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  • 2007-04-17
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  • 2007-04-19
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 コメント本当にありがとうございました。きちんと見て直してるクロガネです。
  • 2007-04-19
  • 投稿者 : クロガネ
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魔法の使えない魔法使いの魔法 10

「私は、高町さんを泣かせる気などなかった」
 縁がそのように呟いたのは、本日最後の授業も帰りのHRも全て終わって皆々さあ帰ろうかと準備を始め席を立ちはじめる頃であった。自分の机の上に置いたお世辞にも綺麗とは言い辛い鞄を見つめつつ口走るものだから、アリサは最初誰に言っているのだろうこいつはと思った。
 2秒ほど遅れて、それが自分に向けられた言葉だという事に気が付き、小さく苦笑を浮かべる。縁から会話を振ってきたのは初めてなのだ。
「それは皆……なのはも分かってるわよ」
 苦笑したままアリサは優しく言葉を返す。自然とやわらかい口調になっていた。
 昼休みが終わってからも、まるで何事もなかったかのように授業中は無表情でノートに訳の分からない数式を書き連ね、休み時間はにこやかに小説を読んでいたものだから、もしかしてこいつ全く気にしてないんじゃないのかと思っていたのだか、ちゃんと人並みの感性は持っているようで安心したような疑って申し訳ないような、そんな気分だ。
 若干縁は肩を落とし、それからアリサの方を振り返った。
 笑顔である。
 ただし、やや力のない、と頭につく。
 昨日笑えと言った手前何とも言えないが、TPOを弁えた表情をしてほしい。それはこれからの教育次第だろう。
「アンス、教えてほしい」
 その声は、いつもと変わりのない声色のように聞こえた。
 ただ、その弱い笑顔を見れば、その心中は察することができる。
 優しい子だ。
「はいはい、どーんときなさい」
 少し茶化して答えてから、アリサはしまったと思った。
 これがなのは達なら真面目になり過ぎて緊張している気分をほぐす事はできるだろうが、縁の場合はそれ以前の問題として理解できていないような気がする。
「高町さんは何で泣いたんだ?」
 根本的に気にしてもいなかった。
「私は高町さんが善悪判断で迷っていたのだと思った。そして、高町さんの件では明らかに善悪の区別がつくから説明をした。犯人の八当たりで高町さんが傷付いたのならば、気にする必要はないのだと私は判断したから付け加えてみた。私は何かおかしな事を言っただろうか? それとも話が噛み合っていなかったのだろうか?」
「あー、確かになのはの説明だと、うん、縁は間違ってないわよ」
 会話が噛みあっていなかったのは何回か見受けられたが。
 確かに、予備知識の何もなかった縁からすれば、高町なのはという人物をよく理解していない縁からすれば、今回のなのはの相談にて返した答えは実に的確であったとしか言いようがない。人の気持ちを尺度に入れず、事実のみから教科書的な答えであれば、だが。
 だが、実際のところは根本的に違う。
 なのはが悩んでいたのは、今回の件で自分の行いが正しかったのかと悩んでいたのも確かにあるが、それ以上に全ての人を助けられなかった、という事実に悩んでいたのだと言える。
 もちろん、全ての人を助ける事など必ずしも可能かと言われれば、それは不可能としか答えようのないのが事実だ。
 犯罪者は法により裁かれる。
 そして、裁かれた者は、救われたとは、必ずしも言えない。
 間違った道を法により正される事が救いなのだと言い切れるほど、アリサは夢見る少女ではない。そしておそらく、なのはも同じであろう。
 しかも今回はその犯人だけでなく、その妹の命がチップとしてのっていた。なのはの言葉ではないが、割り切れるものではない。
「ただ、妹さんも助けたかったのよ。犯人が間違っていると分かっててもね、やっぱり、誰かが死んじゃうのは見てられないって子なのよ、なのははね」
 今回の相談は、縁にとって分が悪かったとしか言いようがない。まだ縁は人の気持ちを汲み取れる訳ではない。
 諭すようにそう言ったアリサの言葉に、縁は首を傾げた。
「ならばなおの事分からない。それならば何故高町さんは嘆くだけなのだ?」
「何故って言ってもね……」
「月に行きたいと百度言っても、月に行ける訳ではないのに」
 本当に分からないと言うように呟いた縁の言葉に、今度は逆にアリサが首を傾げる番になった。癖が移ってきたのかもしれない。
「まあ、言ってるだけじゃ月には行けないわよね……?」
 だから何なんだろう。突然話が変わった事にアリサは疑問を感じる。
「そうだ、月には行けない」
 うんと肯きながら縁は答える。
 沈黙が降りた。
 2人揃って首を傾げて向き合っているという、変な光景である。
 え、話し終わり?
 そう思ったアリサの心の声が伝わったのか、縁は言葉が足りてなかったと傾げていた首を戻してぽんと手を叩く。
「つまり、高町さんは既にやりたい事の目標が決まっているのに、何故泣いてるだけなのかが分からないのだ」
「……ま、確かにね」
 縁の言葉に、何を言いたいのかをようやく理解したアリサは肯いて同意した。
 なるほど確かに、月に行きたいのだと言っているだけでは、月に行く事は出来ない。
 だが、月に行きたいのだという目標があるのならば、月に行くためにはどうすれば良いかを考える事ができる。月に行くための努力をすることができる。月に行くために行動を起こせる。
 月に行きたいのだと口にするだけでは、何も変わらない。
 月に行くために何をするのかが重要なのである。
 なのはの場合も同じである。
 皆を救いたいのだと、皆に笑っていてほしいのだと、そんな目標がある。
 そんな、高い高い、果てしなく高い目標が。
 だが、目標があるのに、なのはは迷った。泣いて、嘆いた。自分の行いが例え理論上正しくても、救えない人がいたのだと嘆いた。
 嘆くだけでは何も変わらないのに。
 泣くだけでは何も変わらないのに。
 何故努力をしないのだ。
 何故行動を起こさないのだ。
 縁の疑問は、そこなのだろう。
 人の気持ちを一切無視した、合理的とも言える意見ではあるが。
「でも縁、なのはも色々迷うのよ。もっと上手なやり方があったんじゃないかとか、自分には向いてなんじゃないかとか、色々ね」
 諭すように、まるで赤子を諭すように、アリサはできるだけ優しく語りかけたが、何故か語りかけられた側が眉をしかめる。
「だが、涙では誰も救えない」
 お前はどこのダンさんだ。
 縁の言葉に、アリサは呆れたように溜息を1つ。
 まあ、今の縁ではなのはの心情を理解しろというのは無理かもしれない。今まで人付き合いなどさっぱりした事がなく、何でもかんでも本に書いてあるような知識しかないのであれば、むしろなのはの相談事に答えられただけでも驚きものなのだ。
 答えとしては正しい。
 理論としては正解。
 だからと言って、それが割り切れるのかと聞かれれば、NOである。そんな問題なのだから。
「ま、理解しろなんて言わないし、私はなのはじゃないからね、はっきり言えないけど……縁、これだけは覚えときなさい」
 眉をしかめている縁をぴしっと指さして、アリサは一呼吸置いた。
「なのはは答えを出したけど、その答えを引き出したのは間違いなく縁、あなたの言葉よ」
「……そうだろうか」
「そうなのよ。だから気にするななんて言わないけど、だけどね」
 さした指を引っ込めて、それからアリサは席から軽く腰を浮かせてから縁の頭に手を伸ばす。
 一瞬だけ、縁の肩がびくりと跳ねた。
 表情は変わっていない。しかめた眉は戻っていたが。
 叩かれるとでも思ったのだろうか。
 びくりと跳ねたその肩が、嫌に頭に引っ掛かった。
 引っ掛かったが、アリサはそれを表情に出す事なく伸ばした手を縁の頭にぽんと乗せた。
 柔らかい、とても柔らかい感触がアリサの手に返ってくる。

