つらつらと書いたり書かなかったり
クロガネの生存報告用のブログ。日記のように使ったりネタを出したり小説を少し書いてみたりしています。
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[C113] 感想
- 2007-10-31
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[C114] 更新お疲れ様です
- 2007-11-01
- 編集
[C115] コメントありがとうございまー
おまたせしましたー。
確かに今回はクロノメインになったと言うか・・・・・・むしろアリサ一言も喋ってないよ!?
逆襲のアリサにご期待ください。
○小雪さん
グロテスクな表現、実はクロガネも苦手だったりして。
教授の立ち位置や正体は・・・・・・恐らく見当がついてるかもしれませんが、徐々に明らかになります。更新頑張ります!
- 2007-11-01
- 編集
[C116] 急展開!
ガンザ・アーカー再び登場。好物は蟹鍋…ウルトラマンタロウにガンザっていう蟹怪獣いましたね。タガールをぶちのめして、ZATの皆さんに背中で焚き火され、タロウにはお腹ひっぺがされ、子蟹は市民に喰われた巨大蟹。元ネタはこれか!
アイヌ語ってことは「アンヌ・ムツベ」とか言いつつ敵に突撃するんでしょうか看視者。
- 2007-11-03
- 編集
[C117] コメントありがとうございますー
叫ぶなら 「イルスカ・ヤトロ・リムセ」 の方が様になっていると思うクロガネは邪道なのか!? 突っ込むのはママハハだけどさ!?
ナノロボットよりもゴルゴムのほうがまだ善良的な気がする……縁の正体については後ほどに。
ちなみにガンザの元ネタは 「赤座伴番」
- 2007-11-04
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魔法の使えない魔法使いの魔法 22
狙いは膝の傷。打ち慣れている個所だとの事なので、跡があるらしい。無針注射で残る跡とは、どれだけこの薬を打ち続けていたのやら。
「――――」
思わず顔をしかめてしまった。
ソックスに隠れていた縁の肌は、ボロボロだった。
切り傷や刺し傷が縦横無尽に駆け巡り、皮膚が剥がれて欠損している個所もぽつぽつと見受けられる。傷だらけ、ではなく、正にボロボロという言葉がぴったり合う。見るのも痛々しいくらいだ。
その傷を見て、ようやくクロノは気がついた。
そうだ、フェイトが大怪我をさせた子。
確かその子の名前も縁。
間違いない、この少女だ。
確認をとった訳でもなく、フェイトが大怪我を負わせた少女はこの子なのだとクロノは断定した。縁、という名前がポピュラーなのかマイナーなのかはクロノの知る由はないが、この少女も縁である。
なるほど、鍛えられている。
ほとんど無意識的に縁の太股に視線を這わせ、内心で軽く評価した。下心はまるでない。
魔法未使用の際、縁はフェイトを圧倒したと聞いた。更に長距離走もとんでもなく速い、らしい。
確かに縁の太股についている筋肉を見れば鍛えられているのは一目瞭然である。筋トレだけでついた筋肉とは明らかにつくりが違っている。武術か何かの武道による筋肉だ。
だが、傷が分からない。
怪我のような傷、というよりも、まるで拷問を受けたような傷跡である。DVにしては傷が酷く、そして多い。少なくとも武道の訓練等でついた傷ではない。
膝下からまっすぐ伸びる太刀傷を、視線で追うようにクロノは太股から更に上の方へと視線を這わせる。
先に言う。
決して疾しい気持ちはない。
単に好奇心のような物である。
好奇心だ。
縁のような少女が、この年齢でこれほどに鍛えられているのが不思議なだけだった。
だから、決して下心はない。
故に、視線を這わせたのは偶然でしかなかった。
「ぶっ!!」
吹いた。
思いっきり吹いた。
思わず目線を逸らし、逸らしたその先に向けられていたなのはの視線からも逃れるように逸らした。どうやら他の面々は気がつかなかったようである。
見た。
見てしまった。
どこが、とはクロノの名誉の為に伏せる。
ただ言える事はある。
履いてなかっ、いや違う、生えてな、だから違う、つまり何だ。
事故だ。
事故なのだ。
故意じゃない。
偶然だ。
偶然による事故だ。
自分に言い聞かせながら、クロノは注射器を握る。
膝の傷跡、膝の傷跡。
呪文のように同じ言葉を繰り返しながら、クロノは膝へと視線を戻して刺し位置である膝の傷を探す。煩悩退散煩悩退散。
傷跡は、別に探すまでもなく見つかった。
刺し傷、と言えば良いのだろうか。ただし注射を刺し過ぎの傷跡ではない。まるで、そう、五寸釘か杭かで貫かれたような傷跡であった。
その傷跡の上に、うっすらと違う丸い跡が見える。
一度注射器の刺す側を見て、跡と一致する事を確認する。
よし、これだ。
頭に浮かぶ変な考えを切り捨て、仕事の時の思考に再び切り替えてから、ためらう事なくクロノはその跡へ注射器を押し当てる。3点口の向きも合うことは確認できている。間違いない。
それから、注射器のトリガーを引き、アンプルに入った薬液を打ち込み―――
びくっと、縁の体が跳ねた。
「え?」
思わず、トリガ―を引いた指が止まった。
まるで電気ショックでも受けたかのように縁の体が跳ねたのだ。普通は驚くだろう、注射しただけでこの反応は。しかも先まで心臓まで止まっていて死にかけていた子が。
少しの間しか引いてないのに、薬液は既に半分近く打ち込まれている。
どうする、恋慈の言う通りにこの薬を全部打ち込んで良いのか? 明らかに過剰反応に思える。間違えたのだろうか。
この判断に迷い、即座に念話を飛ばそうと顔を上げて恋慈の方を向く。
教授と目があった。
『構わず打てっ!』
『――あ、ああ、分かった』
念話を飛ばす前に逆に念話をされ、ワンテンポ遅れてからそれに反応するようにクロノは答えながら注射器のトリガ―を再度引く。
