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[C161] 1ばんげと♪

ほんとだ、ざっふぃーしゃべるんだ(笑)
ほんと、クロガネさんのアリサと縁は可愛いな~♪
バーニングアリサに期待(違
  • 2008-03-30
  • 投稿者 : ぎるばと?
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[C162] えっと2ばんげっと?

おひさです。アリサ、デレを通り越して色ボケになる。気持ちを伝えたいけど伝えたら壊れてしまう・・・ジレンマですね。釘宮キャラは吹っ切れると強いから何とかなるさ!

はやて自信喪失、登場キャラが揃いも揃って甘え方も知らず、甘える対象が居ないケースが多いのが、とらハシリーズからの伝統?ですね。はやての場合は見本となってくれる大人が少ないのも不利ですよね。 

私自身、先週大学を卒業しましたが、今でも親には迷惑かけっぱなしで、とても「自分は大人である」と言い切れないのが少々コンプレックスとなっています。それ自体も親への「頼り方」を22年間で身に付けたから出来ることです。

学校は勉強だけでなく、人間関係を学ぶ所でもあります。10歳にも満たない内から社会に出して、周囲との対人関係が上手く行くとは私は思えません。
  • 2008-03-30
  • 投稿者 : ミヅキ
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[C163] ではクロガネが3番ゲットー

○ぎるばと? さん
 登場そのものは早かったんですけどねぇ、ザフィーラ。しかし寡黙というのは逆に小説じゃ存在が希薄になっていく。
 バーニングに期待されても……ふふ

○ミヅキさん
 もうクロガネ自身が久しぶりです。吹っ切れたら強い釘宮キャラといえば、真っ先に思いついたのがリゼルとか。あれは最初から (頭の配線が) 吹っ切れてるなぁ。
 はやてはそもそも学校生活すら他と比べて短いですしね。とらハシリーズのキャラって、誰も彼もがトラウマ持ちなんです、それが良いんですが。
 
  • 2008-03-30
  • 投稿者 : クロガネ
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[C164] 不吉な4番~♪

あ~ザフィーラって喋れたんだよね~忘れてた。
アリサの葛藤が面白かったですね。これからの展開楽しみにしています。
  • 2008-03-30
  • 投稿者 : ジオ
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[C165] そして5番滑り込みー!

 タイトルがどんどんとおかしな方向に……

○ジオさん
 喋れるよ、喋れますよ (泣)!
 アリサにはどんどん悩んで落ちるとことまで堕ちていただきますよ。
  • 2008-03-30
  • 投稿者 : クロガネ
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[C166] まほーしょーじょリリカルなのか?

いやだなぁ、犬がしゃべるわけぇぇぇあうぉいえーぃ。

甘ーいと思った瞬間、暗ーい。
あれですな、おばけ屋敷のなかでアベックと遭遇したような、ぇ、違う?

まぁ、まともな環境で育ってるキャラがアリサだけ(それでも大富豪)ってのは、魔法少女アニメとしてリリカってないと。
ツンデレが一番まともってどうでしょーか。でもそこがいい。それだからこそいい。

といゆうか、リリカルってなんですか?わかりません。もうゲシュタルト崩壊しすぎてなにがなんなわなわなわ
        
  • 2008-04-01
  • 投稿者 : TFJ
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[C167] 6・7番は略奪されたし

しまつた!
タイトルにきづけなんだ。なんたる不覚
  • 2008-04-01
  • 投稿者 : TFJ
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[C168] クロガネが華麗に8番登場

 いや、別にタイトルあわせなくても良いのですが……

○TFJさn
 なにか壊れ気味のTFJさんいらっしゃい。
 アリサはリリ箱でああいう扱いでしたから、クロガネとしては普通の家庭で普通に育った、っていうのが嬉しいのですけどね。ああ、普通じゃねぇ、富豪だ。
 甘いだけじゃ済まさないクロガネでした。
  • 2008-04-02
  • 投稿者 : クロガネ
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[C169] 9番か・・・

春ですか~  春ですよ

恋ですか~  恋ですよ

アリサが縁のお嫁さんになりそうな勢いですね~


ダメだ 許さん 縁のお嫁さんはこのお(トキューン)・・・


大阪のイベントは大変楽しゅうございました WWW
  • 2008-04-02
  • 投稿者 : おにがみ
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[C170] 10番貰ったぁぁぁ!!

○おにがみさん
 縁か!? アリサじゃないんだ!?
 しかしクロガネは、このまま甘い展開にする気はさらさらなかったりするのです。ここで甘くなったら、まずクロガネが耐えられないから。

>大阪のイベントは大変楽しゅうございました WWW
 こ、こんにゃろー(涙目
  • 2008-04-02
  • 投稿者 : クロガネ
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魔法の使えない魔法使いの魔法 29

「……暇ねぇ」
 憎たらしいほどに晴れた空を窓越しに眺めながら、ぼけーっと気の抜けた表情のまま勉強机に頬杖ついてアリサは呟いた。机の上には参考書と文字がびっしりと詰まったノートが広げられており、参考書は中学3年の高校受験向けの物であった。
 トルコのアイスよりも延びのある溜息を1つ、アリサは頬杖をついたまま参考書に目を落とした。
「暇ねぇ……」
 ぱたんと参考書を閉じ、再び窓越しの空を見上げる。
 アリサ・バニングス。昨日の今日なので、大事をとって学校を休んでいる。
 休んでいるのだが、休めば休むでやることがなかった。時間があるからと勉強してみれば、ノルマの4倍を既に終了させてしまい、ゲームをしようにもまるで気乗りがしなかった。
 ちらりと時計を見ると、もうそろそろ学校が終わる時間ぐらいだ。
「……行きたかったなぁ」
 ぽつりと言葉を漏らすと共に、机の上にぐてりと倒れる。なんと言うかもう、やる気がまるで起こらない。
 自分が1人黙々と参考書と戦っている最中、縁がなのは達と楽しく話をしているんじゃないかとか、縁が他の誰かとご飯を食べているんじゃないかとか、そう思うと何か虚しかった。
「……って違うでしょ!」
 突然アリサが机を叩いて体をがばっと起こす。
 “縁が” とか何故に縁限定!? 違う、違うんだ、自分が黙々と参考書と戦っている最中になのは達が縁と楽しく会話を――ってさっきと順番が違うだけじゃん!
 畜生、これじゃあ縁がいないから寂しいみたいじゃないか。
 つか、これではなのは達に嫉妬してるみたいじゃないか。格好悪いぞアリサ・バニングス。もっとクールになるんだアリサ・バニングス。
 別に良いじゃないか、縁が何処の誰と楽しく会話してようと。別に良いじゃないか、縁が何処の馬の骨とも分からん奴と飯を食べようと。
 よし、落ちついて考えようじゃないか。
 例えばそうだな、縁がはやてと一緒に……だとどんなセクハラを受けるか分かったものではないので、フェイトと一緒に……ってフェイトは微妙に縁が避けてるからなぁ。無難にすずかと一緒にご飯を食べているとして。
 
 む、月村さん、そのおかずは何だ?
 これ? 一口食べてみる?
 いいのか?
 うん、いいよ。はい、あーん。
 あーん。

「ぬぁ・ぁ・ぁぁぁ・ぁぁ・ぁ……」
 待ちやがれすずか、縁にそんな事をするんじゃねぇ。そして縁もそんなに嬉しそうにしてんじゃねぇ。
 頭を抱えながら自分の妄想で勝手に唸り、気が済んだのかアリサはそのまま机に頭突きするかの勢いで倒れる。
 あー、畜生、寂しい。
 心の中だけで呟いてから、ふと、縁が今日見舞いに来てくれると言っていたのを思い出す。
「はぁ……早く来ないかなぁ……」
 誰に言う訳でもなく漏らして

 こんこん

「ぅひゃい!?」
 跳び上がった。
 比喩ではなく、確実に椅子から浮いた。ついでに口から心臓が跳び出るかと思った。
 ドアのノックだ。狙ったかのようなタイミングだな。
 アリサは慌てて体を起こして振り返る。
「ぁ、はい!」
『失礼しますお嬢様』
 お嬢様はやめい。そんなつっこみは口にはしない。
 がちゃりとドアを開けて入って来たのは、お手伝いさんの1人。
「お嬢様、海鳴 縁様がお見えになっています」