「よくやった、よく頑張った、ありがとう。偉いわよ、縁」

 なでなでと、その頭を撫でながら、先と同じく優しい声で言葉を投げかけた。乱雑に切られている縁のその髪は、想像していたよりもずっと肌触りが良く気持ち良いものであった。
 驚いたのか、縁の目が一瞬広がったが、その目がすっと細くなる。猫などが気持ち良さげにしている表情と同じだ。ちょっと可愛いと思ってしまったのは秘密である。
「……うん、ありがとうアンス。そう言ってもらえるだけでも、報われる」
「これくらいお安い御用よ」
「アンスの言葉はとても落ちつく。なんでだろうな、とても不思議だ」
 そんな事本人に言われても。
 面と向かってさらりと言うものだから、アリサは上手く答えられずに目線を明後日の方向に向ける。
 照れてない照れてない私はこれっぽっちも照れてなんていない。そんな言葉を術呪のように心の中でぶつぶつと呟き続ける。顔が熱いのは気のせいだ、今日は暖かいからきっとそのせいだ。もう5月も中旬になって夏に向けて突入する時期だから気温が高いのだ。
「……アンス? どうしたんだ、顔が――」
「気のせいよ今日は暑いから血行が良いのよだから気にするな」
「分かった、気にしない」
 つっこまなくても良い所をつっこもうとした縁へ逸らした視線を即座に戻し、質問し終わる前に早口で潰した。それに対して素直に肯く縁。素直で良かった。でも変なおじさんに付いて行くなよ。
「よし……じゃ、そろそろ帰るけど、縁は?」
「うん、今日は帰りに教授の所へすぐに向かわなければいけない」
 何故か 『教授』 という短語にむかりと来た。
「へ、へぇ、そうなんだ。何でまた?」
 少し動揺してしまった。何故かは分からない。
 やや乱暴にアリサは教科書を鞄に押し込みながら聞いた言葉は、若干動揺のにじんだ声色になってしまっていた。
「轢かれた所を診てくれると言っていた。それにどちらにしろ今日は教授の所に行く用事もあったのだ」
 それに気が付いているのかいないのか、縁は説明をする。
 自分で行けと言いながらあれだが、忘れてた。むしろ轢かれたのだと忘れるくらいに縁は本当になんともなく過ごしていた。あれだけ轢かれ、アスファルトの大地に鞄を挟んでいたとは言え思いっきり落下したのに、それを縁は感じさせる事もなかった。アリサもその現場にいたからこそ分かっていたが、他のクラスメートから見れば朝の段階で既に何ともなく本を読み始めていた縁がまさか直前に車に轢かれていたなど思う事はないだろう。それぐらいピンピンしている。
 体が丈夫と言うべきか、受身が上手かったと言うべきか、悪運が強かったと言うべきか。
「そっか。じゃあ、今日はここまでね」
 言外にさっさと診てもらいというニュアンスを含ませると、縁は眉を若干八の字にしてやや不安そうな顔をした。
「うん……高町さんは今日これからどうするのだ?」
「なのは? なのはも今日は授業が終わったら用事があるのよ。だからもう帰ってるかもしれないわね」
「ん、そうか……」
 縁の言葉としては珍しく歯切れの悪い言葉だった。
 その様子にアリサは一瞬だけ目を細める。
 やはりまだ、心配しているらしかった。
「大丈夫よ。縁だって泣かせる気で言ったんじゃないって、なのはも分かってる。縁なりの考えなんだって分かってる。明日になればけろりとしてるわよ」
「そうだろうか?」
「そうよ、信じなさい」
 我ながら卑怯な言い方だと思った。縁が自分を完全に信頼してくれていると分かっているからこその発言だったと言っていい。
 そうか、と呟き、ほっと一息ついてから縁は笑みを浮かべる。
 安心したんだろう。
 とても綺麗な、花が咲いたような笑顔であった。
「――――――っ」
「高町さんも、これで諦め癖がなくなれば良いと思ったんだがな」
 思わずその笑顔に息を呑むが、縁はそれに全く気が付く事がない。
 いささかその表情は凶悪だ。口にする事なく、アリサはそう心の中でコメントを付ける。
「あ……諦め癖って、なのはは結構頑固ものよ?」
 縁の表情からかるく目線を離しつつ、縁の言葉に訂正をかけてみた。
 それに対して縁は首を傾げる。
「違うのか?」
「それは――」
「アンスの言っていたのは、そういう意味だと思ったが」
 その一言に、アリサは口を横一文字に閉じた。
 縁の言葉は、そのまま額縁通りに受け取って良い言葉ではない。予想斜め上の発言が多いものの、それは知らなかったからという場合と、そして縁の頭の中で常人よりも一歩二歩先に結論に辿り着いたからという場合に分けられる。
 なら今回はどうだろう。
 なのはは諦め易い人間だろうか。
 もちろんNOだ。
 一度決めたら周りの声など聞きはしないあの強情者には人並みに諦めという言葉を教えてやりたいくらいだと、アリサならば笑い飛ばすような発言だ。