冷たい目線だった。
刺すような、されど睨むようではない。
いや、睨む、と言うよりも、哀れむ、と言った方がしっくり来る。
脳裏に嫌でも残る、不思議な目だ。
その教授の視線から目を逸らし、注射器の方へと目線を向けると、先程トリガ―を引いたのに既に薬液は全て注入され終わっていた。早過ぎる。
びくり、と再び縁の体が跳ねる。
本当に大丈夫だのだろうかこの薬は。確実に合法じゃないだろ。
そう思いながらクロノは打ち終わった注射器を離して――――目を疑った。
左膝の跡を始点として、ぶわっと縁の体中に青い光の “線” が走り抜ける。
まるで血管を先程打った薬液が走り抜けるようだった。
奇妙な光景である。
いや、奇妙と言うか、ありえない光景である。
人間の体は、こんな現象は起こらない。
しかし実際に起こっている。実際に青い光の線が、不気味な模様を刻むように縁の体を走り抜けている。
膝から足の先まで。
膝から股関節へ。
股関節から別れて右足と上半身へ。
体を走り、両肩と首へ。
両肩から両手の先まで。
首から顔へ。
顔から頭まで。
全身を汲まなく走り抜けたその青い光は、制服越しからでもしっかりと見えた。
不気味だ。
そして幻想的だ。
走った光は一瞬で、それでも教授の視線以上に脳裏にこびりつく光景で。
走り抜けて光か消えると同時に、“人形” のように縁の体が跳ね起きた。腹筋の力だけで上体を持ち上げる、とでも言えば良いのか。体に悪そうな起き上がり方だ。
「ぬ―――痛い」
そして、普通に縁は喋った。
いつものように低めの声で。
いつものように空気の読めてない言葉で。
心臓が止まっていたのに。
「む、血が出てる」
痛みの場所、頭へ手を当てると、当然のように大量に出ている血が付くに決まっている。自分の手にべったり付いた血を見ながら、縁は不思議そうに首を傾げる。状況が理解できていないようである。
その反応だけでクロノは悟った。
ああ、変わった子なんだ、と。
事実その通りなのだが。
むしろ、痛くないのだろうか。いや痛いと言っている以上痛いのだろうが、怪我の割には反応が薄い。
――怪我慣れしてるのか?
心の中でクロノは呟く。
もしも怪我慣れしているのならば、痛覚に対して鈍くなる。足の怪我を見る以上、可能性は高い。
「ん?」
べちょっ、と顔面にべたりと付着していた血液を軽く拭い、そこでようやく縁は顔を上げてクロノの存在に気が付いた。
目が合った。
思わず目を奪われ息を呑んでしまう、という言葉がぴったりだろう。縁のその瞳は、とても綺麗な、綺麗な
青色をしていた。
その縁の瞳は、クロノと目線が合っても興味なさ気にふいっと逸らされ――逸らされてから途端にぎょっと驚いたように目を見開いた。
視線の先には、クロノの横でぐったりと横たわっているアリサ・バニングス。
「ア、アン―――ぎゅむぅ」
反射的なのだろう、縁は顔色をさっと変えて慌てるように即座に立ち上がり、そして奇妙な鳴き声と共に額を押さえながら前のめりに蹲る。
ああ、これなら確かに痛そうに見える。特にぴくぴく痙攣している辺りが。
実は頭の弱い子なのだろうかと、さり気なさの欠片もなくクロノは酷い感想を縁に抱いた。
「――くぅぅっ、ぐ……アンス!」
痙攣したのは少しの間だけで、縁はすぐに頭を上げる。
黒い、瞳だった。
あれ?
先は青色をしていた気がするのだが。
そんな疑問をクロノが抱くが、それ全く気にする事無く縁は歩腹前進の要領でアリサの隣へとにじり寄り、それからアリサを抱き起こす。血液でべったり汚れた手で抱き起こすものだから、真っ白の制服は紅く汚れていく。
「アンス! どうしたんだ!? 何を寝てるんだ!?」
寝てる訳じゃないんだが。
思わずつっこみそうになるが、気の毒なくらいに心配そうな顔をしている縁相手にそれは躊躇われた。
「アリサは気を失っているだけだ、体に異常はないから安心するんだ」
「む、そ、そうなのか?」
軽く混乱している縁へクロノは言葉をかけると、黒い瞳はすっとクロノの目へと移動する。
――この子は目を見て話すのか。
少しだけ感心した。礼儀と言えば礼儀、当たり前と言えば当たり前だが、なかなかに難しい事である。
見ず知らずの他人であるクロノに対して、その目に警戒色がないのは、些か引っ掛かりを覚えるが。
「縁ちゃん!」
と、すずかの声に縁が振り向く。
ドアのところから恋慈を無視してすずかが駆け寄ってくるところだった。その声に気が付いて、フェイトが一度クロノへ視線を向け、それからもう一度恋慈へ――恋慈の銃へと視線を向け、それから目線を離す事なく警戒しながらなのはの手を握る。
「なのは、あっち」
「――――あ、う、うん」
じっとデリンジャーを注視しながら、なのはを背中で庇うようにしながら縁の方へと駆け寄ってい。
小学生の少女にあからさまに警戒されているのは不本意なのだろう、とても渋い表情をしながら恋慈は構えていた両方のデリンジャーを下ろす。
「あんたのせいだ」
「銃を抜いたお前が悪い」
教授の方が正論だった。
「縁ちゃん!」
「ああ、月村さん! アンスが大変だ!」
大変なのはどう見たって血まみれの方である。
アリサがいなければそうつっこむ者もおらず、すずかは縁の傍に駆け寄ってから一度アリサを見て、それからクロノへと説明して欲しいとでも言うかのように視線を向けた。
「気を失っているだけだ」
「大丈夫なんですか?」
「――ああ、大丈夫だ」
本当は、断言できるものではない。
アリサが気を失ったのは、精神的ショックによるものだ。事故や衝撃により気を失っているケースとは異なり、身体的に後遺症が残ったりする可能性は限りなく低い。
が、安心は出来ない。
意識を一時的に閉ざしてしまうショックを受けるというのは、後々にトラウマや精神的変調のトリガーになる可能性は高い。
しかし、この場でそれを伝えるべきではない、とクロノは判断した。嘘をつくのは心苦しいが、混乱を招く必要はない。特に血を流している以上に血相を変えている縁を目の前にしては、とても言えない。
