確認しとるし……」
 目が合ったのでアリサが聞くが、煮えきらない感じではやてが返した。
 じれったいような言い方ではあるが、一番煮えきらなくてすっきりしない表情のはやてを見る限り、わざとそんな言い方をしている訳ではないのは分かる。
 どうにも釈然としない表情のまま、んぁー、と間の抜けた声を上げるはやてを見てから、アリサはちらっとなのはの隣へと視線を移す。
 ぎゅっと、口を横一文時に閉じ、ふらふらした目線を床に落している、すずか。

 ――……うん、これで、私の初恋は終わり、だね。

 蘇る言葉に、ずきっと一瞬だけ胸が痛む。いや、一瞬だけしか、胸が痛まない。
 すっと視線を逸らす。逸らした先には未だ難しい顔をしたはやて……と、目が合った。
「なぁアリサちゃん、ちと質問があるんやけど」
「WHOの役割について?」
「あ、はい、本日の社会については後程ご教授願う次第でありまして」
「中国漢字から平仮名への移行について?」
「うぁ、え、ええと、はい、レ点のある漢文は苦手ですんで分かり易くして頂けるとありがたいなと思う所存ですが」
「じゃあ、アルカリ性と酸性の基礎分類表の覚え方とか?」
「ごめんなさい、すみませんでした、アホの子に育ってもうてホント申し訳ございません、あとリトマス紙やら紫キャベツやらの色の変化の簡単な覚え方でも教えていただければ犬のように服従いたします」
 わりと本気で泣きそうなはやてを見て、何だ違うのかとアリサは小さく呟いた。真面目な顔ではやてに質問される時は、大抵授業で追いつけなかった箇所の説明を求める場合なのだが、今回は違う件らしい。いや、試しに言ってみた3つとも授業で追いつけていなかったみたいではあるが。
 と言うかあれやね、最近授業のペースが早なってきとるで追いつくのが精一杯で決して理解できないとか訳が分からないという訳やないんやで本当に、ただちょっと最近覚えなきゃいかんのが多くて頭が混乱してまうから簡単な覚え方ができるなら教わりたいというだけなんやホンマやで、と言い訳のようにはやてがぶつぶつと呟く。ちょっと怖かった。
「……まあ、分かったわよ。勉強はまた今度みっちりやりましょ」
「よろしゅうお願い致しますぅ」
 流石に哀れだったので約束をすると、面白いくらいに綺麗にはやてが平伏する。本当にヤバいらしい。
 それで質問って何? と、気を取り直しつつアリサは聞こうとし――ぞくっとした。
 頭を下げているはやての目が、真っ直ぐアリサの目を見つめていた。
 感情が篭らない、人形のような瞳だった。まるで腹の底まで見通すかのような色が、確かにアリサには感じられた。
 ぞわりと、心が荒れる。