 半年前ならば、確実に。

 強情過ぎて逆に手を焼いていた。
 頑固者過ぎて喧嘩もした。
 あの娘ほど諦めという言葉が似合わない人をアリサは知らないと胸を張って宣伝できた。

 半年前ならば、だ。

「……縁は――」
 気が付いていたのか。
 そう聞こうとした。
 しかし、その言葉は即座に呑み込んだ。気が付いているからこそ、理解しているからこそ、縁の今の発言はあるのだろう。
「ん?」
「あ、いや……えっと」
 首を傾げたまま疑問符を上げる縁に、瞬時アリサは言葉に詰まる。
 諦め癖のあるなのは。
 その言葉が頭の中をぐるぐると回る。
 半年前ならば笑い飛ばせる言葉。
 しかし今は、的確すぎる言葉。
「……教授さんのところは? すぐに向かわないとって言ってたけど」
 詰まった言葉はすぐに方向を変更した。
 詰まった部分は聞こえただろう、それに対して縁がどれほどの思考を巡らせているのかは表情からでは分からないが、表面上は気に止める事もなく縁は黒板上にある時計を振り返り見てからアリサの方に向き直る。
「今から急いで行けば5分の遅刻で到着できる」
「そこは慌てなさいよ!」
 心の声がストレートにつっこみとなって口から出ていった。
 既に遅刻という事じゃないか、何をのんびりとしているのか。キレ者なのかただのアホなのかどっちかにしてほしい。
 急げ急げと何故か当の本人よりも慌ててアリサは縁を急かし、その当の本人は何故自分が急かされているのだろうと至極不思議そうな顔ではあったが、アンスが言うなら急がねばと呟きつつのんびりと帰り支度を開始する。だめだこいつ、遅刻するからと開き直っていやがる。
「うん、じゃあアンス、また明日だ」
「ええ、また明日……遅刻するんじゃないわよ?」
「大丈夫だ、生まれてこの方学校に遅刻で出席した事は一度もない」
 『教授』 は別口なのか。
 心の中で苦笑いしながら、にこーっと笑いながら手をぶんぶんと大きく振りながら教室を出ていく縁を、アリサは小さく手を振りながら見送る。まるで子供を見送る母親のような心境である。
 見送り、姿が完全に見えなくなってから、アリサはほっと溜息を1つ。
 別に話をするのが疲れる訳ではないが、どうも縁と会話をしているとペースが乱されて仕方がない。
「ふぅ……で、はやては何かコメントあるの?」
「あ、ありゃ? 気がついとった?」
 やや疲れたような一言と共に振り向くと、そこには予想通りはやてが待機していた。
 確かに電動式の車椅子とはいえ手動で動かせば音もなく近付けるが、気が付かないほどにアリサは鈍くないつもりであるし、何より数回ほど必ず目線を合わせて喋ろうとする縁の視線がアリサとは違う方向にちらりちらりと向けられていれば嫌でも気がつく。どちらかと言えば後の席の奴がいつ帰ったのかの方が分からない。
「なんやほんま、縁ちゃんと話してる時はええお母さんしとるなーって、ついつい見入ってもうたよ」
「はやてにだけは言われたくないわね。それに言うならお姉さんよ」
「いーや、ありゃ親子のシーンや」
 もしくは御主人様と子犬。
 心の中ですずかにも言った言葉をもう一度繰り返した。
「ロマンスなし一段抜かしでいきなりママは嫌よ」
「わ、わたしも同じこと言えるんちゃうかな?」
「いいでしょ、はやては。一応好きな人いるんだから」
「え゛……」
 薄ら笑いで切り返したアリサの言葉に、思いっきりはやてが詰まった。
 そのリアクションにアリサの顔が引きつった。
 そして、そのアリサの表情に今度ははやてが即座に悟った。
 カマかけられた!!
「ちょ、ちょっと待ちなさいはやて! 詳しく教えなさいよ!!」
「ちゃう! ちゃうんや誤解や! そない相手おらんよ! 1人たりともおらへんよ!!」
「嘘いいなさい! 今思いっきり言葉に詰まったじゃない!」
「気のせいや! 幻聴や! 耳鼻科行った方がええで!」
「縁に続いて連続で病院すすめんなー!!」
「知らへんよー!?」
 思わず机越しに詰め寄るアリサと、その分後に下がって距離を取ろうとするはやて。
 なんてうらや……ではなく、はやてにそんな相手がいたとは。両想いか? 片想いか? いやそんなの関係ない。この裏切り者め、抜け駆けしやがって。
 相手は誰だ、私の知っている奴か!?
 だからそんな相手おらへんよ!
 堂堂巡りでレベルの低い言い争い、いや質疑応答を周りの目など全く気にすることなくぎゃいぎゃい行う。
 5分後。
 2人揃って肩で息をしていた。
「はぁ……はぁ……ア、アリサちゃん、ここはひとつ秘密の話ってことでどうや?」
 逃げられないと悟ったのか、今度は交渉にのりだした。
「そ……はぁ……そうね、私も今日はこんなことしてる余裕……ないし」
「なら……ふぅ……はよ帰った方が――」
「明日きっちり聞かせてもらうわよ」
 はやての舌打ちが聞こえた気がした。
「てか、今日はやては? 仕事?」
「え、ああ、もちろん今日もあるで。もうちょいしたら行こかなって」
 突然話を替えたアリサに少し驚き、そして心の中で盛大に安堵しながら、はやては左手首にある腕時計を見てから答える。最近よく着けている、ちょっとお洒落な腕時計である。
 さて、はやてはそんなタイプの装飾品を着けてくる人間であろうか。
 ……あれは絶対プレゼントされた品だ。
 アリサは目敏くその腕時計に目を走らせ、その目線に気が付いたはやては自然な動きでさっと隠す。
 小学生と言えど女性は女性。水面下の攻防と腹の探りあいが続いていた。
「ふーん……最近はやてずっと仕事よね。休みも全部振り当てられてるし」
「まあ、厄介な事件もあるんよ。それに仕事言ぅても書類が大半や。前に出るかてまだペーペーやからランク低いの回してもろうとる」
 そう言うはやては、とても良い笑顔であった。
「………なるほど、ね」
 呟く。
 夢がある。希望がある。そういう表情だ。
 そうだ、去年なら、いや半年前ならば、なのはも、そしてフェイトも同じ表情だった。