その心情を読み取ってくれたのか、それとも唯の偶然か、もう一度アリサの方を見てからそれ以上クロノに追求する事も説明を求めることもなく、縁の隣へ可愛らしい救急セットをカバンから取り出しながらすずかは腰を下ろした。
「縁ちゃん、まずは縁ちゃんから手当てしよう?」
「しかし、アンスが――」
「いいから、ちょっと黙って。縁ちゃんの止血が先、アリサちゃんはその次」
「む」
ぴしゃりと言葉を叩くすずかに気圧されたのか、縁は驚いたように黙った。
真剣そのものの表情で、有無を言わせる余地がない声だった。
少しだけ縁の頭から流れている血液をじっと見てから、すずかはポケットからハンカチをすっと取り出して縁の顔を拭う。
薄いピンク色をした可愛いハンカチは、あっという間に真紅に染まる。どれだけ血を流しているかを物語る速度だった。
「痛くない?」
「痛い。割れているようだ」
ふきふきと血を拭いながら心配そうに聞いてくるすずかに、本当に痛がっているのかと思ってしまう程に平静に縁は返す。
一度拭いているハンカチを離すと、既に真っ赤に染まっている。これは駄目だ。
すずかは即座にハンカチをぽいと捨て、躊躇う事なく右腕の制服を肩から引き裂き、更に引き裂いたそれ一枚の布にする。
制服はそう簡単に引き裂ける代物じゃないのだが。
「あ――」
「いいから」
「――むぅ」
真剣な表情のすずかに何も言えないまま、元・制服の切れ端で縁はされるがままに拭かれていく。制服の白い布地はどんどんと紅く染まる。
「海鳴さん!」
「ん、ああ、ハラオウいっ――」
「あ、ごめんなさい」
続いて駆け寄ってきたフェイトの声に縁は振り向き、拭く方向と振り向く方向がまずかったのだろう、傷口が引っ張られて縁の声が中途半端に途切れた。地味に痛い。
慌ててすずかも布地を離すが、かなり痛かったのか縁の頭部がカクカクと痙攣したように震える。
「ぃ―――ぅぁ……ああ、平気だ」
平気そうには見えない。
「大丈夫!?」
「うん、問題ない」
問われるフェイトの言葉に、縁は目尻にうっすら涙を滲ませながらも平静に答える。痛かったのだろう。それでもアリサを落とさなかったのは褒めるべきか。
頭から流れた大方の血液を拭きとって、すずかは救急セットから小さな消毒剤を取り出し、ガーゼに振り掛ける。それから 「しみるよ」 と一声かけ、縁の返事を待つ事なくそのガーゼを頭部の傷口にぺたりと貼り付けた。
宣言通り染みたのだろう、貼った瞬間に縁の体がびくりと跳ねる。
「ぁぅっ――――むぅ、何だ?」
「消毒。今から包帯するから、動かないでね」
「ああ、分かった」
肯く前にすずかは妙に慣れた手付きで縁の頭部を包帯でぐるぐると巻いていく。
あまりにすずかが処置をてきぱきとこなすので、やる事がなくフェイトはすずかの横で心配そうに縁の様子を見つめる。
それを、クロノとなのはが黙って見ていた。
なのはは一言も発しない。大きな目を見開くようにして、まじっと縁を観察するように見ていた。
対象的にクロノは目を細めて、しかしなのはと同じく観察するように視線を向けていた。
心中もまた、同じようなものだった。
なのはが縁の方を見たのは、クロノがソックスを下ろして縁の足をじろじろ見ているところからだった。
当然、あの光景も目にしたはずである。
光の線が、縁の体を走り抜ける様を。
人間の体は発光しない。
する訳がない。
当然である。
しかし、縁は発光した。
光の線がまるで幾何学の魔法陣でも描くかのように走った。
する訳がない発光を、縁はしたのだ。
つまりそれは、彼女が普通の人間じゃない、という意味でもある。
体に光の線を走らせるならば、やろうと思えばなのはにもクロノにも出来る。フェイトとはやてだって出来る。魔法を使えば良いのだ、魔法陣の応用すれば十分に出来る。
が、気絶している時にできるのかと言われると、クロノは首を横に振るしかない。レイジングハートに頼めばなのはは出来なくもないが……デバイスの発動音は間近にいたクロノにも聞こえなかった。
それに光の線の発動キーは間違いなくあの注射、あの薬。
「―――――」
なのはの視線が一度自分へと向けられたのを分かっていながらも、クロノは何もリアクションを返さずにひたすら思考を巡らせる。
あの薬……注入すればどうなるか、当然ながら恋慈は知っていた。そしてあの光景にクロノが戸惑ったのも予め予想していたかのようだった事から、それが普通からして 「尋常じゃない光景」 になる事を理解していたはずである。例え魔道師相手でも、だ。
それから教授。あの光景の時に確実に目線が合った。クロノと目線が合い、縁の様子に気がつかない訳はないだろう。しかし、あのノーリアクションぶりから、教授があの薬の反応については理解していると考えられる。
と、なると当の本人である縁は―――考えるまでもない。薬について、理解している。
膝に注射しろ、と言った時、恋慈は確かに加えて言ったのだ。
自分で打つ時は必ずそこだから、と。
自分であの薬を打っているなら、反応については知っていて当然だ。それが異常な事であるかどうか理解しているかは分からないが。
いや、そもそもあの薬は一体なんなのか。止まっていた心肺を一瞬で蘇生させるなんて、魔法を使ったとしてあのユーノやシャマルでも出来ない。ましてそれが薬状で携帯できるなんて。
魔法薬、であるとするならば、それは完全にロストロギアクラスである。少なくとも地球で製造できるレベルではない。
しかし、その薬は現に目の前にあった。
そして恋慈の発言を考えるに、縁はよくこの薬を使っているらしい。つまり量産されている。
冗談じゃない。
こんな薬が量産され市場に出回っているならば、地球の医療分野は一転しているに決まっている。心肺蘇生が楽に出来るなら、何年もかかって技術を習得せねばならない医者という職業は廃れているはずだ。
ならば何故出回らない?