 弾むような心を顔に出さないように注意して、何だもう来たの? みたいな表情を取り繕いながら、縁を待たせている来客室のドアを開けてみると、そこには縁――
 ――と、何故かいる3人のお手伝いさん。
「ねぇねぇ触って触って、縁ちゃんのほっぺた柔らか~い♪」
「わぁ、ホントぷにぷにしてる~♪」
「縁ちゃんぽかぽかしてるー、もうこの子欲しいー!」
「髪伸ばしてフリフリのお洋服着せたいね~♪」
 右からは抱きつかれ、左からは頬を突かれ、後ろからは撫でられて、にこーっと笑っている縁の口端がやや引き攣っていた。
 何だこの状況?
 別に何の理由は無いが、この光景を見ていると、なんとなくイラっと来た。別に何の理由も無い。嫉妬とか、羨ましいとか、何で触られたり抱きつかれたりしても抵抗しないんだよこの野郎とか、そんな理由はこれっぽっちもない、たぶん。いや、少しくらいはあるかもしれない、少しだけ。
 ドアを開ける音に気がついたのか、それとも気配にでも気がついたのか、横を向いた縁の視線がアリサの視線とばっちり噛み合う。
「ああ、アンス、お邪魔している」
「――やっほ、待たせちゃったわね」
 視線が合った瞬間、安心したかのようにほっとした表情を見せた縁に、何故かアリサもほっとした。
 瞬間的にイラっときたのはすぐに流れ、アリサも笑顔で片手をあげて挨拶を返す。そしてその声に、3人のお手伝いさんの動きがぴたりと止まった。
「……あ、ども」
「いぃ、いらっしゃませー」
「おおお待ちしてましたぁ」
 各々に、これはマズい場面を見られた、というような顔をしていた。
 まあ、客人を人形扱いしている時点で、そりゃマズいわな。心の中で呟きながら、アリサはにっこりとした極上の笑みを3人に向ける。
「とっとと仕事に戻りなさいね」
「「「………はい」」」
 素直でよろしい。
 笑顔な分だけ恐ろしいから引き下がったのだという事は知らず、素直にその一言に引き下がる3人にアリサはちょっとだけ好感を覚えた。もっとも、先の分で相殺だが。
 失礼いたしましたー、お邪魔いたしました―、と3人の内2人は一応丁寧にお辞儀しながら退出するが、1人だけアリサの傍に近付き、お辞儀をするようにしてアリサの耳元に口を近付ける。
「お出しするものは、日本茶の方がよろしいですか?」
「ん、ええ、どうも紅茶は飲み慣れてないらしいの。できれば煎茶で―――良く分かったわね」
 急に真面目にまともな質問をされる。
 はて、自分は縁の好みをこの家の誰かにもまだ伝えていなかったわよね、と思いつつ最後の言葉を小声で聞いてみると、にまぁ、というような笑みを返された。地雷踏んだか。
「縁ちゃんのお肌、お茶の良い匂いしますもの」
「……まあ、確かに」
「あら、お嬢様はもう確認済みですか?」
「絞めるわよ?」
「いやん、軽い冗談です」
 失礼しましたー、と笑顔のまま逃げるようにして最後の1人も退出。まったく。
 閉まるドアを一度睨んでから、溜息と共に縁へと振り返る。
「いらっしゃい。大変だったわね」
 おもちゃにされて。
 言外にそう含まれる言葉に、元気な人達だな、とフォローになっていない言葉を縁は返す。
 制服姿にいつもの鞄、学校から直接来たんだろうか。縁の隣の椅子へと腰を下ろしながら、アリサは時計を見上げつつ考える。それにしては随分早いな。
「アンスはもう大丈夫か?」
「いや、大丈夫かもなにも――」
 縁の言葉にアリサは時計から視線を移す。
 相変わらず、縁の視線はまっすぐアリサの目を捉えている。
「風邪ひいた訳じゃないんだから、元気過ぎて困ってるわ」
 冗談のように返したその言葉に、縁の目が一瞬細まる。
 そうか、なら良かった。
 それだけ縁は返し、何事もなかったかのように笑顔を向ける。
 分かっているさ。縁が聞きたかった “大丈夫” っていうのは、そういう意味なんかじゃないのは。
「そうだ、今日のプリントがある。それから授業のノートの写しも」
 それ以上話を続ける事なく、縁は話題を変えながら鞄を開く。一応場の空気を優先したらしい。
 ほら、と渡してきたのは、言葉通り授業のプリントとコピー用紙。ノートを写したコピー用紙には、綺麗とも汚いとも言い辛い独特な文字がびっしりと詰っている。国語の授業に板書したノートは、何故か最初の半分くらい関係ない計算式が埋まっていた。
「……前から思ってたんだけど」
「ん?」
 渡されたノートのコピーを見ながら、ぽつっと縁に言葉をかける。
「縁って授業の時にずっと計算してるけど、これって何の式なの?」
 かちっと鞄を閉めてから、縁は鞄に移していた視線をもう一度アリサへと向ける。
 相変わらず、綺麗な瞳。
「うん、自立行動プログラムの計算式の1つだ」
「ふーん……ゲームとかの?」
「いや、ロボットのようなやつだ」
「この式は?」
 国語のノートのコピーに写った式の一部を見せながら聞くと、それを覗き込むようにして縁が顔を近付けた。
 ぴくっと、驚いたようにアリサの顔が一瞬だけ引いたが、それでも平静を装いながら肩を寄せる。これくらい寄っていたかな? もうちょっと? と少しづつ肩を寄せると、縁の制服とちょこっとだけ触れ合った。それだけなのに、どきどきした。
「ああ、この式は思考ルーチンの一種で、味方を守る為の思考だ。正確には信号により味方を認識する為のプログラムの一部、だな」
「何かのロボット競技のでも作ってるの?」
「そんな感じだ。たまに教授も作るのを手伝ってくれる」
「教授さんねぇ……」
 本当にこいつは何をやっているのかが謎だと感じる反面、その謎を無性に知りたくて堪らない。
 いや、というか、なんだろう。縁という人間の全部を知りたい、みたいな――
「~~~~っ」
 反射的に血液が沸騰したかのように赤くなった頬を隠すように、片手を顔に当てて縁から視線を逸らした。
 コピー紙から視線を戻し、縁は不思議そうに首を傾げる。勘弁してくれ、そのいつもの行動すら、可愛く感じてしまう。
 ああもう、自覚すると思考に歯止めが効かなくなってくる。縁の全部が知りたい。身体も、生活も、好みも、その心も、全部知りたい。これが探究心ではなく独占欲と言うのは分ってはいるが、何故だか非常に恥ずかしい。
 てか、真っ先に “身体” とか思いつく自分の脳はどうにかしている。沸騰してるかシロップ漬けになってるに違いない。まるで盛りのついた猿か身体にしか興味ないみたいじゃないか。いや違うそうじゃない。駄目だ駄目だ駄目だ。とにかく落ち着け。頭の中に桜の花が舞い乱れ、非常にピンクい考えが止まらなくなっている。とにかくその最初のフレーズをリアルに想像しようとしているその逞しい妄想を止めてくれ。ああ、でもきっとバストサイズは
「アンス、どうした顔が真っ赤だぞ!?」
「AAかなってうわぁっ!」
 縁の声にはっと気がつき妄想世界から抜け出したアリサの眼前には、心配そうな表情で覗き込む縁の顔が。
 ドアップで。
 近っ!?
 反射的に仰け反り距離を取ろうとしたが、それより早く縁が両頬を押さえて動きを止めた。流れるような動きとはこの事を言うのか、もしくはアリサ自身の反応が遅かったか。
「ん……」
 躊躇う事なく、本当に砂粒程度にも躊躇う事なく、縁はこつんとアリサの額に自分の額を軽く当てる。
 ドアップ。
 目の前。
 視界全てが。
 縁。
 頭の何処からか、ぶすん、という音が聞こえたような気がする。ただ単に、縁は熱を測っている。それは理解できるのだが、なにもこんなやり方でしなくても。
「……熱いな……」
 ぽつっと縁が呟くように漏らす。
 かぁぁ、とアリサは自分の顔へ更に血が上ってくるのが分かる。
 集中しているのか閉じられている縁の目から、少し視線を下げれば、唇が見えた。少しだけ近付ければ、それだけで触れ合いそうな距離だと自覚した途端、水々しいそれが何故だか以上に艶めかしく見えてしまう。
 誘っているのか?
 もしかして誘っているのか?
 普段ならば馬鹿馬鹿しい、そんな筈はない、と一笑に伏せる考えが頭の中を飛び交う。
 というか、この距離で呟くな。喋るな。吐息をかけるな。
 甘い匂いがするのその吐息が、いやそもそも縁自身から香る煎茶の微かなその香りが、どんどんアリサの思考能力を奪っていく。これは卑怯だ。
 それにしても、ああ、唇が近い。
 どんな感触がするのだろう、どんな味がするんだろう。
 薄まる思考の中、そんな疑問がぽっと出てきた。
 ちょっとだけ、ちょっとだけなら構わないだろうか。
 そう、ちょっとだけなら。
 ゆっくりとアリサは唇を近付けた。その行動に対しての疑問は、今のアリサの頭には少しも湧いて来なかった。
 ただ触れたい。
 それだけで――――