 まだ現実に打ちのめされていない、良い表情だ。

「ん?」
「ううん、あんまり無理して体壊しちゃ駄目よ」
 呟きが聞こえたのか不思議そうな顔をしたはやてに、何でもないと首を振りながらアリサは返す。
 その一言にはやてはにっと笑って答えた。
「大丈夫や。来週末には皆で4日間の休み貰うてんよ」
「あ、休み貰ったんだ」
「せや、アリサちゃんそん時家に遊びにきいよ。ヴィータが会いたい会いたいって寂しがってたで」
 あの赤毛の少女ははやて以外に対して素直にそんな事言わないだろう。
 話に上った少女の顔を思い浮かべながらアリサは苦笑した。確かに、今度休みの時にでも遊びに行こう。個人的にはザフィーラで遊びたい。
 ちなみに、アリサはザフィーラの狼と子犬の形態しか知らず、その2タイプに変身できるんだくらいにしか思っていない。まさか成人男性のタイプになれる事を知ったら、アリサは今までの行為を思い出して悶死するだろうとはやては思う。ユーノの正体を知った時には1日寝込んだくらいだ。裸を平然と見せていた事を思えば当然かもしれない。連れ込んだのはなのはだが。
「そっか、それじゃあ今度お邪魔しようかしら」
「うん、歓迎するよー」
「ところで、今日なのはってすぐに仕事なの?」
「え、なのはちゃん?」
 再び話を変えたアリサに、はやては疑問を持ちつつ今日のなのはのスケジュールを思い出す。
 別になのはやフェイトのスケジュールを暗記している訳ではなく、フェイトとは違いなのはは基本的に緊急スクランブルがない限りは指導員として働くので、わりと時間通りのスケジュールなので自然と頭に入っているだけである。
 むしろ縁に答えてなかったのかと思うが口にはしない事にした。
「確か今日は7コマ目やから……もうちょいしてから行くんやないかな?」
「よし、だったら――」
 鞄を持って立ちあがる。
 不思議そうに見上げるはやてに、アリサは苦笑を浮かべて返した。