誰が作った?
なぜ量産できる?
考えても考えてもドン詰まりになる。全く推測が出来ない。明言できる証拠がないのだから当然かもしれないが、明らかに見過ごせる問題ではない。
「はい、終わり。キツくない?」
「うん、丁度良い。ありがとう月村さん」
手を血だらけにしながらも、包帯を巻き終わったすずかは一安心したように溜息を吐く。実際は応急処置しかしてないので、まだまだ安心は出来ないのだが、けろりとしている縁の様子から少し気が抜けた。
対して縁は頭を下げて礼を言い、それからすぐにアリサへと心配そうな視線を向け、そこで何かに気がついたように再び顔を上げてすずかを見る。
「そうだ……飛び降りをしようとしていた人はどうなったんだ?」
「あ、あっちだけど」
指をさしながら答えたのはフェイト。
さした先には仰向けに倒れている青年と、その頭のすぐ横に立っている教授。そして縁達と教授との丁度中間当たりに恋慈がいる。
「む? 何故恋慈がいるんだ?」
その姿に縁が首を傾げた。
知ってる人なの? と恋慈の事を知らないすずかとフェイトがほぼ同時に問いかけると、縁はこくんと肯く。
「いたら悪いかのような言われ方だな」
溜息と共に、まるで構えていたデリンジャーを隠すかのように恋慈は両手をポケットに突っ込みながら苦笑いを浮かべながら振り向く。
恋慈が振り向いて教授に背を向けた瞬間、教授がふっと失笑するように鼻で笑ったように見えた。
「ああ、悪いという訳ではない。いつ来ていたのか気がつかなかっただけだ」
「お前が気ぃ失ってる間だよ」
なるほど、と呟いてから、縁はそっとアリサを床に寝かせた。
丁寧に、とても静かにゆっくりと。まるで繊細なガラスを扱うかのように慎重な動きである。少なくとも、クロノよりも丁寧な寝かせ方であった。
それから、ゆっくりと立ち上がろうとする。
「あ、ちょ、海鳴さん!」
「縁ちゃん!」
どう見たって安静にしなければいけないのに、普通に立とうとする縁に慌てながらフェイトが肩を、すずかが腕を掴みながら止めに入った。
「動いたらダメだ! 血もまだ止まりきってないんだから!」
「大丈夫だ、ちょっとズキズキ痛いだけで問題はない」
「大いに問題ありだから!」
「心配性なんだなテスタロッサさん。これくらいの怪我は慣れているし、すぐに治る」
強い口調で諭すフェイトの言葉に、縁はけろりと答える。
目線が若干ずらされていた。
少し、泣きたくなった。
「少し話すだけだ、行かせて欲しい」
ずらされていた視線をしっかりすずかの目に向け、落ちついている声色で話す。
ほんの少しだけすずかは思迷して、縁の目をしっかりと見返したまま、掴んだ腕をそっと離した。
大丈夫だ。そう思った。
血は出てるし安静にしなければいけない。本来ならばすずかはここで立つな歩くな座って寝なさい、と無理矢理でも横に寝かせて安静にするべきなのだろう。
なのだろう、が、それでも縁なら大丈夫だろうと思ってしまった。
腕を離し、困ったのはフェイト。
こらこら離してどうする。ここは寝かせて休ませるべきだろう。
そう心の中でつっこんで―――縁が振り返った。
「テスタロッサさん」
「――――」
まっすぐ、黒い瞳が、フェイトを貫いた。
思わず、縁の肩を掴んでいた手の力が抜けてしまった。
その瞬間を逃す事もなく、掴んでいた手を振り解くように縁はゆっくりと立ち上がる。再び視線が外されてしまった。
「大丈夫、少しだけだ」
掴み直して、引き止める事が出来なかった。
その様子を眺め、恋慈は軽く溜息を吐いた。
「大丈夫か?」
「―――リロードは誰が行った?」
横を通り過ぎる際、恋慈から小声で問われた質問に縁は答えず、恋慈の方を振り向いて違う質問を返した。
「あそこの少年、クロノ・ハラオウン君っての。知り合い?」
「いや――ああ、テスタロッサさんの兄弟かもしれないな……ん? クロノ・テスタロッサ・ハラオウンじゃないのか?」
一度納得しかけ、そこで首を傾げて更に質問を重ねる。
しかし今度は恋慈が首を傾げる番だった。
「テスタロッサ?」
「ああ、テスタロッサさんのフルネームがフェイト・テスタロッサ・ハラオウンだからな」
「―――――――いや、クロノ・ハラオウン君だそうだ」
かなり間を置いてからの否定。何故か恋慈の顔にやや動揺の色が浮かぶが、それもすぐに消えた。
それに気付いているのかいないのか、縁は恋慈の反応に対して首を傾げたり眉をしかめたり等の疑問の色を浮かべる事もなく、ふーん、と軽く流す。
「見られたか……」
「ああ。クロノ君と、あとあの栗毛の子も見たみたいだな、かなり動揺してるぞ」
「そうか、高町さんにもか」
返される恋慈の言葉に、僅かに縁の肩が落ちた。
それから、分かった、とだけ短く口にして縁は青年と教授の方へと向き直る。
縁が向き直ったのを確認してから、恋慈は顔を上げて縁とは正反対の方向―――フェイトへと視線を向け
全身の毛が、逆立った。
「!!??」
あまりに唐突な感覚にフェイトは反射的に1歩引いて、訳も分からず体が勝手に迎撃体勢をとるように徒手空拳のまま構えてしまった。
構えてから、漸く思考が追いついてきた。
今の感覚は……殺気だ。
しかも凶悪なまでに強く、重く、鋭い殺気。
恋慈から。
フェイトへと。
恨みがあるとか、憎しみがあるとか、そんなドロドロした感じは一切ない。まるで人形がナイフを突き出してくるような、いっそ綺麗と言っていいくらいに純粋な殺気のみであった。
しかしまた、何故に殺気を向けられる。確かに拳銃を構えていた恋慈に向かってフェイトはモロに警戒していたが、それに対してこの鋭すぎる殺気は割に合わない、というか大人気ない。フェイトのように良くも悪くも戦い慣れしているならまだしも、普通の子供にこの殺気を向けたら確実に泣く。気が弱ければこれだけで気絶するかもしれない。
普通の子供ならば。
普通の。
ちらっと、構えたままフェイトはすずかへと視線を向けた。
普通の子供。
この場で言えば、すずかだ。
いや、すずかが普通の子供と言うには少々成熟していると言うか桁外れと言うか、とにかくはたして “普通の子供” というのにカテゴライズして良いのかどうなのかは悩むが、少なくとも戦い慣れしていないという意味で考えるならば普通の子供と大差ないのは確かである。
そのすずかは――きょとんとフェイトを見上げていた。
――え?