「アリサちゃん、今日、一度でも縁ちゃんに右手の事訊かれんかったやろ」

 低い、今まで聞いた事のないようなはやての声だった。
 今までほやっとしたような はやての声しか聞いたことが無かったので、一瞬誰の声だかが分らなかった。
 きょとんとアリサは一拍置いてから、思い出したかのように右手を胸の前に出して視線を落とした。
 その動作に、はやての目が細まる。
「おかしいな? アリサちゃん好き好き大好きーな縁ちゃんが、包帯巻いて明らかに怪我しとりますってアリサちゃんの心配せぇへんって、変やないかなぁ?」
 聞き捨てなら無い言葉が混じり、カチンときて顔を上げるが、続けて言われたはやての言葉に文句を言う口は封じられた。
 そうだ。
 自分は今朝から、包帯を巻いていたのだ。
 風呂場の壁を殴り、殴り、殴り、怪我をして。
 自分自身、すっかり忘れていた。
 だってそう、この右手はすっかり――
「痛くない、んやろ?」
 そう、痛くないのだ。
 怪我をしていたのを忘れてしまうくらい、痛くないのだ。朝はあんなに痛かったのに。
 ……いや、そうじゃない。
 今はその問題よりも、何故それをはやてが把握しているのかが気になった。
「――そうね。不思議なくらい、痛くないわ」
「朝私が会ぅた時は、結構痛みが酷そうやったのにね。いや、ありゃ真面目に痛かったやろ?」
「よく分かるわね」
 これは素直に感心した。隠していたつもりだったのに。
 はやてはようやく平伏していた顔を上げ、凄いやろ? と曖昧に答えた。
 ああ、そうだ。朝言っていたじゃないか、4年前くらいまで、自分も同じ事をしていたのだと。
「せやけど、縁ちゃんには心配されとらん。何でやろな?」
 真っ直ぐアリサの目を見据えたまま、はやては喋った。
 心配されていない云々というのにはまだ返事もしていないというのに、はやては既に断定している。
 それはそうである。アリサがはやての最初の質問に対して包帯の巻かれた右手を確かめるというリアクションは、はやてのした質問に否定する際には絶対に行わないリアクションだった。
 何でって……
 アリサは考える。
 そう言えば確かに、縁は右手の事を一切心配していなかった。聞いてもこなかった。聞いて来られても面倒だが、聞かれないというのは、正直嫌な気分だ。
 普通に気付いてなかったのでは? とアリサは考えたが、それは無いだろうと即座に却下する。あの縁が気付かないとは到底思えなかったからだ。
「その怪我、学校着く前は痛かったんやないか?」
「まあ、それなりに痛かったけど……」
 多少強がってアリサは返すが、はやては気にする事無く次の言葉を続けた。

「ほな、学校に着いて―――縁ちゃんに会ぅてからは、痛かったか?」

「―――――」
 黙った。
 朝、そうだ、縁に会ってからは……痛く、なくなっていた。
 縁の顔を見た途端、それ所じゃなくなっていたというのもあるが、そうだ、確かに縁に会ってからは痛くなくなっている。
「――ビンゴやな」
「え?」
「多分やけど、その怪我もう治っとる」
 そんなはずは無いだろう。アリサは心の中で反論した。
 だって、あれだけの怪我だ。正直思い出したくないが、かなり酷い怪我だったのだ。壁が染まるくらいに殴って出来た傷が、半日かそこらで治る訳が無い。訳が無いのだ。
 だが、はやての妙に確信めいた言葉にアリサは右手に再び視線を下ろす。
 ごくっと、意識せずとも喉が鳴った。
「そう言や、確かアリサちゃんが髪切った日に、恋慈さんに会うたって言うとったね」
 包帯を取って確かめようかと思った瞬間、急に右手の話題から方向転換しだした。唐突である。
 急に変えられた話題に、多少混乱しながらアリサは思考を巡らせる。怪我の事がかなり気になると言うのに、気にさせるだけさせといて一体何がしたいのだ。
「えっと……そうね、会ったわよ、恋慈さんに教授さんにね」
「教授さんのフルネーム言えるか?」
「へ? あ、えーっと、アステマ・コロンゾン・リ・ヴァルヴェールローランドよね」
「堕天使と悪魔の名前に、ヴァルヴェールローランドって何やろ?」
「ヴァルヴェールって所の首領様って意味ね。要するに貴族よ」
 一体何の話がしたいのか、恋慈の話題かアステマの話題か行ったり来たりな質問にもアリサはぽんぽん答える。何だか揺さぶりをかけられているような気分である。
「その日、恋慈さんから伝言あったよね」
「伝言って言うか、はやてちゃんにもヨッロシクぅ~♪ みたいな気持ち悪い捨て台詞ならあったけど」
 酷い言われ方だね、となのはが呟いたが、それは空耳として処理しておくことにした。
 へぇ、と一度はやては曖昧な返事を返し、まじまじアリサと目を合わせながら少し黙った。最近気がついたが、はやては何か深く考えている時、一点を注視している癖がある。
 もう質問は終わりだろうかと思ったくらいに、はやての表情が一転した。
 さぁっと、顔色が青く。
 頬が引き攣って。
 嫌な考えでも思いついたかのような表情だった。恋慈が真面目に気持ち悪い声を上げている姿でも想像したのだろうか。
「あ、ごめん……恋慈さんのその捨て台詞もう1回ええか?」
「え? だから、はやてちゃんにもよろしく、って」
「それ、間違いないか?」
 念を押された。
 間違いないかと聞かれても、あれは数日前の話であるし、一言一句間違えず完璧に覚えているっていう訳でもない。だが、これで大体間違いはないはずである。
 少し思い出し、やはりそんな台詞だったなと確認しながら、うん、とアリサは肯いて答えた。