「言った手前、けろりとしてもらわないとね」







 高町なのはは盛大に凹んでいた。
 午後の授業は全てノートも取らず先生の話を聞きもせず、ひたすら机につっぷし額を強く押さえつけ、起立にも礼にも参加せず、体調が悪いのかと心配した先生の言葉すら右から左に流しながら延々と自己嫌悪に陥って過ごした。
 自己嫌悪に陥る要因などただ1つ。
 昼休みの1件である。
 泣いた。
 思いっきり泣いた。
 周りにしっかり見られていたのは確かに羞恥心のみで死んでしまえるくらいに恥ずかしいが、それ以前に泣いた行為そのものがすでに落ち込む原因にもなっていた。
 縁は相談にのってくれた。
 例えバックに怖いアリサが待ち構えていたとしても、事実として縁はなのはの相談を受けた。
 とぼけているかつ少々頭の弱そうなイメージがあったが、それでも縁はなのはの話を笑う事も茶化す事も一切せず、真面目に考え、そして答えてくれた。しかも最後には気にするなと励ましの言葉まで添えてくれた。
 それに対して自分はどうだ?
 縁の意見に一々反論して、そして最後は感情論。そして泣き出してしまって縁を困らせるだけ困らせて終わってしまった。
 ありがとうと言う場面である。反論する場面じゃない。
 そして感情論から泣き出す。まるで子供の喧嘩だ。
 細く長く、まるで魂が抜け出ていくような溜息が出た。
 今日も仕事である。
 気が重い。
 いや、別に仕事が嫌いになっただけではないのだと、自分自身に言い訳をする。
 ああそうだ、今日は時間が少しずれてるからすぐ行く必要はないのだけど……そういえば今何時だろう。帰りのHRは終わった気がするのだが。
 時計を見るためになのはは昼休みが終わってからずっと机に沈んでいた頭を黒板上の時計を見ようとして持ち上げる。
「あ」
「あ、起きとった」
「おはよう、なのはちゃん」
 何故か目の前に揃っていた。
 アリサと、はやてと、すずかである。
「……みんな、なにしてるの?」
「ううん、寝てるなら寝顔拝見しよかな思っとっただけやよ」
 言いつつ何に使うつもりだったのか蓋の開いたマジックを鞄に戻しつつはやてが答える。その隣のアリサは黙って振り上げていた教科書を何事もなかったかのように鞄に戻した。すずかは1歩下がった位置で完全に引きつった苦笑いを浮かべている。
 ……あと数秒遅ければマジックで落書きされていた上に教科書で叩かれていただろ。なんて嫌なコンボだ。というか八神さん宅のはやてさん、今のマジック明らかに油性ですよね。
 そこでふと気がついた。
 アリサがいるという事は―――
「縁なら用事があるって先に帰ってるわよ」
 なのはの視線が僅かに横に動いたのを見逃す事なく、アリサが先手を取りなのはの質問を潰した。やはり、あの昼休みの件で今はまだ会い辛いというのが現実であろう。
 先手を取ったアリサの言葉に、なのははほっとしたような、そしてどこか残念そうな微妙な表情を浮かべる。
「そ、か……あ、あのねアリサちゃん――」
「色々言ってたわよ」
 またもや先手を取った。
「あ、うん……」
「ちなみに何言ってたかは自分で聞きなさい。教えないからね」
 そっか、となのはは呟き、うつむいた。
 次になのはが何を言うのかが手に取るように分かる状態である。相当ショックだった様子だ。
「それから、伝言預かってるわ」
「え?」
 ぱっと顔を上げる。
 縁ちゃんから? と言うような視線に、アリサはふるふると顔を横に振って答える。
「スパルタ思考のウルトラマンから」
 だれやねん。
 そのネタはどうだろ。
 はやてとすずかが心の中で同時につっこんだ。流石親友。
 なのはも思わず目が点になる。むしろアリサの口からウルトラマンなどという短語が出てくるとは思っていなかった。いやウルトラマンが嫌いな訳じゃないのだけど。
「その涙で地球が救えるのか、だって」
 姿勢を崩すことなくすらりと続けたアリサの言葉は、わりと容赦ない一言であった。
 びくりとなのはの肩が跳ねる。
 すずかが思わずアリサに声をかけようとして、アリサ自身が手で制した。
「あと、諦め癖は良くないってさ」
「諦め……癖?」
「付け加えて言うなら、ごめんなさい、って」
 リアクションも返せず、なのはは黙った。やはり伝言の主は縁で間違いないだろう。しかも1つ目2つ目3つ目全てが脈絡のない伝言である。
 そう、脈絡など感じられない。
 眉間に皺がよった。
 なのはの印象では、縁はそもそも話に脈絡がない事の方が多い。だが、決して意味が繋がらない話ではない。縁なりに真面目に考えて、そして出た答えをきちんと話しているだけである。
 縁の伝言の内容を考えようとした時、ぱんぱんとアリサが手をならした。
「はい、伝言終わり。じゃあすずか、帰りましょうか」
「え、あ、うん……でも――」
「ほな、なのはちゃんは私と一緒に行こ。ちょい早いけど、食堂でお茶でも飲もか」
 急かされるようにアリサに手を引かれたすずかは、なのはを気にして声をかけようとするが、それははやてに潰された。酷い。
「あ、あのっ、アリサちゃん!」
 同じくはやてに手を引かれ急かされたなのは慌ててアリサを呼ぶ。
「縁ちゃんの家、教えてくれないかな。謝んないと……あ、でも局行ったら遅くなるかも……」
「ん、ああ、縁の?」
 真剣な顔のなのはに、アリサは少し笑みが浮かんだ。
 うん、良い顔になってきた。
 縁の言った “諦め癖” は、早い内に抜けるかもしれない。
「あ、そっか。アリサちゃん、昨日縁ちゃんの家に行ったんだよね」
 思い出したように口にしたすずかの言葉に、記憶がフラッシュバックのように蘇る。
 あの素晴らしいまでのゴーストアパート。
 ちょっと血の気が抜けた。
「ああ……縁は外に用事があるみたいだから、今行っても誰もいないわよ。明日学校で話すのをすすめるわ」
 『教授』 という短語を口にしなかったのに、決して他意はない。アリサ自身自分の言葉をそう納得する。
「そ、そっか……」
「て言うか、夜に行かない方が良いわ」
「そうだよね。失礼だもんね」
「いや、そうじゃなくてね」
 アリサは頭を抱える。
 さて、何と説明したらいいものやら。
「なのはは縁の家の恐ろしさ知らないんだから、明るい時に心構えもって訪ねるべきだわ」
 誤解を招く一言だった。