「アンス、熱がある。横になるべきだ」

 後少し、本当に紙1枚分かその位の時に、縁は額を引いた。
 真面目な顔で。
 心配の言葉と共に。
 急速に、頭が冷えた。
 そして即座に……頭を抱える。
「ア、アンス!?」
「いいいいいいいいいや、ちょ、ちょちょちょっと待って」
 突如の奇行に縁は驚いたような声をあげるが、アリサは盛大に言葉を噛みながらも左掌を突き出すようにして顔を近付けようとする縁の行動を制する。
 只今後悔と懺悔の吹雪である。
 唇に触れたいと、キスをしたいと思った。馬鹿の考えだ。そして普通にキスしようとしていた。大馬鹿者の行いだ。
 縁はただ心配していただけなのに、それに対して自分は邪な感情しか浮かんでこなかった。キスしたいだと? 死んでしまえ。
 駄目だ。
 駄目だ駄目だ駄目だ。
 まず自分が駄目だ。
 何だこれ。好きなのだと、縁が好きなのだと自覚しただけで、こんなにも違うのか。こんなにも欲望が湧いて来るのか。ムラムラするものなのか。
 邪念去れ邪念去れと、生まれてから今までこんな心理状態に陥った事がないので軽く混乱しながらも、アリサは心の中でひたすら念じる。この欲望を押さえつけるのに、今のアリサにはこんな陳腐な方法くらいしか思いつかなかった。
 深呼吸を1つ。大丈夫、落ちついてきた。
 よし、と気合を入れてからアリサは顔をあげる。
 心配なのだろう、オロオロしている縁の姿。
 可愛いとか思った自分は駄目な奴だ。
「さっきまでウトウトしててね、別に熱じゃないわよ」
 にっこり笑いながら、自分でも嘘臭ぇと思ってしまうような言い訳を一つ。
「そうなのか。それは寝起きに邪魔をしてしまった」
 そして信じやがった。
 ……いや、縁が正直に信じているかは疑問だ。嘘だと分りながらも、察して騙されているフリをしているだけかもしれない。しかし、本当に信じてしまっているという線も捨てがたい。疑えば疑うだけ、底の知れない相手だ。
 本当に信じたにしろ、騙されたフリをしているだけにしろ、ここは誤魔化した方が良いなと判断したアリサはプリント類をテーブルに置きながら笑顔のまま続ける。
「それにアレも近いから、どうしても火照っちゃって。あ、でも私のは酷くないと思うんだけどね」
「?」
「……縁、一応聞いておくけど、基礎体温って知ってる?」
「ん、ああ、知っている」
 軽い冗談のように言ったつもりだが、遅れに遅れてようやく縁は納得したようにぽんと手を鳴らして、それから一度首を傾げた。まるで、それがどうかしたのか? とでも言うかのように。
 どうしよう、自分で蒔いた種とは言え、ここで無駄に恥ずかしい話をする気にはとてもならない。と言うか、察してくれ、分かるなら。
 うーん、と首を捻ったアリサを見て、縁は何かを思巡するように少しだけ黙り、それから漸く次の言葉を続けた。
「ああ、発情期なのだな」
「生理前と言いなさい!!」
 続けた言葉は間違ってないとはいえ、言い方はあんまりだった。発情期って犬じゃあるまいに。
 ちなみに、アリサの方がどちらかと言えば恥ずかしい言葉を、しかも大声で言っているのだが本人まるで気付いていない。
 同じ事じゃないのか? と首を傾げる縁に、かなり違うのだとアリサは一言。
「ああ、そう言えば縁」
 そして、縁が変な疑問を口にするよりも早く、空かさず話題を変える事にした。

「今日、何かあった?」

 学校で、という一言が抜けてしまったが、気軽に聞いただけだった。
 生理が、じゃない、熱が云々とか言う話題から逃げるために適当に思いついた、気軽な質問だった。
 はやては学校に来たのか、とか、学校で何か面白い事でもあったか、とか、聞きてみたい事があったから、足掛かりにするための最初の一言にするつもりだった。

 しかし何故か、一瞬だけ、縁の視線が大きく左に逸れた。

 いつもまっすぐ人の瞳を見据えるような縁の視線が、逃げた。
 表情は変わらない。にこーっとした笑顔のまま。
 しかし、視線は逃げた。
 アリサのその一言で動揺したかのように。
「―――何もなかった」
 すぐに視線をアリサの瞳に戻しながら、開いた縁の口から漏れる言葉は若干淡々とした色を含んでいた。変な反応を示した縁の視線を、アリサは思わずまじりと見返してしまう。
 何故か、嘘っぽい。誤魔化しに長けている縁にしては、かなり分り易い反応だった。
 無言でアリサはテーブルの上にプリントを置く、縁への視線を固定したままで。
「八神さんも休んで、アンスもいなくて、本当に何もなかった。授業をうけて、休み時間は本を読んで……」
 にこーっと笑ったまま、縁はどこか淡々とした言葉を続けた。明らかな作り笑いであった。
 そうか、はやては休んだのか。
 最初の一言で、漸くアリサはその言葉の意味が分かった。
 なのは達は別のクラスで、自分とはやてがいなければ、縁はクラスで1人だけになってしまう。それでも縁は今まで通りマイペースに過ごすなら、それはまるで――