「恋慈さん、私の事を “はやてちゃん” って呼んでたんやな?」

 間髪入れず、はやてが更に念を押して来た。
 真面目な顔で。
「まあ、そうね……あの人って基本的にそんな呼び方するし。何て言うか、小学生は完璧子供扱いって感じだし」
 はやて的にはきっと大切な問題なのだろうと、それを肌で感じながら、アリサはきちんと答えた。呼ばれ方の何が大切なのかは分からないが。
 ぴたりと、その返答にはやてが固まる。何かまずい事でも言ったのだろうか。
 仕事の事で何かあったのかと思い、ちらりとなのはの方を見るが、なのはも訳が分かっていないのかきょとんとした表情ではやてを見ていた。
 再びはやての方に視線を戻すと、深い溜息と共にうつむいている所であった。
「さっきからどうしたのよ?」
「……いやな………なんつぅか、その」
 歯切れの悪い台詞。顔は上げていない。
「意外と、単純なカラクリやったんやなと――」
 顔を上げていないのに、微かに見えるそれだけではやての顔が青い事だけは分かった。恋慈の呼び方1つだけなのに、はやてにとってそれは重要な事なのだろう。
 もう一度なのはの方を確認すると、なんの話なの? とでも言うような目線と噛み合った。何の話かと聞かれても、それはアリサも知りたいところである。
「教授さんやったら、私の事どう呼ぶやろな?」
「ん? さぁ……でも、すずかの事は月村って言ってたし、私はバニングスって言われてたから……」
 呟くかのようなはやての声に視線を戻して、アリサは少しだけ考えてから答える。
 あのアステマの性格からして、多分はやてならば普通に 『八神』 と苗の名前を呼ぶことだろう。
 はっきりとは答えていないが、それでも呼ばれ方は簡単に予想できたのか、そやね、とはやては一言だけ漏らしてから再び黙り込んだ。
「でも、最近縁ちゃん変わってきたよね」
 黙りこんだはやてに変わって話を切り出してきたのは、なのは。
 また縁関連の話題か、とアリサは一瞬だけ言葉に詰まる。あまり縁の話題は振って欲しくない。痛いのだ、胸が。いや、心が。
 アリサが言葉に詰まった一瞬、それは場に沈黙が下りた一瞬であった。
「……前から縁は変わった奴よ」
「あやや、そういう意味じゃなくってね」
 間を置いてから、若干平坦な声でアリサは返す。もちろん、なのはの言いたい意味とは全然違うということは分っている。本当だったらもう少し茶化した口調にしたかったのだが、返答を急いだあまり変な感じになってしまった。
 はやては何かを考え込んでいる。すずかは、俯いたまま沈黙を守っている。なのはの言葉に返すのは、アリサしかいなかったのだ。だからアリサの沈黙が場の沈黙に直結してしまう。
 しかし、縁の話題を口にするのはかなりの抵抗があった。
 縁の名前を口にするだけで、その姿を心に描くだけで、甘ったれた自分が縁に会いたいと叫ぶのだ。イライラしてくる。
 その名前からは遠ざかりたい。傷つけてしまう前に離れたい。
 でも、近くにいたい、離れたくない、そう思ってしまう自分は確かにいる。それが甘ったれじゃなくて何と言うのか。
 皆に見えない位置で、ぎゅっと拳を握った。
 右手で。
 痛くなかった。
「よく喋るようになった、って言うのかな。友達も増えたよね」
 何やらアリサの機嫌が少し悪くなったと気付いたのか、なのはが慌てて言葉を続けた。今更だった。
 縁は自発的に喋るようになった。理由は知らない。
 喋るようになったから友達が増えた。気に入らない。
「フェイトちゃんとも仲直りしたみたいだし、色んな人とお喋りしてるし、去年の時とは全然違うよね」
「そうね……なのはなんて縁の事は眼中にすらなかったのにね」
 続けたなのはの言葉に、返した言葉はどうしても刺を含んでしまっていた。その刺はなかなか痛かったのか、なのはは苦笑するしかなかった。
 そう、ゴールデンウィークが終わって暫く経った頃、アリサが縁という子を覚えてるかと聞いた際には、結局フェイトに教えられるまでなのはは縁の事を思い出す事が出来なかった。今でこそ仲が良くなっているものの、最初はそんなものであった。
 自分だってそうだ。縁がアリサの前の席になるまで、去年も同じクラスであった事を忘れていたのだ。それだけ地味で、目立たなくて、喋らなくて、協調性のない、そんな奴だったのだ、縁は。
 それを思い出すと、だいぶ変わった、1ヶ月ちょっとで。
 1ヶ月と、ちょっと。
 縁との付き合いは、結局それだけなのだ。
 それだけ、なのに、だいぶ深く関わってしまった。
 気付けばいつも心配していた。
 気付けばいつも振り回されていた。
 気付けばいつも後処理ばかりしていた。
 気付けば、好きになってしまった。
 いや、最初から好きだった。一目惚れだった。
 そして今、縁から離れようとしている、自分勝手な理由で。
「でも、やっぱり縁ちゃんの一番の友達って、アリサちゃんだね」
「はは……」
 今度はアリサが苦笑する番だった。
 堪えた。機嫌を直してもらおうと思ったのだろうか、なのはのその言葉は。