続いてなのはの方をちらっと視線を向ける。
同じくきょとんとフェイトを見ていた。
――あれ?
クロノへ視線を向ける前に、なんとなく悟った。
ちょっと待て、何だこれ。
つまり、この殺気は自分にだけ向けられていると言うのか。
とても嫌ぁな、どう考えても健康的だとは思えない種類の汗が背中をつぅーっと流れる。
これだけ鋭い殺気を、個人にだけ向ける? しかもこれだけ近くにいる他の人に悟られないように?
冗談じゃない。
そんな芸当、人間技じゃない。
そして何故。
何故だろう。
少し混乱している頭でも、はっきりと分かる事が1つ。
この殺気を、以前にも受けた事がある。
日の沈まぬ、異界の砂漠で。
グロテスクな姿をした、化け物から。
そう、看視者と同じ殺気。
頭に浮かぶその考えを、そんな馬鹿な、と消し去る前に、先に恋慈の方から視線を逸らされる。同時に威圧感を伴う殺気がふっと消えた、跡形もなく。
思わず、力が抜けて座り込みそうになった。
殺気を浴びているだけで、体力が削ぎ落とされる。気を入れなければ腰が砕けそうである。
なんという殺気。
なんというプレッシャー。
気が付けば、顔にも汗がにじみ出ていた。
もう一度言える。
人間技じゃ、ない。
そんなフェイトから一度逸らした恋慈の視線は、5秒も置かずに再びフェイトに向けられる。
思わず、びくっと、フェイトの肩が跳ねた。
今度は殺気はない。
あるとすれば、恋慈の顔に浮かぶ苦笑のみ。
「なるほど、他人の空似なんて都合の良い話は、ないか」
「教授」
「ああ」
ゆっくりとした足取りで歩み寄ってから短く呼びかける縁の言葉に、教授は視線を縁へ下ろして同じく短く返事を返した。
笑みを浮かべる事なく仮面のような無表情で見上げる縁。
冷たい表情が地顔だとすれば同じく無表情で見下ろす教授。
「すまなかった」
「……分かれば良い」
ぺこっと、縁が頭を下げると、教授は納得したように一度肯く。
どうやら2人では意思疎通が出来ているようである。
「戻ったら診てやる」
頭を上げる前に続けて教授が口を開いた。
その言葉に縁は頭を上げ、意味が理解できなかったのだろう、きょとんとした表情を浮かべたが、すぐに理解が追いついたのか両手をぽんっと鳴らす。
「いや、リロードも終わってるから大丈夫だ。今は血が足りないが……許容範囲だ」
「違う、腕だ。痛むのだろう?」
頭の怪我の事だと思ったのか、慌てて弁解する縁の言葉を教授はバッサリと切った。
ああ、こっちかと縁は自分の腕に視線を下ろす。
「――あ、ああ、いや、違うんだ。今朝犬に噛まれたんだ」
「犬?」
「うん、犬が溺れていたのを助けた。そうしたら噛まれた。ああ、私も一緒に溺れたんだが月村さんに助けられた」
にぎにぎと右手を開いたり握ったりしながら説明する縁の言葉に、一瞬だけ教授は目を細めるが、何事もなかったかのようにすぐに戻した。
「……そうか」
教授は呟くように小さく言葉を漏らす。
それから、冷たい無表情のまま血まみれの縁の頭へ、ぽふっと手を乗せ。
「よくやった」
一言だけ、褒めた。
抑揚ない一言だったが、それでも満足しているのか縁はやや嬉しそうに顔を綻ばせながら、うむ、と肯く。
それを見ながら仲良いんだ、とすずかが一言だけ漏らすが、殴り飛ばしているところをしっかり見ているクロノとしては、肯けるものではない。
「……生きてるか?」
「死んではいない」
ふいっと下へ視線を下ろしながら縁が尋ねると、手を離しながら教授は端的に答える。確かに、すずかが出てきた所からの会話だけを聞くならば、仲は良さそうに見える。
縁が視線を下ろした先には、自殺をしかけていた青年。いつの間にか気絶していた。通りで静かだと。
ぐてー、っと気を失っている青年の横に腰を下ろして、縁はつんつんと青年を突つく。腰を下ろす時に一度膝立ての形で座るが、思い出したのか正座に直す辺り、一応自覚はあるようだ。
つんつん
つんつん
つんつんつんつん
つんつんつんつんつんつんつんつんつん
つんつくつんつくつんつくつんつくつんつくつんつくつんつく
「――――起きないな」
暫くの間根気よく突つきまくっていたが、それでも起きない青年に困ったように溜息を漏らした。
同時に、教授もまた溜息を漏らす。
「せっかく寝てるのだ、起こしてどうする」
「話を聞きたい」
問いかけに対して、縁は教授へ振り向く事なくきっぱりと答えた。
寝ているというか自分が気絶させたくせにいけしゃあしゃあと言えるものだ、と約2名心の中でつっこみを入れる。
「自分で自分の命を絶つ、その理由が聞きたい」
「聞いてどうする?」
「叱る」
再び即答だった。
何故叱るのか、とクロノは疑問に思ったが、教授はその一言に納得したのかうんうんと何度か肯いて同意している。