「あ、高町教官!」
 時空管理局の廊下を訓練室に向かい1人で歩いていると、不意に後から声を投げかけられた。
 さて、自分の事を教官と呼ぶのは訓練生ばかりである。なのはは現在等位とはいえ空尉の位を持っているため、自分を硬く呼ぶ時ほとんどの局員はそちらの肩書きで呼ぶ。第一なのはは教官ではなく教導官である。よって、呼びかけたのは遅刻しそうだと慌てて訓練室に駆け込もうとしていた訓練生の誰かだと思って振り向く。
 振り向いてから、ああ、“ほとんど” から外れるから例外と言うんだなと納得する。
 手を振りながらなのはへ駆け寄って来る少年は、訓練生ではなく正式な管理局局員の制服を着ていた。いや、どちらかといえば制服に着られている、と言った感じである。似合っていない訳ではないが、おろしたてのような制服はつい先月まで訓練生であった少年を知る者としては違和感が拭えない。
 ボサボサ頭、というより針金山のような頭の、なのはより拳1つくらい背の高い少年である。
「ガンザ君、おはよう」
「はい、おはようございますっ!」
 駆け寄ってから、少年はいささか不格好な敬礼をなのはに向ける。やはりまだ慣れてはいないようだ。
 ガンザ・アーカー空士、まだ等位は貰っていない無等空士だ。とはいえ来月には三等という等位を正式に受け取るので、無位というのは書類上だけの問題であり、実際は三等空士である。
 そして先月までなのはの下、はやてやフェイトすら血の気がなくなる訓練を最後まで脱落せず扱かれ抜かれて生き残り、それだけではなくノルマも単位も全て習得した、今現在なのはが責任を持ち送り出した唯一の人材である。ちなみにガンザと同じくなのはの受け持った訓練生はガンザ含め10人。その内9名は脱落している。どのように脱落したかは言わないが。
 そんな卒業倍率の高い教導官から出たのを評価されたのか、特別捜査官や嘱託魔道師やその兄の提督等々が良くぞ耐えたなと何故か涙目になりつつ推薦してくれたからなのか、それは分からないが、まだ書類上無位であるガンザには例外的にも正式に三等を受けるまでの間なのはの補助教導官という役職を受け賜っていた。
 クロノのような例外スピード出世の塊は別としても、12歳という年齢にしては訓練過程を全て習得し、管理局の空位を持ち、更にはサポートとは言え人に教える立場でもある補助教導官という役職を持つのは随分と早い出世だといえる。明らかに脱落者の多いなのはの下を卒業したらこれだけ期待されるのだという宣伝看板の役割もあると言えばあるのだが。
 ガンザ・アーカー。12歳。魔法は6つ時から使っていると聞いていた。
 要するに、肩書きを除けばなのはの先輩株である。
 しかし、ランクはBに届きそうなC。三等空士。自分の補助係り。
 年齢と魔法暦は上だが立場は下という、社会に出ればよくある状況なのだが、なのはにとっては少々扱い辛い少年である。
「高町教官、今日は早いっスね。まだ6コマ目終わってないっスよ?」
 加えて言うなら体育会系。更に対応に困る。
「うん、ちょっとね。早く来すぎちゃったから、ちょっと散歩かな?」
 はやてに拉致られたのだが。
 ちなみにお茶は飲んでない。到着した瞬間、何故か上司のレティ・ロウランが慌てた様子で連れて行ってしまった。拉致した本人が拉致される、ミイラとりの話を思い出した。
「ところでガンザ君、私に何か用事でもあったの?」
「いえ、見かけたもんですからつい。高町教官、訓練スケジュールの管理も書類関係も訓練生のデータ―も全部1人でまとめちまうっスから、実は俺もやることなくて……」
「あはは、でもガンザ君はデスクワーク苦手でしょ?」
「まあ得意じゃないっスけど、一応事務系の資格もとってるんで基本的なのなら大丈夫っスよ」
「うん、でも報告書に擬音は駄目だからね」
「う、報告書は勘弁してください」
 バツが悪そうにガンザは頭を掻いた。
 少なくともなのはの知る限り、報告書というのは 「ずきゅーん」 だの 「どかーん」 だのという単語が出てくるものではない。というか資格持ってたのか。意外にマメな人だと少し感心した。
「じゃあ、今日はなにか特記の報告ある?」
「いえ、今日はないっスね。事前通り13名バイタル異常なしの全員出席、高町教官は7と8コマ目を担当になるっス。あ、8コマ目で使う魔力負荷のデバイス、チェック済みで隣の部屋に運んどいたんですぐにでも使用できるっスね」
 ほへーっと、なのはは呆けたようにガンザを見た。
「え、なんっスか?」
「ううん、ガンザ君優秀だなって」
「どうも。褒められて光栄っス」
 わりと失礼なこと言われているのだが。
 ぷつっと、そこで話が切れた。
 別になのははガンザが嫌いな訳ではない。どちらかと言えば好きな方だ。よく出来た生徒だと思っている。扱いには困るが。しかし、だからと言って話のウマが合うかと言われれば微妙なところである。故にガンザと2人でいると、このように話が途切れたりする場合も少なくはない。
 なにか話題を絞り出さないと、とガンザはそっぽを向くように明後日の方向へと視線を泳がせた。
「……ねえ、ガンザ君」
「あ、は、はい」
 なのはの声に慌てて振り向く。なのははこちらを見ていなかった。
「もしも、もしもなんだけどね?」
「はあ」
「もしも、友達だった人に嫌われたり、いきなり避けられるようになったら、ガンザ君ならどうする?」
「確認とるっス」
 即答だった。
 迷う事もなく、間髪入れずという言葉がぴったりなくらいに即答であった。縁に続いて2人目である。
「え?」
「……へ?」
 思わずなのはが振り向き、驚いたようにガンザを見上げる。その驚いた表情に、もしかして変な事答えたんだろうかと、逆にガンザの顔に焦りが浮かんだ。
「いやほらっ! もしかして勘違いかもしれないじゃないっスか! だから確認くらいしねーと……」
 何故か焦って弁解する。
 言いながら、あれ、別に言い訳する必要ないんじゃね? とかいう考えが過るが気にしない。