「まるでアンスと友達になる前に戻ったようで、寂しかった」

 そういう事だ。
 ちょっとだけ、嬉しかった。
 寂しい。
 それは大変結構だ。
 今までずっと寂しい環境にいたのに、それが寂しいのだという事すら知らなかったあの時に比べれば、それは大変な進歩だ。
 というか、縁の今の台詞を逆に取れば、アリサといるのが楽しいのだと面と向かって言っているようなものなので、結構キた。クリティカルである。キュンときた。都合良くはやての事を横に置いているが。
「そっか、寂しかったんだ……それだったら、他の子達と話せばよかったんじゃない?」
 照れ隠しのようにちょっとだけ視線を逸らしながら、アリサは答えた。
 確かに縁はクラスで仲良いのが自分とはやてだけだが、新しく友達を作ろうと誰かに話しかけたりはしなかったのか。もしくはなのは達のクラスへ遊びに行くとか。その辺り、縁は常に受身の姿勢である。
 少しだけ、縁の笑顔が苦笑いに移った。
「他の人達は、私の事を気味が悪いと思っているのかもしれない」
「―――はい?」
「もしくは怖いと思われてるのかもしれない。近付きたくないのだろう、皆、私から距離を取ろうとしている。それなのに無理に近付くのは、褒められた行為ではない」
 思わず縁へと視線を戻すと、そこには既ににこーっとした笑顔を浮かべている縁。
 作り笑いだ、無理をしている。口元が若干苦笑を含んでいる。
 とんでもない、マイナス思考を聞かされたような気分だ。唖然とした。咄嗟言葉が返せなかった。
 気味が悪いと、思われている?
 誰に? クラスメートに?
 それは酷い思い違いだ。クラスメートが縁から距離を取っているのは、決して縁を気味悪がったり恐れているからではなく、今まで空気のように希薄な存在だった縁が半月あまりで急に目立ってきたのにクラスメートの方が対応できていないだけだ。縁という人物を測りかねているのか、それとも接し方に迷っているのか、縁に向けれらる視線と言うは大半が戸惑いのような視線である。
 マズい、勘違いしてる。
 なまじ頭が回るだけに、勘違いできる材料が揃っていれば深読みし過ぎてネガティブ方面に自爆している。
「ちょっと待ちなさいえに――」
 こんこん。
 慌てて声をあげるアリサの言葉に重なるように、ドアのノックが響く。釣られるようにしてアリサと、そして縁の視線が自然とドアの方に向いた。
 誰だよ! こんな時に!
「失礼します。お茶をお持ちぃっ!?」
 ドアを開けて入って来たのは、お茶と菓子をのせたトレーを持ったお手伝いさんであった。ついついガン飛ばしてしまったアリサの視線が突き刺さってしまったのか、ドアを開いた状態のまま変な語尾と共に固まる。
 お、お邪魔でしたか?
 お邪魔でした。でもお茶は頂戴。
 は、はい~っ。
 視線だけで会話をし、お手伝いさんは若干涙目でお茶をお持ちしましたとお辞儀をしてから入ってきた。そんなに怖い目つきになっていただろうか。
 持ってきたお茶はリクエスト通りの煎茶。良い匂いがする。紅茶と日本茶どちらが好きかと聞かれればアリサは断然紅茶だが、縁と一緒に飲むならばやはり煎茶の方が良い。何と言っても縁と同じ香りだ。ああ、でも縁と同じ香りがするなら毎日だって良いかもしれない。
 若干駄目な子の思考をしながらも、口にも表情にも出さないで出された煎茶と菓子を見る。菓子は饅頭だった。純洋風の部屋で純和風の一揃い。頼んだとは言え改めて見ると異様である。
「クッキーとかが欲しいわね」
「え、煎茶にですか?」
「クッキーとか、が、欲しいわ、ね」
 繰り返し呟くアリサの言葉に、何か気がついたのかお手伝いさんの頬が少し引きつる。
「…………10分程お時間を」
「20分くらいかかっても構わないから」
「か、かしこまりました~」
 輝くようなアリサの笑顔に逃げるようにして退室。嘘臭さ全開の笑顔であった。
 礼を言うタイミングを逃がしたのか、縁は閉まったドアとアリサを交互に見てから、アリサへと視線を固定して口を開く。
「あの、アンス」
「ん?」
「そんなに長く居座りはしないのだが」
「いいのよ、気にしなくて」
 ただ単に人払いの意味なんだから、というのは伏せておいた。
 しかし私が長く居ても迷惑だろう、みたいな目を向けられたが黙殺しておく。むしろ長く居てほしいというのが本音だが、それは恥かしいので口にしない。
「そう言えばアンス」
「え、ぁ――な、なに?」
 話を切り出してきた縁に、先の続きの話を持ってくるタイミングを逃がしたアリサは一度言葉に詰まったが、すぐに気を取り直すようにして笑顔を向ける。
 さて、クラスメートへの誤解はどう解こうか。こういうのはタイミングを逃してしまうと話を戻し辛い、というか話を中断された時点で戻し難くなってしまう。お茶を持ってくるタイミングが明らかに悪過ぎた、ちぃ。
 脳内会議+舌打ちの事など1グラムも笑顔に滲ませることはない辺り、アリサのそれはプロの技術に達していた。
「もう1つ、アンスに渡す物があるんだ」
 笑顔の裏など気にする事もなく、縁は自分の鞄をごそごそと漁る。覗き見るつもりなどなかったが、ついつい見えるものだから見てしまった縁の鞄の中には、数札の教科書とノート、それから背表紙におどろおどろしい行書体のような文字で 『敗北者』 と書かれた分厚い本が詰っていた。
 こいつ、本当に何でも読むのね。心の中で小さく呟く。こういう本をカバーなどかける事なく教室の中で堂々と読んでれば、そりゃ近寄り難いだろ。
 目当ての物が見つかったのか、縁は小さい紙袋を沈んでしまった底の方から引っ張り出して――びり、と小さな音。
 あ、と縁は言葉を漏らして一度固まるが、それでも気にする事なく引っ張り出す。本に引っ掛かっていたのだろう、そのままびりびりと紙袋は破れ、引っ張り出してから縁は袋を開けるようにして更に破る。きっと縁はラッピングされた物の中を出すとき、その包装紙を破り捨てるタイプだろう。
「うん、これだ」
 破れた袋から取り出し、笑顔で差し出してきた物にアリサは1度目を落し――
「あら、ネックレス?」
 なかなか綺麗なネックレスだった。
 細い銀のチェーンに、緋色をした球体の宝石。宝石をチェーンに繋ぐ台座はかなり小さく、実にシンプルな作りだった。しかし、デザインは決して悪くはない。アリサからすれば結構好みのセンスだ。
 だが、何だろう。
 このネックレス、どこかで見た事があるような――
「お守りのような物だ。昔、教授に教わって作った」
「……作った? 縁が?」
「うん。とは言え鎖はガラクタから、石は教授から貰った物で、私がしたのは繋ぎ合わせるのと御言を彫り込んだくらいだが」
 考えている最中に言葉を返してきたその内容に、素直に感心する。
 ああ、いや、縁の部屋を見た時既に分ってはいたが、改めてその手腕を見せられると本当に手先が器用な奴だと再認識するしかない。アクセサリー系統まで自作できるのか。将来はそういう産業系のに就きたいんだろうか。
 知らず知らずにそのネックレスに魅入っていたアリサに、縁は一拍置いてから再び口を開いた。
「これを受け取ってほしい」
 反射的に視線を上げる。
 当然のように、縁の視線と絡み合った。
「え……受け取れって、これを?」
「うん」
 いや、ちょっと待て。流石にこれは……
 アリサはもう一度ネックレスに視線を落とす。
 緋色の石は、ガラス球なんかじゃない、明らかに宝石の類だ。アリサ自身宝石鑑定の眼を持っている訳ではないが、生まれてこの方宝石など吐き気がするほど見て来ている。その眼が訴える、安物の宝石ではないと。ルビーに近いような気もするが、透明感が明らかに違う。今まで見た事がない種類の宝石だ。
 いくら何でも、こんな高価なのを貰う訳にはいかない。
 なるべくやんわりと、縁が傷つかない断り文句を数パターン頭の中でセレクトしながらアリサは再び顔をあげ、口を開く――よりも前に、縁が口を開いた。
「昨日のような事は、起きてほしくない。気休めかもしれないが、これはアンスが持つべきだ」
 目が、真剣な光を灯していた。
 ああ、そうか、だから渡したいのか。
 今更ながらの予想が、ぽつっと浮かんだ。
「……一応聞くけど、その宝石、安物じゃないわよね?」
「ん、この石か? 良くは分からないが、教授が捨てようとしていたのを譲ってもらったのだ。高価な物ではない、とは思うが」
 ワンテンポ置いてから投げかけたアリサの問いに、縁は若干曖昧に答えた。おそらく縁自身、ネックレスに使われている宝石の価値を分かっていないのだろう。
 と言うか、宝石捨てるなよ教授。
「それにこれは、この国ではガラクタ同然だと教授が言っていた」
「この国って……あの人、日本人じゃないんだ」
「ああ、どこの生まれかは聞いた事がないが、名前からして生国は日本ではないだろう」
「名前ねぇ。そう言えば私、あいつ――じゃなかった、教授さんの名前って聞いた事ないのよね」
「アステマ・コロンゾン・リ・ヴァルヴェールローランドという」
 長い上に不吉な名前だ。よほどイカれた親に名前をつけられたのだろう、宗教圏内なら迫害の対象になるぞ。
 一片も舌を噛む事なく、すらすらと長い名前を教えてくれた縁には口にして言う事はなく、心の中でアリサは感想を漏らす。まあ、明らかにアジア系の顔立ちではなかったし、あの身長とスタイル、確かに日本人じゃない。
 へえ、凄い名前ね、とアリサは返しながら再びネックレスの方に視線を落す。
 縁は気付いているだろうか。いや、縁の事だ、多分気付いている。
 日本ではガラクタ同然、という事は、場所によっては非常に高価という意味である。やはり高い物じゃないか。
 それを念頭に入れた上で、アリサは思考を走らせる。受け取るべきか、受け取らざるべきか。
 あまり高価な品をタダで貰う、というのは、品には貴賎問わず対価あって然るべき、と教わって育った企業社長の娘としてはどうも頂けない。父に連れられそういった場に何度か立った身としては、差し出されたプレゼントにたっぷり込められた下心というのを嫌と言うほど味わっている。と言うか、最初の時点で感付いてしまった。
 しかし縁のこれは100%善意であり、たぶん裏がない。
 小学生相手に色目使うロリコン野郎のような意味は含まれてないし、父に対する点数稼ぎのような意味も含まれていない、純粋なプレゼント。
 困ったな。誕生日のプレゼントとかそういうのじゃない。これが明らかな安物とかなら構わないが、こうも高価な品じゃ……
 ふむ、と知らず知らずにアリサは一度だけ唸り、それからおもむろに左手首に着けていた腕時計をぱちりと外す。
 金属的な光沢を持つ、銀色をした小さなアナログの腕時計。長針と短針の伸びる中央に一粒だけ飾られた小さなダイヤが特徴で、逆に言ってそれ以外は特徴的な物がない実にシンプルな作りである。
「じゃあ縁、そのネックレス、これと交換しましょ」
「え?」
 今度は縁が言葉に詰った。
 視線が一度腕時計の方に向いてから、自分の手にあるネックレスに移動して、それから眉をハの字に落す。縁の事だ、腕時計の作りに対して自分のネックレスが見劣りしているとでも思っているのだろう。
「自分でもなのはに言ってたでしょ、物には対価が必要だって。その対価、物々交換よ」
「そんな、それは受け取れない。これは大層な物じゃないんだ。作ったのだって昔だ。割に合わない」
「あら、これだって安物よ。丁度良いんじゃない?」
 嘘だ。シンプルだけど買おうと思えばこの腕時計は結構高い。
「しかし――」
「どうしても受け取れないなら別に良いわよ?」
「え?」
「その場合は私もそのネックレス受け取らないけど」
 む、と我ながら無茶苦茶な条件の一言に縁は再び言葉に詰る。
 悩むように腕時計とネックレスを数回交互に見、そして困った様子で小さく唸った。ちょっと可愛い。
 困っている縁を見て少しだけ和んでから、アリサはふっと口元に笑みを浮かべた。
「はいはい、悩まないの。縁はこれを受け取る、私はネックレスを貰う、これで問題ないでしょ」
 ぴん、と悩んでいた縁の額を人差し指で突付いて、驚いたように顔を上げた縁の左手に有無を言わさぬように無理矢理腕時計を握らせる。
 握らされた腕時計に縁は慌てて視線を落して、再び上げる。慌てているそれが、何だか子犬のように見えた。
「ほら」
 その縁に向かって、アリサは笑顔で手の平を差し出す。作った笑顔じゃない、自然と笑顔になっていた。
 手の平に、縁の視線が向いた。言わずとも、差し出された意味は分かるだろう。
 ふわっと、縁が笑った。
 花の咲いたような、綺麗な笑顔。
 知っている。
 その笑顔は、いつも浮かべる仮面の笑顔じゃなくて、本当の笑顔なんだと、アリサは知っている。
「うん、じゃあ、これを」
 差し出した手の平に、ネックレスがゆっくりと落ちた。手に取って見ると、使われている宝石がとても綺麗なのが改めて分る。
「ありがと、大事にするわね」
「私も、大事にする」
 確かに受け取ったそのネックレスの感触を確かめるように、きゅっと握り締めながらアリサは笑うと、縁も花の咲いたような綺麗な笑顔のまま返した。
 変な気分だ。心臓はどきどき五月蝿いはずなのに、まるで気にならない、というよりも落ちついてしまう。穏やかと言うべきか。
 握った手をゆっくり開き、ネックレスへと改めて視線を落す。
 緋色の、透き通るような丸い宝石。何語か分からないが、呪文のような言葉が彫り込まれていた。教授から教わったと言う御言か、手が込んでいる。
「―――ぁ」
 唐突にふと、なのはの顔が浮かんだ。
 ああ、そうだ、思い出した。このネックレス、何かに似ていると思ったが、そうだそうだ。