「やめてよ、気持ち悪い」


「……え?」
 漏らしたアリサの声は、酷く冷淡になっていた。
 一瞬、なのはは何を言われたのか理解が出来なかった。
「あいつが友達とか、やめてよ、気持ち悪いわ」
 視線をまっすぐ、なのはに合わせた。
 驚いたような、怒ったような、哀れんでいるような、様々な感情が入り混じり唖然とした表情のなのはが映る。まるでテレビ越しでドラマを見ている気分であった。
 酷いことを言っている。
 いや、これから言う。
 もうすずかには宣言している。構うもんか。最初の一歩はもう昼に踏み出している。縁に嫌われる、それで良い。後は転がり落ちていくだけなんだから。
「ちょっと世話焼いてあげたら縁が勝手に私の周りをちょこまかして、勝手に友達だ友達だって騒いでるだけじゃない。良い迷惑よ、ホント」
 鼻で笑うように言ってやった。
 胸が痛い。
 心が痛い。
 今までの比じゃない。
 捻じ切れそうだ。釘を打ち込まれているようだ。痛すぎて体中に響く。頭痛もしてきた。
 言いたくない。
 縁の悪口なんか、言いたくなんかない。
 縁の事を喋るなら、縁の美点しか口にしたくない。
 それでも、口は勝手に動いた。
 止まらなかった。
「って、良い迷惑どころか、縁に纏わり付かれてから迷惑だらけじゃない。怪我も事故も後処理ばっかり押し付けられて、常識の欠片も無かった奴に常識教えて、そうそうご飯も半分食べられた日もあったわね」
 考え事をしていたはやての視線を感じる。流石に驚いて思考を一度中断したのか。
 すずかは俯いたままだった。アリサの心内を知っているすずかは、それこそ何も言えなかった。
 そしてなのはは、顔色を変えていた。
「アリサちゃん……なに、言ってるの?」
 問われる言葉。
 怒りを押し殺したような、震える言葉。
 怒ってる。当然だった。
 それで良かった。
 怒れ、驚け。私は縁が嫌いなんだ。大嫌いだ。
 それだけ知ってくれれば、アリサは良かった。手段は問わない。
「ちょっと優しくしただけで懐くような縁が鬱陶しくて迷惑だ、って言ってるのよ」
 嘲笑うかのように、歌うかのように、きっぱりと、返した。