「そうだな。それが良い――が」
同意してから、教授も一度片膝立てにて座り込む。
「後にしろ。先にこの場から離れるぞ」
言うが早いか、教授は縁の足首辺りの下に片腕を通し、正座している縁をそのままの姿でひょいと抱えて立ち上がった。
海鳴 縁は小柄である。同年代であるアリサ達と比べても、ちょっと食生活を心配してしまうくらいに背が低い。実際に食生活は目茶苦茶だが。
しかし、それでも軽々と持ち上げられる重さではない。細身の女性ならば尚の事。
馬鹿力もいい所だ。
丁度教授の肩の上で正座の格好のまま持ち上げられた縁は、おや? っと不思議そうに首を傾げた。
「何故だ? もうすぐ救急車も来ると言っていた。アンスもこの人も運んで――」
「他の者にやってもらおう。こちらにも事情はあるのでな」
縁の言葉を遮って教授が言い、視線を恋慈に向けた。
その視線を睨むように恋慈は返しながらも、同意するように一度肯く。
意味が分からないのか縁は再び首を傾げる。
『あまり警戒しすぎると、逆に気がつかれるぞ、クロノ・ハラオウン』
教授の声がクロノの頭に響いた。
念話だった。
うっすらと、良く見ねば分からないほどうっすらと、にやりと教授が笑う。
薄々予想はついていた。
恋慈が魔道師ならば、教授も同じく魔道師である確率は高いと。いや、そもそもフェンスを引き千切ったり、縁を持ち上げている時点で身体強化をしていると予想できていた。
『あ、あなたは魔道師なんですか!?』
慌ててそう念話で返したのは――フェイト。
横目でフェイトを見る。なのは共々目を白黒させていた。
――オープンチャンネルか。
心内で呟きながら視線を教授へと戻す。恋慈とは違いチャンネルを固定していないので、クロノ以外にもしっかり聞こえている。
『……どなたです?』
ビル下に待機しているはやてもまたワンテンポ外してオープンチャンネルで返してきた。状況が見えないだけに、聞いた事のない教授の声に少々混乱しているようである。
そのはやての念話も聞こえたのだろう、教授が一度ふんっと鼻で笑う。
『私はアステマ・コロンゾン・リ・ヴァルヴェールローランド。言うまでもなく魔道師の端くれだ。そしてはじめまして、管理局御一行……クロノ・ハラオウン、フェイト・T・ハラオウン、高町なのは、八神はやて』
びくっと、なのはとフェイトの肩が震えた。念話の通信が出来ないすずかが2人の様子に気が付き視線を向けるが、教授の方をじっと見る2人に合わせるように何も言わないで同じく教授へと視線を向けた。
名前からして既に日本人じゃ、ない。
いや、そもそも地球人なのかも怪しい。
『驚く必要なない……いや、むしろお前達は己の名高さを自覚するべきだ。時空管理局では顔も名も知れているのだからな』
『……すまん、俺はそんな評判すらまるで知らないんだけど』
『黙れ阿呆』
横手を入れた恋慈を、教授―――アステマは一言で切り捨てた。
むっ、とフェイトとなのはが眉をしかめる。
『――あなたも、魔道師ですか?』
『あ……』
少し間を置いて投げかけられたなのはの質問に、ミスったと言わんばかりに恋慈は頬が引きつった。アステマにつられてか、恋慈の念話もオープンチャンネルでなのは達にもしっかり聞こえていた。
困ったなと恋慈は頭を掻いて、それから一度溜息を吐いて再びなのは達の方を振り向いた。
『どーも こんにちは。縁の兄です。どうやら毎日ウチの愚妹がお世話をお掛けしているようで申し訳ない』
苦笑いのような笑みを浮かべながら、念話で挨拶をしながらぺこりと頭を下げる。
あ、こ、こんにちは。
ど、どうもこちらもお世話になってます。
普通に挨拶をされ、なのはとフェイトも慌てて念話で返しながら頭を下げる。
『まー、俺が魔道師だって君達が驚いているのと同じで、俺からすれば君達が魔道師ってのも驚きなんだけどな。ここって魔法未発達の次元世界だろ? そんな世界で別の魔道師に合うなんてね……しかも有名人らしいじゃないか、すごい確立だ』
『いえ、私たちも驚いて―――兄?』
言いかけ、なのはは言の葉を途中で止めた。
兄?
縁ちゃんのお兄さん?
『そ、海鳴 恋慈……恋を慈しむって書いて恋慈。縁の兄で――』
驚くなのはに説明するようにフルネームで名乗り、それからアステマの方を親指で指さす。
『戸籍上、あれの息子だよ』
さて、もう何から驚けば良いのやら。
つまり何だ。
恋慈と縁は兄妹で、アステマはその2人の親で、魔道師で――いやいやちょっと待て、どう見てもアステマと恋慈は同じくらいの歳に見える……恋慈が大人っぽく見えるとか教授が幼く見えるとか可能性はあるが、そんな近い年齢の息子といわれても……再婚とかか? それとも養子ということなのか? そもそもアステマは一体幾つだ?