 なのはのネックレスに、よく似てるんだ。

 確かレイジング……バード? だっけ?
 名前が良く思い出せなかったが、確かそんな感じの名前のはずだ。不屈の鳥、あれ、やっぱり名前違う? とにかく、あれに似てるんだ。
 小さく声を漏らしたのに縁は首を傾げるが、アリサは顔を上げ、綺麗ね、とだけ言葉をかける。
 ありがとう、そう言ってもらえると嬉しい。
 照れたのか、ほんのりと縁の頬が染まった。縁の方が、なんて台詞は口には出さないが、心の中で数回呟く。
「この時計も、とても素敵だ」
「そう? 気に入ってくれて何よりよ」
「うん、大事にする」
「さっき言ったじゃない、それ」
「そうだな」
 花が咲いたような笑顔。
 縁が休んで、プリントを持ってお化け屋敷のような縁の家を訪れた日、友達になったあの日に初めて見た、その笑顔。
 今にして思えば、あの時既に心を奪われていたのかもしれない。
 馬鹿だなぁ、本当に馬鹿だ。何で惚れた相手が縁かな。
 こういうのは理論や理性じゃない、そうは分っているのだが、苦笑するより手はなかった。
 何が馬鹿だって?
 そんなの簡単だ。

 海鳴 縁は女の子で

 アリサ・バニングスも女の子で

 実る筈のない恋なのは、明らか過ぎて。

「ねえ、縁」
「うん?」
「…………ありがとね」
 お守りのネックレスを渡すくらい心配してくれて。
 お見舞いに来てくれて。
 助けてくれて。
 見つけてくれて。
 友達でいてくれて。
 私と、出会ってくれて。
 その一言には、いろんな色が籠められていた。
 改めて礼を口にするアリサに、先も言ったぞ、なんて事を口にすることはなく縁はにこにこと花の咲くような笑顔を向け続けながら大きく頷く。多分、たった一言に籠めた意味を、理解してくれたと思う。
「うん、私もだ。ありがとう」













 何となく、分った。
 友達を欲した縁に対して、この気持ちを伝えてはいけないんだと。

















 一番最初に感じたのは、眩しい蛍光灯の光と、そして見慣れた天井だった。
「――――ぁ、れ?」
「は、はやて!!」
 ぼやけた思考のまま呟くと、聞きなれた声と共にもふっと腹部へ軽い衝撃が走る。
 え? え? なんや?
 がばりと布団を跳ね除けるようにして彼女、八神 はやては慌てて起き上がり……そこでようやく自分がベットに寝かされていた事に気がついた。見覚えのあるベット、自分のベットだ。
 キョロキョロ見渡して、本棚や机を確認してから、ようやくこの場が自分の部屋だということが分った。
「はやて! 大丈夫!? 何もされなかったか!?」
 もふっ、もふっ、と腹部に連続して軽い衝撃がくる。視線を下げると見なれた旋毛、燃えるように赤い髪のお下げな少女。ヴィータだ。
「ぁ―――えっと、ヴィータ? どうしたん?」
「どうしたじゃないよ! はやてが倒れたって聞いて、あたし慌てて戻ってきたんだからな!」
 涙目でヴィータが軽く睨んできた。ヴィータに睨まれるのは随分と久しぶりなので、思わずちょっと引いてしまう。初めて会った時はむすりと睨まれいた事が多かったが、最近はまるでなかったのに。
 って、倒れた? 私が?
 そこでようやく、ヴィータの言葉に引っ掛かりを覚えた。
 そう言えば、何で自分は寝てたんだっけ? 外を見ると夕日が見える。昼寝してたっけ?
「あー、うん、ちょっと待ってなヴィータ」
 左の人差し指を眉間に当てつつ、はやては記憶を掘り起こす。ついでに睨まれつづけるのも嫌なので、右手をぽすりとヴィータの頭に乗せ、なでなでと軽く撫でる。相変わらず柔らかい髪なので、撫でるのが何とも気持ち良い。
 頭を撫でると何故かヴィータはじわりと涙を滲ませ、再びむぎゅりとはやてに抱きついてきた。可愛いなぁ。
 ではなく。
 えっと、確か昨日は夜勤で、休む暇がない仕事量だったので徹夜で頑張って頑張って頑張って頑張って――うん、思い出しただけでも仕事いっぱいで胸焼け起こしそうな気分だ。とにかくそんな仕事地獄を突貫工事で処理していると、自分の倍以上の仕事を抱えて目の下に隈が浮かんでいるそんなレベルなどとうにラディカル・グッド・スピードで駆け抜け、もはや死相と背後霊すら浮かべながら同僚がポツリと呟いた。
 ――ああっ!? 実動部隊が足りないぃっ!? 舐めんじゃないわよイ○ポが! どこだって部隊足りちゃいないわよ馬鹿!! 資料を探せぇっ!? 無限書庫にでも注文しろぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!
 ああ、いや、違う、違うぞ私、むっちゃ違う場面思い出しとる。
 通信画面に向かって絶叫を上げる同僚があまりにも印象的だったので、ついついそちらのイメージが優先されてしまった。えーっと、あれだ、確かその同僚が日付などとうに超え時間に、多画面全てに表示された資料に若干虚ろになっている目を通しながら呟いたのは。
 ――婚約記念、紛失しちゃったなぁ……
 ああ、そうだ、婚約記念のペンダント。それを失くしてしまったらしい。
 なんというのを失くしててるかという思い半分、恋人さんがいたんだなぁという思い半分だ。三度の飯より酒が好き、口より先に拳が繰り出され、拳より先に脚が繰り出され、趣味は何ですかと聞いたところ真面目な顔でホスト漁りと答えるような同僚だ。よく管理局に入局できたものだ。
 どうやら失くした場所は見当がつくらしいが、抱えている仕事が多すぎて探しにいく事が出来ない。
 一方自分は頑張れば日本じゃ夜が明けるより前には終る。
 だから当然のように探しに行くのを買って出て……それから、その同僚が先日調査で訪れたというお屋敷に行って……途中でトラップに引っ掛かり……ああ、そうだ、シュベルトクロイツを後で修理しないと、派手に火を噴いたよなぁ……それでトラップから抜け出すのに失敗して……
 それから……












『ヤ――ガミ』










「――――――っ!!」
「あたっ」
 背筋に氷がぶち込まれたような気分。
 思わずヴィータの頭を撫でていた手に力が篭ってしまい、ヴィータが軽く唸る。しかし、それははやての耳には届かなかった。
 ぬめり気のある身体。
 まるでゴキブリか何かを無理矢理擬人化したかのような醜い身体。
 太長い2本の足に対して枯れ木のように細長い4本の腕。
 身体の割に巨大な頭部の半分は、トンボの如く巨大な複眼が2つ。
 顔は前後に長く、口は大きく裂けており、口を閉じていても見える凶悪な牙。
 2対4枚のセミのような薄い羽が生えている背中。
 ぬめぬめした、光沢を持った粘液を塗られたような体。
 気持ちが悪くなった。
 思わず左手で口を押さえる。
 酸っぱい。少しだけ胃液が逆流してきたようだ。
「は……はやて!?」
 真っ青になり小刻みに震え始めているはやてを見て、ぎょっと目を見開きながらヴィータがはやてをガクガクと揺さぶる。胃液が更に逆流してきそうだが、止めてと言えるだけの余裕もない。
 怖い。
 醜い。
 気持ち悪い。
 今更ながらに、そして思い出した瞬間に唐突に、そんな感情が一斉に襲い掛かってきた。
 そうだ。
 そうだった。
 自分は、奴に、看視者に会ったんだ。あの不気味な生き物に、そもそも生き物かどうかすらも怪しいような奴に、会ったんだ。
 小刻みに震えていた身体が、次第に大きく震えてくる。ヴィータの頭を撫でていた右手で咄嗟に目を隠す。
 あの時の、あの感情が、逆流してくる。
 まずい。
 まずい、まずい、まずい。
「は、はや――シャマル! シャマル!! 早く来い!! 早くっ!!」