 アリサは冷静ではなかった。焦っていた。苛立っていた。
 確かに、縁を悪く言い、自分が縁を嫌っているのだと言う態度を見せるのは、縁から離れるには有効な手段の一つではあった。
 縁を悪く言えば、縁に対して負の感情を持っていないなのは達は必ず縁を庇うだろう。それどころか、なのはは縁に対して絶大な恩がある。塞ぎ込み、深く悩んでいたところに、助言をしたのは他ならない縁だからだ。これでアリサから縁を庇わない訳がない。
 そうすれば自然と、縁をアリサから守ろうとして、結果としてアリサを遠ざけるだろう。
 要するに、強引に縁へなのは達を味方させるのだ。アリサの立ち位置は悪役だから、必ず縁を守ってくれる。
 ただ、それはアリサの心情を知るすずかは別として、なのは達とも絶縁するという意味を含む。
 が、それは仕方の無いことだとアリサは考えた。
 縁だけがアリサから離れたら、縁はアリサのグループに関われなくなる。それは縁からなのは・フェイト・はやて・すずかという、漸く心を開いて出来た4人の友達を奪い上げるという意味も含むのだ。だとしたら離れるのは縁じゃない、自分が縁から離れるのだと、アリサは考えていた。
 自分だけが孤立すれば良い。
 それで縁を傷つけないで済むならば。
 それで縁を汚さないで済むならば。
 縁を好きになった罰なのだと思い、そんな孤立くらい耐えられる。
 そう考えた。
 もしもアリサが冷静だったら、そんなことは考えなかっただろう。縁から離れなくてはという事ばかりを考えてしまい、気が焦っていた。だから気がつかなかったのかもしれない。
 単純な話だ。
 その手段を用いる前提条件は、なのは達とアリサの友情が薄く弱いものでなくてはならないからだ。でなければ、縁を守る為だけに、アリサと絶縁などありえないからである。
 そして何よりも、この場にフェイトがいないのだから、最も確実かつ有効な手段があるのに気付かない筈がなかった。しかも、一番単純な手段だ。
 そう、すずかにしたように縁が好きなのをカミングアウトし、そしてきっちり離れなければならない理由を説明すれば良かっただけである。なのはやはやてならば、不満はあるだろうがしっかり説明さえすれば必ず納得してくれていたはずである。
 ただ、フェイト……本物のホモセクシャルがいた場合、アリサの説明する理由では絶対に納得しないだろう。更にはなのはと肩を並べるほどの頑固者だ。しかし、現実としてフェイトはこの場にはいない。
 チャンスだった。
 チャンスだったのに、アリサは冷静じゃなかった。
 確かにカミングアウトは覚悟もいるし、そして失恋を態々説明するのは死にたくなるくらいに苦しい。だから無意識に避けてしまった。
 しかし、アリサのとった手段は、最悪ともいえるカードであった。

「冗談、だよね?」
 震える声。震わせているのは、間違いなく自分。
 はやても何か声をかけようとしたが、言葉が思い当たらなかったのか開きかけた口はすぐに閉じられた。
「冗談? 何処に冗談なんかあったかしら?」
 鼻で笑った。
 そうだ、本当だろうが嘘だろうが、冗談でこんな事言うもんか。
 ぎりっ、となのはから奥歯を噛み締めたような音が聞こえた。
「アリサちゃん―――自分が、何言ってるか分かってるの!?」
「何度言えば良いのよ、私は縁が嫌いって言ってるの。生理的に肌に合わないわ」
 机を叩き、なのはが食って掛かった。
 それで良い。
 きっぱり返したアリサの言葉に、反射的になのはの右腕が跳ね上がったが、それはすぐに戻される。殴りたかったんだろう。数年前のなのはなら、確実に手が出ていただろうに、成長している。
 戻した右腕が震えている。気を抜けば、即座に手が出る、そんな感じ。
 殴っても良かったのに。そう他人事のように思ってしまう。
「何でもかんでもすぐに頼ってきて鬱陶しいし」
 嘘だ。
 頼られれば、凄く嬉しい。
「何回注意したって同じような事をして怪我するし」
 本当だ。
 でも、そんなのじゃ嫌いになれない。
「いつの間にか私と一緒にいて当たり前みたいな顔してるし」
 嘘だ。
 一緒にいて当たり前みたいな顔をしているのは、自分だ。
「あの作り笑いだって仮面みたいで不気味だし」
 本当だ。
 にこーっとした作り笑いなんかよりも、花が咲くような本当の笑顔の方が何倍も可愛いのだ。
「それに、アンスとかダサいニックネームで呼んでくるし。正直センス無いわよね、笑っちゃうわ」
 嘘だ。
 アンスと、そう呼ばれれば心が跳ねるのだ。
 最初の頃は変な呼ばれ方だとは思ったけど、今じゃ縁から呼ばれるのにこれほどしっくりくる呼ばれ方は無いと思っている。いや、縁以外にこの呼び方を許可なんか絶対にしない。
 かたかたと、なのはが震えている。
 顔が真っ赤だ。怒りの色だ。
 友を大事と思う、そんな彼女にとってはとても許せない発言を、今、している。それも、恩がある友人の悪口。きっと、腸が煮えくり返っているだろう。
 ああ、なのはとは長い仲だったのに、ここまで怒りを露にした表情を見たの初めてだ。
「ア――アリ―――サちゃ……」
 震えの余り、名前を呼ぶのすらままならない。
 どこまでも他人事のように、アリサはなのはを眺めていた。
 