「第一それに、自分諦め悪いっスから……ダチになれたのに1回2回嫌われたくらいで縁切るの、やっぱ我慢できねーっス」

 さてどう言えばいいのやら。
 己の国語力のなさを恨みつつ、ガンザは困ったように頭を掻いた。
 友達だった人に嫌われる、というのでガンザの頭の中には親友とも相棒ともいえる奴の顔がぽっと浮かんだが、よくよく考えると毎日のように喧嘩しているような気がしないでもない。第一そいつからすれば親友とか言うなと怒られる。
 しかし、やはり友達は友達だ。喧嘩をしても避けられても、友達でいたければ仲直りしようと頑張るだろう、自分ならば。
「…………」
 反面、驚いたのは言われたなのはの方だった。
 どうじに、ああなるほどな、と納得できた。
 なるほど確かに、ガンザの言ったそれが当てられるのならば。

 自分は確実に、“諦め癖” がついていると言える。

 ふと、自分の行動を振りかえってみた。
 管理局に勤め始めてから、友達は微妙に距離を置きはじめた。
 しかたがないだろう、なにせテレビもろくに見ていないのでは話についていけるはずがないのだから。それに勉強をする時間もないので、成績はどうしても右肩下がりを刻むだけである。しかも管理局という部門の中で、場合によっては荒事にも刈り出される立場である以上、戦いに身を置いてしまえばやはり雰囲気というのは変わるもの。徐々にだが変わってきてしまったなのはに対して、あらぬ噂が立てられても、それはしかたがないだろう。
 しかたがない。
 しかたがないのだと。
 だって、しかたがないのだ、と……さて、いつから自分はその言葉を髭のおじさんの紋所の如く振りまわし、自分自身を納得させたのだろう。
 いつからだ、と聞かれても困る。
 だって、気がついたら、としか答えられないからだ。
 気がついたら、しかたがないの一言で自分を納得させながら、1人になってしまっていたのだから。
「ああ、なるほど」
「へ?」
「ううん、こっちの話」
 突然ぽんと手を鳴らしたなのはに、びくりと大袈裟に震えるガンザ。訓練生時代の悲しい性とも言える。
 なのはの中にあった “なるほど” と思った気持ちが、感情的にではなく理性として理解できた。
 同時に、苦笑が浮かぶ。
 アリサの言葉が浮かんだためだ。
 しかたがないの一言は、確かに自分を納得させる事はできる。
 だが、解決にはならない。
 友達が自分と距離を置いた。
 この事実に対して自分のした事と言えば……

 そう、同じく距離をとることだった。

 ああ、馬鹿だな。
 本当に馬鹿だ。
 苦笑いが止まらない。
 自分が近付きもせず、一度嫌われたからといって諦める。友達になろうと、仲直りしようと、手を差し伸べる事もしない。
 これならば確かに、自分から友達を捨てているに等しい。
 そりゃアリサちゃんも怒るよね、と心の中で呟いた。
 今更ながらに、友達なくすぞ、と低い声で怒っていたアリサの心情が理解できた。
 新しく友達になるのに臆病になり、仲直りするのも臆病になり、つい事情を全て知っているアリサ達に逃げてしまう。はじめてフェイトと向きあった時に友達になろうと食い下がったあの諦めの悪さは、さて一体どこに行ったのか。
 確かに、諦め癖だ。
「―――――――?」
 首を捻る。
 諦め癖。
 それを指していたのは、友達の事だけだろうか。
 諦め癖というのをなのはに言ったのは、アリサである。だから、ガンザの言った諦めが悪い、というのがアリサの言っていた友達なくすぞという場面に結びついたのだ。
 だが違う。諦め癖、というのを言ったのはアリサだが、それは伝言である。