 平常心まで戻るのに、たっぷりと20分。
 その間の事は全て伏せる。
 と言うよりも、はやて自身よく覚えていなかった。
 気がつけば掛け布団は何処かに行っていて、ベットの上に張られた緑の結界の中に、自分は正座で座っていた。
 そして結界の外から、ヴィータと、シャマルと、ザフィーラが、心配そうに見ていた。シグナムの姿はない。
 少し放心してから、大丈夫だという意味を込めて軽く笑ってみたが、残念ながらアリサのように名演技の役者ではなく大根役者、上手く笑えた自信はなかった。ヴィータが両目に再びじわりと涙を滲ませ、駆け寄ろうとしたが即座にザフィーラに肩を掴まれて静止させられる。そう言えばザフィーラは何故か人型形態。いつもは女所帯だと気を使ってか子犬か狼の姿なのに。
 先頭に立っていたシャマルが右手の人差し指を伸ばし、結界の外側に触れ、そして何かの呪文を唱えた。聞こえない。
 そうだ、この結界の中、音が何も聞こえないのだ。
 誰の声も、足音も、息遣いの音も、蛍光灯の音も、自分の心臓の音だって、全ての音が聞こえない。
 不気味なくらいに無音だが、それが逆に落ち着く。
 完璧な無音に対する、安らぎ。
 なるほど、そういう結界か。
 小声で呟いたつもりの声すら聞こえない。
 これは、つまり、気の触れかかった人を癒すための、結界。
 その結界の中にいるという事はつまり……そういう訳で。もしかしなくても自分、かなりマズい精神状態だったんだろうか。
 魔法の構築が完了したのか、結界を構成する緑の光がより一層強く輝いて
 ぱりん
 という小さな音と共に砕けた。
「はやて!」
「っ!」
 悲鳴のようなヴィータの声が脳味噌を突き抜ける。慣れたはずの声なのに、凄まじい違和感と共に頭蓋骨を直接ハンマーで殴りつけられたような衝撃が襲う。
 ちょっとはやての顔が蒼褪めた。
「こ、こらヴィータちゃんっ、小声っ、小声でっ!」
「あ、ああ、ご、ごめん はやて」
「っ~……ぅ、うん、大丈夫、ちょっと慣れてきた。平気や」
 慌てて小声で注意するシャマルの言葉に、見ているこっちが気の毒なくらいにしゅんと肩を落として落ち込むヴィータが可哀想だったので、少し無理をして笑顔を向ける。
 嘘だ、あんまり平気じゃない。
 大丈夫だと判断したのか、ザフィーラがヴィータの肩から手を離す。しかし、ヴィータは即座にはやてに駆け寄ろうとはせず、ちらっとシャマルを上目遣いで見上げるだけに留まった。
「………」
「……ええ、そっと、ね?」
「う、うん」
 思念通話を使用する事もなくその視線の意味を汲み取ったのか、シャマルは苦笑のような笑顔を向けながら頷く。若干シャマルの顔に疲労の色が見える。もしかしたら、かなり燃費の悪い魔法を使わせてしまったのだろうか。それとも仕事明けて死にそうなくらい疲れているのだろうか。どちらにせよ罪悪感がはやての胸をつつく。
 シャマルの許可が下り、約束を守り駆け寄らずにとてとてと はやてに歩み寄り、それからヴィータはベットに上ってはやてに抱きついた。ぎゅ、というのではなく、きゅ、と優しく。
 ちょっと、癒される。
「はやて、もう……大丈夫か?」
「うん……ごめんな、ヴィータ」
「……ううん」
 何も深く聞く事無く、ヴィータははやての胸に顔を埋めるようにして顔を押し付けた。あくまでも、優しく。
 私よりもシャマルの方がええ気持ちやと思うんやけどなぁ、なんていつもの冗談はかませない。そんな気力はなかった。
 ただ優しく頭に手を乗せて、なでなでと撫でるだけ。
 一度、ちらりと軽くシャマルとザフィーラが目を合わせる。
「……何があったか、聞かせてもらってよろしいですか?」
 遠慮がちに聞いてきたシャマルの質問に、頭の中を奴が高速で通過していく。あんまり思い出したくなかった。
「あ、あのっ! 思い出したくなければ無理に思い出さなくても良いですからね!? その場合はまた後日にゅふっ!?」
「あー、うん……そうやね……」
 慌てて言葉を付け加えるシャマルの口を、ザフィーラがさっと片手で抑えつける。正直シャマルの今の声が頭の中でぐわんぐわんと響くので、ザフィーラの無言の行動はかなり助かった。
 眉間に片手を当ててから、はやては少し唸る。
 実を言うなら、今はあまり話したくない。というか、あの姿は思い出したくない。トラウマが残りそうだ。
 しかし、皆心配しているのは、見ているだけでもはっきりと分かる。分からない訳がない。
 それなのに言葉を濁してうやむやにするのは、それ以上にしたくなかった。
 ふぅ、と小さく溜息。
 ヴィータを見る。シャマルを見る。ザフィーラを見る。シグナムは、いない。
「……シグナムは、仕事なんか?」
 思わず関係ない言葉が口から漏れた。
 ぴくっと、シャマルの片眉が跳ねる。
「あ、はい。何だか脱獄したっていう魔道師の追撃に回ってるとかで――」
「そうだよ! あいつ、はやてが倒れたって聞いてる癖に管理局の仕事で走りまわってるんだぞ!」
 少し言い辛そうにシャマルが答えるそれの途中を遮るように、ヴィータははやての胸に顔を押しつけながら吐き捨てるように叫んだ。
 ふらっとはやての身体が揺れる。
 零距離の叫び、今の身体にはかなり堪える。
「ぁ、ああぁ、ご、ごめん はやて」
「だ―――大丈夫やヴィータ、うん……まあ、仕事ならしゃあない。あんまりシグナムを責めたらあかんよ」
「でもよ……」
 少し顔を青くしながらもヴィータを諭すような言葉をかけるはやてに、ぶー、とヴィータが頬を膨らませる。
 騎士として。
 同じ志をもつ騎士として、同じ主に仕える騎士として。
 そして、何よりも家族として。
 大切なはやてが倒れたというのに、急いで駆けつける事もせず仕事を優先したその態度が、ヴィータにとっては気に入らないのだ。
 一度離した顔を、再びもふっとはやての胸に押しつける。
「――シグナムは、最も損な役周りを、自ら買って出ただけだ。決して己が主の身を案じぬ者では、ない」
 ぽつっと、ザフィーラが口を開く。諭すかのように、苦笑するかのように。
 気を使っているのかザフィーラの声は若干小声になっていたが、それでも元より通りの良い声なので良く聞こえた。
 損な役周り?
 意味が上手く分からずはやては顔を上げるが、ザフィーラは首を横に振るだけで答えない。シャマルも同様に苦笑を浮かべるだけに止まった。
 ぶすっとした表情のまま、ヴィータも小さく 「そんくらい知ってるよ」 とぶーたれる。はやて1人意味が分からず首を傾げた。誰かの癖が移ってるご様子。
 シグナムとて、いや、あのシグナムの性格ならばこそ、はやてが倒れたと聞けば誰より先に駆けつけたかっただろう。仕事など蹴り飛ばし、看病もさほど上手くなければ治癒の魔法も得意じゃないのに、それでも真っ先に飛んでくる。それがヴォルケンリッターのリーダーだ。
 そう、ヴォルケンリッターの、リーダー。
 リーダー、だからこそ、シグナムは蹴り飛ばしたかった仕事を、蹴らなかった。
 八神はやては、未だその身を保護観察から解かれた訳じゃ、ない。
 はやてが倒れ、ザフィーラが連れて帰り、ヴィータとシャマルが仕事を蹴って飛び出して……もしここで自分がはやての下に駆けつけたら、はやての身にとってマイナスにしかならない。はやてとヴォルケンリッター全員が、管理局を抜ける訳にはいかない。それを分かっていたからこそ、シグナムは仕事を蹴らなかった。
 悔しさか、悲しさか、怒りか、それとも他の何かか、今頃シグナムは行き場のない感情を抱えて身を振るわせているだろう。最も損な役でしかない。
 それ位、ヴィータとて分かっている。分かってはいるが、気に食わないと思ってしまうのは、仕方がないのかもしれない。
「脱獄した魔導師って……フォン・ブローレットか?」
「ええ、はい。良くご存知ですね」
「そらまあ、徹夜の原因さんやしなぁ」
 なでなでとヴィータの頭を撫で続けながら、はやては溜息と共に一言。
 魔導師素質のない一般市民に対しての魔法を使用した殺人、破壊活動、その他諸々、少々気が触れているのだろうか愉快犯というより既に快楽犯行にしか思えない経歴を持つ男。フォン・ブローレット。
 苦労の末逮捕したのだが、如何なる手を使ったのか脱獄、現在逃亡中の身である。
 そして、その苦情やら何やらのお鉢が回ってきたのが現在はやての机がある部署。通称・苦情受付最前線。
 結局フォン・ブローレットの件についての仕事が多く、更にはそれに付随するような仕事も大量添付で舞い込んでくる物だから、それを片付けるだけでも大変だった。それに加えていつもの仕事も待ち構えていて……思い出しただけでも胃がムカムカしてきた。
「そか。シグナム、仕事バリバリやっとるなぁ」
「……あたしだって、仕事バリバリやってるよ」
「うん、偉い偉い」
 なでなで。
 ちょっと膨れながらも張り合うかのようにぶーたれるヴィータを撫でながら、はやては少し微笑んだ。笑えるように、なってきた。みんなのお陰だろう、大分心が落ち着いてきたみたいだ。
 撫でる手を、一度止める。
「で、今日のヴィータはどんな仕事をバリバリしとったんや?」
「う……」
 ヴィータが小さく唸った。それとほぼ同時にシャマルが横を向いて顔を逸らす。ぷっ、と誰か小さく噴出したように聞こえたのは気のせいだろうか。
「……この間の始末書の直しと、調査と探索と、ありがてぇ説教を頂いて来やした」
 意気消沈でも表しているのか、ずるずるとヴィータがはやての胸からずり落ちていく。
「始末書って、ヴィータ何かしたんか?」
「いや、何時ぞやの看視者の糞野郎がロストロギアぶん盗った件での始末書……の、直しが6回目です」
 看視者。
 その一言にはやての肩が小さく跳ねた。
 それを見て、ザフィーラが僅かに目を細める。ヴィータはずり落ちているし、シャマルは笑いを堪えているのか顔を背けていて、はやての反応を見ていなかった。
「――ヴィータは、看視者が怖ない?」
 ぽつっと投げかけられた言葉に、むっとしたのかがばりとヴィータは顔を上げる。
「あんなん全然怖くねぇ! あの時は調子悪かっただけで次にあったらボッコボコにし……て……」
 はやてを見上げ、売り言葉に買い言葉でもと言うかのように出てきた言葉は、ゆっくりと萎んでいった。
 大声を出したらはやても頭に響いてしまうとか、という理由じゃなかった。
 見下ろすはやての目が、まるで笑っていなかった。
「私はな――」
 ぽつっと口を開いて出た言葉は、ひどく力のない声で。
 笑っていない目は、何だか今にも泣きそうな目で。