なのはの頭がオーバーヒートを起こしかけていた。
ただでさえ自殺現場とか何とか普通に混乱する場面に付け加えてこの状況。
理解が追いつかない。
対して、フェイトとクロノは恋慈の発言に明らかな違和感を感じていた。
彼の言葉には、明らか過ぎる矛盾があった。
恋慈だけじゃない。アステマの発言にも矛盾が多々見受けられる。
いや、もうストレートに言えば、恋慈とアステマの言葉に嘘がある。
何が嘘なのか、フェイトは具体的に答えられないが、割と最初からこの場にいたクロノには2人の発言の矛盾がはっきりと分かる。
そして、その矛盾した発言にクロノが悟っているという事を、アステマも恋慈も承知しているというのも。
分かっていて、この2人は矛盾した発言をしている。明らかにクロノの腹の内を探る気だ。腹の中がブラックな狸が2匹いる。
恐らく、2人はクロノを……いや、なのはとフェイトも含めて試そうとしている。
その矛盾を指摘するにしても無視するにしても、2人はクロノ達を測ろうとしている。
「……皆、どうしたんだ?」
どう返すか、クロノが思考を走らせるとほぼ同時に、何と場の空気が読めないような声。
縁である。
首を傾げながら、変なものを見るようにとても不思議そうな顔をしていた。
クロノとフェイトの目がほとんど同時に細まった。
オープンチャンネルの念話に対して、この反応である。
確かに、念話が分からなければこの状況は理解できないだろう。いきなり自分を抱え上げたアステマとクロノ達が睨み合いのように視線を交わし、恋慈が振りかえると突如として頭の下げ合い。なのはに至っては百面相の顔芸である。きっと、すずかの視点でもこんな感じだろう。
そうならば、縁が不思議そうな顔をするのも理解できる。
そして、それは縁が魔道師ではない、という事でもあるのも、理解できる。
『――縁ちゃん?』
まるで試すように、なのはが念話で縁を呼ぶ。
返事は、当然なかった。
正直、今回の食堂のお茶は美味しくない。
かなり遅い昼食、もしくはかなり早い夕食を食べ終え、変な感想を抱きながらエイミィは情報管理室へ足を向けていた。
時空管理局の中に食べる所は幾つかあるのだが、エイミィが今日入った食堂は利用するのは始めてのところであった。アースラのドックとは正反対の位置にあるし、エイミィが利用する施設もことごとく正反対にあるので、なかなか入る機会がなかったのだが、今日はヤボ用があった為についでに入ってみたのだが―――多分2度とその暖簾をくぐる事はないだろう。
お茶がマズイのは頂けない。根本的に煮過ぎだ。あれならば自分が煎れた方がよっぽど美味しい。
まあ、料理はそこそこ美味しかった。やや味付けが濃かったが。
割とシビアな評価をつけてから、エイミィは頭の中でこれからのスケジュールを整理しはじめる。今日はクロノが早退している分、若干仕事が多いのだ。ただでさえオペレーターという職は停泊中の方が仕事が多いのに。とはいえ別にクロノを攻める気はない。なにせ早退している理由を知っているからだ。
少し笑ってしまう。
いやいや、笑ったら失礼だ。ぺつぺちと頬を叩いて笑いを打ち消す。
何だかんだで家族想いなのだ、あの少年は。
いや、家族に限った事じゃない。結局犯罪者にまでも情けをかけるくらい、誰にでも優しいのだ。誰にでも優しいから、エイミィとしてはちょっと不満なのだが。
溜息を1つ。
気を取り直してスケジュールを思い出す。
仕事は――少ないとは言えないが、泊まり覚悟の量とは程ほど遠い。定時は無理だが、頑張れば家の食事にありつけそうだ。今日はフェイトが休みだから美味しい料理が出てくるだろう。
ハラオウン宅がすっかり我が家になっているのは既に無意識の世界である。
手早く仕事を片付けるとしようと決めてから、ふとエイミィの頭にツンツン頭の少年の顔が思い浮かんだ。
補充要員、ガンザ・アーカーである。
記憶が確かならば彼は色々と事務方の資格を取っていたはずである。プロフィールに目を通した時に、何でこの子は武装隊に入ったのだろうと疑問に思うくらいにオールマイティに資格取得をしていたのが印象的だった。
そう言えば暇だとか言っていた。
看視者の情報を見たいと言ってから随分と経つが、見終わっている頃だろう。
……手伝わせるか。
いやいや、御協力願おうか。
誰も聞いてなどいないので体裁良く言い直した。
彼の事は訓練生の頃から根性のある奴だと知っているが―――何故根性があるかと思ったかは伏せるが―――、そんなに言葉を交わした事はなかった。
長くなるか短くなるかは分からないが、これから仕事をする仲である。特にガンザはフェイトと同じフロントメンバーなので、サポートする方としては彼の性格を把握するのは重要である。得手不得手や癖や立ち回りは恐怖の教導官、もとい、彼の可愛い元上司から知らされているが、やはり互いに親睦を深めるに越した事はない。
そう考えてから、エイミィは情報管理室ではなく閲覧室の方へと足を向け―――ナイスタイミングで鳥の巣頭の彼が見えた。
「やっほーガンザ君」
「え、あっ、お疲れ様です!」
敬礼された。
片手を軽く上げてフレンドリーに出たのに、凄く真面目に返されてしまった。性格なのだろうか。
「どーだった?」
めげずにフレンドリーの態度を崩さず続ける。
礼儀正しいのは結構なのだが、フロントメンバーとオペレーターとの間で重要なのは礼儀じゃなくて柔軟性である。
エイミィのその問いかけに、ガンザは一度考えるように一拍置く。
「厄介、としか言い様がないっすね。ドールは反応パターンがまちまちっすし、それにルーチンの改良があるのが癖者っすね」
「ルーチン?」
「戦術パターンや武装はランダムっすけど、初撃反応が最初のデータ―から半分近くに短縮されてるんすよ。それに最初はゴリ押しの迎撃オンリーだったのに今は回避行動や防御行動にも柔軟に対応して……あ、この間アースラ隊が対処したドールが大量発生した時は大幅にヴァ―ジョンアップされてるっすね。多分改良じゃなくて再構成されたみたいで攻撃モーションが相手の体格や行動に合わせて追従してますし、思考ルーチンも見た限り3系統に枝分かれしてるんすよ」
ぽりぽりと頭を掻きながら、厄介なのが相手だなぁとガンザは漏らす。
なるほど……なかなか良く見ている。ちょっと感心したよう。
今回の事件の担当として、ドールと戦うのは恐らく避けては通れない。その相手の動きを覚えておくのはとても重要である。
ドールの性能が伸びてきているのは、割と前から言われているのだが、思考ルーチンのパターンに着目した報告は少ない。物量で攻めてきた時はその物量自体に気を取られ、戦闘パターンは注目していなかったというのもある。
「ほー、じゃあ、看視者はどうだった?」
「あれは訳分かんないっすね。情報が少なすぎますし……第一あの魔法って、本当に魔法かどうかも怪しいくらいの性能っすから」
「だよねぇ……」
「それに見た目が怖いっすね」
「ホラーまんまだもんね」
最もな意見だった。
威圧感がある、というより、普通に気持ち悪い。
ドールは面白い事項が挙がったが、流石に看視者は無理か。苦笑するしかなかった。
「ま、一朝一夕には分かんないか、こりゃ長期戦だね……ところでガンザ君、今暇?」
「へ? え、ええ、お昼食べ損ねたんでちょっと軽く食べようかなって位で、特に仕事は……」
食べ損ねた仲間を発見。
話を本題に持っていこうと方向転換をはかるエイミィの言葉に、苦笑いをしながらガンザは答える。どうやらエイミィやクロノと同じく仕事に没頭するタイプなのか。
「あ、向こうの食堂はお茶マズイよ」
先程自分が食べてきた食堂の方を指差しながら忠告を1つ。
「え、でも鍋が美味しいって噂っすよ?」
「――鍋なんかメニューになかった気がするんだけど……」
「裏メニューだそうっすけど」
意外と詳しいな。
というか鍋という料理がきてるのか。
……ああ、そう言えばリンディやフェイトも鍋作るし、そこらへんから話が漏れてきてるんだろう。なのはやはやてもいるし……ってか皆有名人だよね。
「ってか、鍋食べるの? 1人で?」
「ええ、自分結構大食いなんで」
「軽く食事で鍋って、結構じゃなくてかなりの大食いじゃない」
「いやー、看視者の資料見てたら前に地球で食べた蟹鍋思い出しまして」
日本に来た事あったんだ、と変な所に感想を抱いてから、改めてガンザの台詞を頭の中で繰り返して、引っ掛かりを覚えた。
――看視者の資料を見て?