「……私、縁とは友達なんかじゃないわ」

 ぱん、と弾けるような音がした。
 視界が思いっきり横にブレた。
 遅れて、視界が動いた方向とは逆の頬から痛みが追いかけて来た。
 ぶたれたか。
 冷え切っていた頭で、アリサは冷静に状況を把握する。
 なのははよく我慢した方だと思う。手を上げて当然だった。だって、なのはに非は何もないのだから。
「――――」
 だけど、予想していた罵声は浴びせられなかった。
 怒りの余り声すら失ったか。
 痛みを覚える頬を気にする事無く、アリサはなのはの方へと顔を向ける。
 顔を真っ赤にして、怒りの表情を湛えたなのはがそこにいる。アリサはそう予想していた。
 しかし、現実はどうだ。
 戻した視界に映ったのは、赤い顔のなのはじゃなかった。
 青褪めた顔の、なのはだった。
 怒りの表情なんか湛えていない。唖然としたような、呆然としたような、そんな表情であった。
 右手はアリサの頬を思いっきり張り飛ばし、振り抜いた格好のまま固まっていた。
 そして、なのはの視線は、アリサではなくアリサの後ろへと向けられていた。
 なのはだけじゃない。
 はやても、アリサの後ろへと真っ青な顔で視線を送っていた。
 すずかですら、同じく怖い物でも見るかのような視線をアリサの後ろへと向けている。

 予想がついた。

 自分の後ろに何があるのか。

 自分の後ろに誰がいるのか。

 どうしたの? なんて聞かねばならない程、アリサの頭の回転は鈍くない。
 この状況で3人が顔色を失う理由など、簡単に予想がついた。
 ずきずきする。
 胃が。
 頬が。
 胸が。
 心が。
 その痛みを和らげるかのようにアリサは大きく息を吸い、吐く。
 振り向いた。











 ジャージを脇に抱えた縁が、教室の後ろのドアに立っていた。












―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 アリサが凄く嫌な子になっています。凄く情緒不安定な子になっています。お待たせしました、クロガネです。
 夏休みに入ってしまい地獄の日々が……地獄の日々が……やっぱり事故多いねぇ……
 さっくりすずかがフられて、アリサが暴走して、それだけなのに何だか書くのに時間が掛かりました。そして書きながらクロガネ自身が鬱になりそうだ。でも、これから更に突き落とさにゃいけませんからなぁ。
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10件のコメント

[C235] 魔法の使えない魔法使いの魔法 35

更新、お疲れ様です

まぁ 展開的に必要なシーンかも?とは思いますが、どこまで人として堕ちていくのか楽しみですよ?
(同性愛が、と言う事ではありません)

[C237] おー・・・・

おじちゃん、死んじゃう
早く砂糖を・・・・ぎぶみー糖分・・・
  • 2008-07-27
  • 投稿者 : ぎるばと?
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[C238] コメントありがとうございまーす

〇あんずさん
 書いているクロガネ本人がベタだなぁ、と思いながら書いちゃいますが、展開には必要ですし。どこまで堕ちるかはお楽しみに……

〇ぎるばと? さん
 砂糖? ふふ、しばらく無いよ。
  • 2008-07-27
  • 投稿者 : クロガネ
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[C239] 昼ドラってレベルじゃねえ。