「――怖かったよ。すっごく、怖かった」

 ぽかんと口を開け、ヴィータは返す言葉が見つからなかった。ヴィータだけじゃない。シャマルも、ザフィーラも。
 疲れたような、泣きそうな、自虐的な色が混ざりに混ざったその弱音に、何も言えなかった。そもそも、はやての口から弱音というのを、初めて聞いた気がする。
 止めた手をもう一度動かし、ゆっくりとヴィータの頭を撫でる。
 機械的な、撫で方。
「1人で看視者と向きおうて、すっごく怖かった。やっぱ実戦はちゃうなぁ。知っとるつもりやったけど、1人だと、ちゃうなぁ」
 そう、怖かった。
 純粋にただ、怖かった。
 あの姿が、あの雰囲気が、あのプレッシャーが、あの存在そのものが。
 八神はやては管理局に身を置くものの、元は一日の大半を本と共に過ごすという争い事とは縁の遠い少女であった。そして、管理局に入局してからも前線には出ていない。前線経験など今まででたったの一度しかない。
 暴走した闇の書の防衛プログラム、その一度だけ。
 それも、沢山の仲間と、戦艦一隻分の後方支援ならびにアルカンシェルという主砲と、何より二位一体で共にあってくれた彼女という様々な力を借りて。
 はやての力では、なかった。
 それ以外の戦闘経験といえば模擬戦くらいだ。たったそれだけしかない経験と、自身の魔力ランクと彼女の遺してくれた豊富な魔法とで、慢心していた。多分大丈夫だろう、なんて思ってはいないが、それでも慢心していた。
 しかし実際はどうだ。
 幻術のトラップに引っ掛かり、看視者に助けられ、その看視者に対しても魔法一発撃っただけで、後は何も出来なかった。怖くて。
「はやて、あいつに……遭ったのか?」
「……うん」
 ようやく投げかけられたヴィータの言葉に、はやては小さく頷いて答える。
 さぁっと、ヴィータの顔から血の気が引いた。
「な、ななな何もされなかったか!? 怪我とか!? ああっ、あの鎧の奴ら引き連れてたんじゃないか!?」
「ううん、何もされんかったよ。なーんも、出来んかった」
 今更といえば今更だが、慌ててはやての身を案じたその言葉に、はやては笑って返した。
 笑って。
 自嘲の、笑いで。
「はやて……」
「なーんも、なーんも出来んで、泣いて、喚いて、結果はこれや。役立たずやなー、足手まといやなー、穀潰しやなー」
「はやてちゃん……」
「ま、そんなん前々から分っとった事やけどな。1人じゃなんも出来んなんて」
 ははは、と虚ろに笑いながらはやては天井を見上げ、そこで一度言葉を切った。居た堪れないようなヴィータとシャマルの視線を感じる。ザフィーラだけは、そんな視線を向けなかった。
 前々から分っていた。
 前々から分っていたのだ。
 生まれて初めて幼稚園の前に来たとき、結局はやては幼稚園に足を踏み入れなかった。
 たった1段の段差のせいで。
 街だって誰かの手助けがなければ行けるところなど限られる。
 たった1段の段差のせいで。
 たった1段の段差すら、はやてには1人じゃ何も出来なかった。段差だけじゃない。きつい坂道は登れないし、人に迷惑がかかるから人ごみは行けないし、同じ理由でスーパーの特売時間だって行ける余地はない。ああ、そうだ、いつも行っている近所のスーパー、未だに2階へと上ったことがない。
 何時だって誰もが当たり前にしているような行動を、自分は指を咥えて見る事しかできなかった。階段を上るのも、人ごみの中を縫い歩くのも、電車に乗るのも、バスに乗るのも、坂道を歩くのも。横断歩道で青信号点滅に慌てて走って駆け抜けていく姿だって、自分はその姿を羨望の眼差しで見送るしかなかった。誰かの手助けがあって、ようやく自分は誰もが行える当たり前 “に近い” 行動が出来る程度であり、1人じゃ本当に何も出来なくて、人に迷惑をかけ続けなければ生きてこれなかった。
 そして今だって。
 ちょっとリハビリが進んで歩けるようになったからって、すっかり忘れていた。
 自分が如何に役立たずな存在か。
 自分が如何に足手まといな存在か。
 自分が如何に穀潰しでしかない存在か。
 自分が如何に、1人じゃ何も出来ないか。
 分かっていたのに。
 分かっていたのに、すっかり一人前気取りで。

 なのはやフェイトがバス通学から徒歩に切り替えた理由を、知っていたのに。

 アリサやすずかが車通学から徒歩に切り替えた理由を、知っていたのに。

 全部全部、はやての為だ。
 通学路を行くのも一苦労なら、バスにも車にも乗る事すら一苦労なはやてを気遣い、そして寂しい思いをさせないために徒歩通学に切り替えた。誰一人として言わないが、それくらいはやてだて察していた。
 それを察していたくせに、ちょっと歩けるようになったからって。
 堤防に阻まれて溺れかけている縁を助けに行くことも出来なかったのに。自殺騒ぎの時は皆がオフィスビルを駆け上がっている中、自分は見上げていただけなのに。それの一体どこが一人前だよ、笑わせる。
 虚ろな笑い声すらも途切れ、天井を見上げたままはやては沈黙した。
 ヴィータとシャマルが一度顔を合わせる。お互いに困った顔をしていた。
 ただ1人、ザフィーラだけが腕組みをしながら一度だけ頷く。
 しばらく……かなり時間を置いてから、誰も発言しないその場に、ザフィーラはようやくその口を開いた。
「では、主は如何されたいのですか?」
 低い、良い声だった。
 ヴィータとシャマルの視線がザフィーラへと向いた。
 はやての視線は、天井に向いたままだった。
「一人前に、なりたいなぁ」
「無理ですね」
 見事な即答。
 突き刺さるような2つの視線を軽く無視しながら、ザフィーラは目を閉じながらはやての一言を切った。
 それを聞いてなお、はやての視線は動かなかった。
 表情1つ、動かなかった。
「はは、そうやね。私なんかじゃ、高望みやったかなぁ……」