自分の耳が腐ってない限り、エイミィの耳にはそう聞こえた。
少なくとも、エイミィは看視者の資料を見て蟹鍋が食べたいとは思わない。むしろ、あんなエイリアン紛いを見ると逆に食欲がなくなりそうである。
ハサミがある訳でも足が8本ある訳でもないし、どう見たって外骨格の生物には見えない。何故に蟹鍋?
「……蟹鍋って?」
「あ、蟹鍋というのはっすね、普通の鍋に地球で生息している 『蟹』 っていうのを入れまして―――」
「いや蟹鍋は知ってるから。何で資料見て蟹鍋って連想なの?」
返されるベタなボケにつっこんでから、改めて投げかけられた質問にガンザは意図の違いに気がついて手を鳴らす。
「ああ、前に地球で蟹鍋を食べたところが丁度日本の北海道なんっすよ」
また美味しそうな所で食べたな、とちょっと羨ましいと思ったが、ガンザの言葉では未だによく理解できない。
「その時亭主からアイヌ語の話を聞きまして、看視者の台詞聞いてたら連想しちゃうんっすよね」
「台詞?」
「ええ、嘱託のフェイト……さんしたっけ? 優しくて驚いたって言ってたじゃないっすか」
「―――――――――――は?」
何時言った?
むしろ理解できる言語を言ったのか?
至極当然のように言うガンザの台詞に、エイミィは目を白黒させるが、その様子に気がつかないガンザはからから笑いながらそのまま言葉を続けた。
「かなり変テコでしたけど、アイヌ語喋るんっすね、看視者って」
少なくとも、今日は帰れなくなったというのは理解できた。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
久しぶりのクロガネです。どうにか仕事で一段落しましたよ。
仕事は大切だけど休むのも大切さ♪
さて、今回ので皆さんにも随分とはっきりしてきたのではないでしょうか、物語の上で海鳴 縁の立ち位置が。
何度も何度も注意事項にまで書いていてあれですが、主人公はアリサです。縁が主人公なんてありえません。
自殺についてのコメントは? と期待されている方々、再びスルーです。
というか、ぶっちゃけクロガネにとって自殺というテーマは重要な物でも何でもないんですよね。迷惑さえかからなければ、第2章で縁がなのはに語っていた通り、死ぬ権利の自由性なので。処理する病院や警察、そして遺された遺族にとっちゃ、迷惑この上ないですがね。
アイヌ語? クロガネは話せませんよ?
7件のコメント
[C113] 感想
今回の話では量が多くて大満足なのですが、アリサ主役のはずが魔法関係の話の所為かクロノに主役を持っていかれている罠。
アリサの逆襲に期待してます。
- 2007-10-31
- 編集
[C114] 更新お疲れ様です
- 2007-11-01
- 編集
[C115] コメントありがとうございまー
おまたせしましたー。
確かに今回はクロノメインになったと言うか・・・・・・むしろアリサ一言も喋ってないよ!?
逆襲のアリサにご期待ください。
○小雪さん
グロテスクな表現、実はクロガネも苦手だったりして。
教授の立ち位置や正体は・・・・・・恐らく見当がついてるかもしれませんが、徐々に明らかになります。更新頑張ります!
- 2007-11-01
- 編集
[C116] 急展開!
ガンザ・アーカー再び登場。好物は蟹鍋…ウルトラマンタロウにガンザっていう蟹怪獣いましたね。タガールをぶちのめして、ZATの皆さんに背中で焚き火され、タロウにはお腹ひっぺがされ、子蟹は市民に喰われた巨大蟹。元ネタはこれか!
アイヌ語ってことは「アンヌ・ムツベ」とか言いつつ敵に突撃するんでしょうか看視者。
- 2007-11-03
- 編集
[C117] コメントありがとうございますー
叫ぶなら 「イルスカ・ヤトロ・リムセ」 の方が様になっていると思うクロガネは邪道なのか!? 突っ込むのはママハハだけどさ!?
ナノロボットよりもゴルゴムのほうがまだ善良的な気がする……縁の正体については後ほどに。
ちなみにガンザの元ネタは 「赤座伴番」
- 2007-11-04
- 編集
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今回の話では量が多くて大満足なのですが、アリサ主役のはずが魔法関係の話の所為かクロノに主役を持っていかれている罠。
アリサの逆襲に期待してます。