何というか最悪の状況、縁もすずかも大丈夫か!?
何かブラッディーでバイオレンスな欝展開になりそうな予感… 最近の子どもがこんな事言われたら自殺しかねんぞ、鮮血の結末一直線か? ガクブルガクブル
  • 2008-07-27
  • 投稿者 : ミヅキ
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[C240] コメントありがとうございまーす

〇ミヅキさん
 そもそも昼ドラに小学生は取り上げないと小一時間……状況は最悪ですが。
 自殺するにしても飛び降りはちょっと……
  • 2008-07-28
  • 投稿者 : クロガネ
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[C241] キ、キツイ

うああぁぁあぁ(泣)
すずか・・・(泣)
いや、もうわかってたんですが、いざこういう場面を読むとキツイですね。

個人的にはすずかはもうアリサ以外好きにならないほうが嬉しいんですが・・・(すみません、アリすず好きなんで)
というより、今もそういう意味での好きなんですか?
  • 2008-07-29
  • 投稿者 : りんご
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[C242] コメントありがとうございますー

〇りんごさん
 書いているこっちも辛かったという罠が。クロガネもアリすず好きですしねぇ……
 現段階ではまだ そういう意味で好きなんでしょうけど、これからは?
  • 2008-07-29
  • 投稿者 : クロガネ
  • URL
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[C244]

更新お疲れ様です。

なんとも心の痛む回でした……。
すずか玉砕。でもきちんと向き合っての事だし、それはいい。
問題は縁、というよりアリサの縁に対する諸々ですね。
淫夢にレイプ未遂、好きになっちゃらめぇ、というかなれない環境、状況?
そんな諸々に追い込まれちゃってますね。
縁に聞かれちゃったし、魔王様降臨の危機も含めてガクブルですよ。あとなんか次元犯罪者に目つけられてるかもだし、ぴんちぴんち。

あとはやてがなんか気づいたのはなににきづいたんやろー?
  • 2008-07-31
  • 投稿者 : 春都
  • URL
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[C245] コメントありがとうございマウス

〇春都さん
 すっきりしない、嫌な回です。しばらく嫌な展開が続きます。
 精神的にも立場的にもヤバい状況のアリサ。主人公ですから追い詰めるだけ追い詰めようかと(サド
 はやては――うん、丸分りかなと。

 なのはの映画化決定かぁ……
  • 2008-07-31
  • 投稿者 : クロガネ
  • URL
  • 編集

[C348]

講義→抗議

最後には仲直りして欲しいなぁ(落ちてくのは嫌
  • 2008-10-31
  • 投稿者 : A
  • URL
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Appendix

うぇぶ拍手

拍手になります。コメントもどうぞ。

4/6更新 リリカルなのは、短編と呼ぶべきかネタと呼ぶべきか考えた結果これはクロガネ式妄想劇と呼ぶべきなんじゃないのかなぁという曖昧な結論に落ち着きました、みたいなお礼ありです。

魔法の使えない魔法使いの魔法

注意事項!

プロローグ

第1章 『海鳴 縁という少女』
       
基礎情報 第1章終了時点
第2章 『悩み』
         
基礎情報 第2章終了時点
第3章 『誰が為の剣』
           
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第4章 『教授』
           
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第5章 『恋ですか?』
           
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第6章 『切実な事情、迂闊な発言』
           
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第7章 『縁と看視者』
           
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第8章 『その言葉、届かない』
           
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第9章 『失意』
               
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第10章 『挫けぬ雷刃』
           
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第11章 『届け、星の光!』
             
基礎情報 第11章終了時点
第12章 『祝福される騎士と風』
 
第13章 『アリサ・バニングスという少女』
第14章 『そして、日常』


本筋関係ないパラレル短編
           

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クロガネ

Author:クロガネ
 鉄と書いてクロガネ。文系の皮を被った理数系。人種差別主義。有神無宗派論者。白衣の天使。瞑想で一日潰したことがある。萌えにも燃えにも反応する。二次元より三次元の方が楽しいと思う。宇宙人未来人超能力者魔法使い等特殊な人間じゃなくて本当に良かったと思っている。変な人といわれる。仲間と言うのはチャレンジャーな人、友人と言うのは変わった人、知人と言うのは普通な人。
 これがクロガネ。
 とりあえずメールはこちら↓
kurogane951@yahoo.co.jp

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