―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
 アリサは 「メイドさん」 じゃなくって 「お手伝いさん」 って呼ぶと思うんだ、意地張って。
 季節の変わり目は急患多いですね。かなりお待たせしてしまいました、クロガネです。
 まあ、最初にアレです。

 クロガネはクロガネ叔父さんになりそうです。

 追及はなしの方向で。“ほうこう” ってパソコンで変換したら躊躇いなく “砲口” とか出て来やがりますよ。
 今回はいっその事アリササイドとはやてサイドで話を区切っても良かったんですけど、何故か一括掲載。だから1ヶ月もかかるんだよ!
 アリササイドはあれですね、思ったより甘くならなかった。はやてサイドはギャグの入り込む余地すらなかった。
 最近は地文を減らすように努力しているのですけど、なんか話が淡々となってしまう。かといって戻せば寮が膨らみすぎるし。困った困った。



 当たり前ですけど、車椅子生活というのは、決して楽な物じゃありません。
 自転車で 「あ、ちょっと辛い」 と思えるような坂道の時点で、車椅子というのはこいで上れません。腕の3倍近い力がある足でこぐ自転車で辛いのに、腕でこぐ車椅子でどう上れと。
 それからちょっとした段差だって、上るのは大変です。例え後輪がゴムタイヤでも前輪は違う場合が多いですし、はやての車椅子は電動式だから更に重いでしょう。普通の車椅子だって10kg以上のが当然のようなのに、それより重い車椅子じゃ苦労は倍増でしょう。
 他にもあげればキリはないですが、車椅子生活って大変です。
 本編じゃそんな弱音を一度も言わなかった (訳じゃないんですが) はやてだからこそ、クロガネはそれをはやてに訴えてほしかった。



 ザフィーラ喋ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!
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10件のコメント

[C161] 1ばんげと♪

ほんとだ、ざっふぃーしゃべるんだ(笑)
ほんと、クロガネさんのアリサと縁は可愛いな~♪
バーニングアリサに期待(違
  • 2008-03-30
  • 投稿者 : ぎるばと?
  • URL
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[C162] えっと2ばんげっと?

おひさです。アリサ、デレを通り越して色ボケになる。気持ちを伝えたいけど伝えたら壊れてしまう・・・ジレンマですね。釘宮キャラは吹っ切れると強いから何とかなるさ!

はやて自信喪失、登場キャラが揃いも揃って甘え方も知らず、甘える対象が居ないケースが多いのが、とらハシリーズからの伝統?ですね。はやての場合は見本となってくれる大人が少ないのも不利ですよね。 

私自身、先週大学を卒業しましたが、今でも親には迷惑かけっぱなしで、とても「自分は大人である」と言い切れないのが少々コンプレックスとなっています。それ自体も親への「頼り方」を22年間で身に付けたから出来ることです。

学校は勉強だけでなく、人間関係を学ぶ所でもあります。10歳にも満たない内から社会に出して、周囲との対人関係が上手く行くとは私は思えません。
  • 2008-03-30
  • 投稿者 : ミヅキ
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[C163] ではクロガネが3番ゲットー

○ぎるばと? さん
 登場そのものは早かったんですけどねぇ、ザフィーラ。しかし寡黙というのは逆に小説じゃ存在が希薄になっていく。
 バーニングに期待されても……ふふ

○ミヅキさん
 もうクロガネ自身が久しぶりです。吹っ切れたら強い釘宮キャラといえば、真っ先に思いついたのがリゼルとか。あれは最初から (頭の配線が) 吹っ切れてるなぁ。
 はやてはそもそも学校生活すら他と比べて短いですしね。とらハシリーズのキャラって、誰も彼もがトラウマ持ちなんです、それが良いんですが。
 
  • 2008-03-30
  • 投稿者 : クロガネ
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[C164] 不吉な4番~♪

あ~ザフィーラって喋れたんだよね~忘れてた。
アリサの葛藤が面白かったですね。これからの展開楽しみにしています。
  • 2008-03-30
  • 投稿者 : ジオ
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[C165] そして5番滑り込みー!

 タイトルがどんどんとおかしな方向に……

○ジオさん
 喋れるよ、喋れますよ (泣)!
 アリサにはどんどん悩んで落ちるとことまで堕ちていただきますよ。
  • 2008-03-30
  • 投稿者 : クロガネ
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[C166] まほーしょーじょリリカルなのか?

いやだなぁ、犬がしゃべるわけぇぇぇあうぉいえーぃ。

甘ーいと思った瞬間、暗ーい。
あれですな、おばけ屋敷のなかでアベックと遭遇したような、ぇ、違う?

まぁ、まともな環境で育ってるキャラがアリサだけ(それでも大富豪)ってのは、魔法少女アニメとしてリリカってないと。
ツンデレが一番まともってどうでしょーか。でもそこがいい。それだからこそいい。

といゆうか、リリカルってなんですか?わかりません。もうゲシュタルト崩壊しすぎてなにがなんなわなわなわ
        
  • 2008-04-01
  • 投稿者 : TFJ
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[C167] 6・7番は略奪されたし

しまつた!
タイトルにきづけなんだ。なんたる不覚
  • 2008-04-01
  • 投稿者 : TFJ
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[C168] クロガネが華麗に8番登場

 いや、別にタイトルあわせなくても良いのですが……

○TFJさn
 なにか壊れ気味のTFJさんいらっしゃい。
 アリサはリリ箱でああいう扱いでしたから、クロガネとしては普通の家庭で普通に育った、っていうのが嬉しいのですけどね。ああ、普通じゃねぇ、富豪だ。
 甘いだけじゃ済まさないクロガネでした。
  • 2008-04-02
  • 投稿者 : クロガネ
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[C169] 9番か・・・

春ですか~  春ですよ

恋ですか~  恋ですよ

アリサが縁のお嫁さんになりそうな勢いですね~


ダメだ 許さん 縁のお嫁さんはこのお(トキューン)・・・


大阪のイベントは大変楽しゅうございました WWW
  • 2008-04-02
  • 投稿者 : おにがみ
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[C170] 10番貰ったぁぁぁ!!

○おにがみさん
 縁か!? アリサじゃないんだ!?
 しかしクロガネは、このまま甘い展開にする気はさらさらなかったりするのです。ここで甘くなったら、まずクロガネが耐えられないから。

>大阪のイベントは大変楽しゅうございました WWW
 こ、こんにゃろー(涙目
  • 2008-04-02
  • 投稿者 : クロガネ
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4/6更新 リリカルなのは、短編と呼ぶべきかネタと呼ぶべきか考えた結果これはクロガネ式妄想劇と呼ぶべきなんじゃないのかなぁという曖昧な結論に落ち着きました、みたいなお礼ありです。

魔法の使えない魔法使いの魔法

注意事項!

プロローグ

第1章 『海鳴 縁という少女』
       
基礎情報 第1章終了時点
第2章 『悩み』
         
基礎情報 第2章終了時点
第3章 『誰が為の剣』
           
基礎情報 第3章終了時点
第4章 『教授』
           
基礎情報 第4章終了時点
第5章 『恋ですか?』
           
基礎情報 第5章終了時点
第6章 『切実な事情、迂闊な発言』
           
基礎情報 第6章終了時点
第7章 『縁と看視者』
           
基礎情報 第7章終了時点
第8章 『その言葉、届かない』
           
基礎情報 第8章終了時点
第9章 『失意』
               
基礎情報 第9章終了時点
第10章 『挫けぬ雷刃』
           
基礎情報 第10章終了時点
第11章 『届け、星の光!』
             
基礎情報 第11章終了時点
第12章 『祝福される騎士と風』
 
第13章 『アリサ・バニングスという少女』
第14章 『そして、日常』


本筋関係ないパラレル短編
           

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プロフィール

クロガネ

Author:クロガネ
 鉄と書いてクロガネ。文系の皮を被った理数系。人種差別主義。有神無宗派論者。白衣の天使。瞑想で一日潰したことがある。萌えにも燃えにも反応する。二次元より三次元の方が楽しいと思う。宇宙人未来人超能力者魔法使い等特殊な人間じゃなくて本当に良かったと思っている。変な人といわれる。仲間と言うのはチャレンジャーな人、友人と言うのは変わった人、知人と言うのは普通な人。
 これがクロガネ。
 とりあえずメールはこちら↓
kurogane951@yahoo.co.jp

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