 その涙で地球は救えるのか、諦め癖はよくない、ごめんなさい。

 縁だ。
 スパルタ思考のウルトラマンじゃない、縁である。
 ああ、と、胸のつかえがとれた気がした。
 ようやく、3つの単語が繋がった。
 それが正解かどうかなどはまる出来にならない。むしろ間違っていても構わない。それでも、とても納得できた。
「ガンザ君」
「へい?」
「後どれくらいで7コマ目はじまるかな?」
「えっと……あと30分くらいっスかね」
 突然のなのはの問いに、ガンザは慌てて待機モードのデバイスで時計を表示させ、それを見つつ答えた。
 それだけ聞いて、なのはは迷う事なく訓練室への向かう道から踵を反す。
「あ、あれ? どこ行くんっスか?」
「ちょっと用事。昨日の件の、妹さんの所に」
 ガンザの問いに、なのはは振り向く事なく答えながらずんずんと歩き進んだ。向かう先は転送施設。なのは自身が転送をつかえれば一番良いのだが、いかせんその病院は報告で聞いただけで行った事がないので転送しようにも出来ない。
 なのはの答えに、ガンザの表情が引きつった。
「え、ちょ、昨日のって……」
 そこまで言ってから言葉が濁る。
 昨日の件、が何を指すのかが分からない訳じゃない。むしろガンザもその現場にいた。到着した時、ディバインバスターが犯人に直撃してきりもみ回転しながら海に落ちていくという怖い場面だったので忘れたくても忘れられそうもない。カートリッジなしとは言え、ディバインバスターの反則的な大出力はガンザも身を持って体験しているからだ。
 しかし、それと同時に犯人がなのはに向かって吐いた暴言も、その暴言になのはがショックを受けていたのも、自分はよく知っている。
 そして、妹の事情を知ったときの、真っ白な顔も。
「でも、あの子、いま閉じ篭ってるって……」
「お話するだけだから」
 白い要塞の “お話” という単語は、“大出力の砲撃” と同じである。
 そんな噂を一瞬だけ思い出し、病院ごと妹を大艦巨砲主義万歳な砲撃で吹き飛ばしすという嫌な想像をしてしまった。
「でも時間が……」
「挨拶するだけだから」
「だけど、高町教官が行っても門前払い受ける確立高いっスよ?」
 頑固者めっ!
 思わず心の中で叫ぶ。
 ずんずんと前を歩く少女の表情は見えないが、これは意地になっているというか、梃子でも意見を変えない姿勢だ。
 と、なのはが急に立ち止まり振り向いた。
 目つきが鋭い。
 反射的にガンザはびしっと背筋を伸ばし姿勢を正す。
 前線に立っているかのような鋭い視線。覚えがある。訓練時間内外と性格が豹変するかのように変わるなのはに対して皆が密かに呼んでいた 『鬼教官モード』 である。
「アーカー訓練生!」
「はいっ!」
 よく通る声だった。
 訓練生卒業しましたよ、という言葉が口から出る前に叩き伏せられるような気迫である。
「あなたが時空管理局に入局した理由を答えなさい!」
「人を助けたいからですっ! マムッ!」
「具体的に答えなさい!」
「事件で泣いたり困ったりする人を1人でも多く助けたいからですっ! そのために自分は時空管理局に入局し、理不尽な力に立ち向かえるように武装隊の訓練を受けに参りましたっ! マムッ!」
「よろしい! 合格です、アーカー訓練生!」
「ありがとうございますっ!」
 条件反射というものだ。
 姿勢をただし直立不動のまま答えるガンザの背中は、やや健康的ではない汗がびっしりと浮かんでいた。
 引きつったようなガンザの表情に、ふっとなのはは表情を和らげた。
「その気持ち、忘れちゃ駄目だよ」
 声もまた、和らいでいた。
 その声にガンザも肩の力がふっと抜ける。
 なのはは再び振り返り、転送施設へと足を向けた。心の中で、私は無理だったけど、と呟きながら。
「ガンザ君?」
「あ、はい」
「あの妹さん、いまとても悲しんでると思うよ? とても困ってると思うよ? ガンザ君の入局理由と私の入局理由は一緒。私としては、あの妹さんのような人を助けるために入局したんだけど、ガンザ君は?」
「え、いえ、俺は……」
 なのはの言葉に、ガンザは次の言葉が出なかった。
 まさしくそう、ガンザもその子のように悲しむ人を見たくないから、時空管理局に入ったのだ。
「今の私にできる事なんて高が知れてるかもしれないけど、それでも、お話だけでも、したいと思う」
 ずんずん歩きながら、なのはは言う。
 返す言葉を探しながら、ガンザも後を追う。
「そりゃ、俺も助けたいっスけど……でも俺じゃ何も……」
「私もそう思う。私だって何も出来ないよ、きっと」
 ガンザに返したその言葉は、内容とは裏腹にはっきりとしたものだった。
 そうだ、何も出来ない。
 兄を捕まえた。
 それは、妹が助かる唯一といっても良い方法を奪った事に他ならない。言い訳はしない。綺麗事にも頼らない。なのはには医療の知識などないから、兄の盗んだロストロギア以外で助ける方法など知りはしない。
 後悔がない訳でもない。
 なのはは、縁のようにきっぱり割り切れる訳でもない。
 今だって思う。本当に兄を捕まえても良かったのかと。
 捕まえた事に対して、なのはは妹に謝る術がない。助ける術もない。ロストロギアは、もうない。
 だから自分は何も出来ない。
 命というチップに対して、なのはは等価を払えない。
 だが、だからといって諦められはしない。
 諦められるものではない。
 そう、諦められない。
 フェイトの時も、ヴィータの時も、はやての時も、闇の書と呼ばれたリインフォースの時も。なのははその一心だったからこそ頑張った。
 結果として、全員救えた訳じゃなかった。
 全員が全員、幸せになった訳ではない。
 何も出来なかった事もあった。
 プレシアも、リインフォースも、結局は、絶えた。
 そこに後悔がない訳ではない。反省がない訳ではない。
 しかし、頑張ったからこそ得られたものも多い。それを、なのはは誇りだと思っている。

 だから、何も出来ないと、しかたがないのだと、そう思い何もせず、諦めてなど、いけない。

 アリサも、縁も、きっとそれを言いたかったのだ。
 いや、気付かせたかったのだ。
 諦めない。それが自分の長所であったのに、それを見失っていて。
 つくづく良い親友を持ったと思っている。
 そして、心の底から思う。
 縁には明日、きちんと謝ろう。
 泣いてごめん。
 困らせてごめん。
 相談のってくれてありがとう。
 おかげでとても、助かった。
 きちんと謝り、お礼を言い、それからそう――

 友達になろう。

 友達になって、今度はきちんと笑い合おう。
 クラスが違っても、友達でいよう。きっと仲良くなれると思う。
 また自分が落ち込んだら、慰めてほしい。
 そして、縁に困った事があれば、必ず助ける。
 悲しい事があったら、必ず取り払う。
 悩んでいたら、相談にのる。
 そう思う。

「でもね、ガンザ君」
 歩きならが、なのはは口を開いた。
 口元が、微かに笑っている。
「泣いたり悩んだりしてるだけじゃ、誰も助けられないよ?」







 高町なのは
 通り名
・管理局の悪魔
・笑顔の破壊神
・白い要塞
・鉄壁の悪魔
・恐怖の指導員
・鬼の申し子
・お話という暴力

・不屈のA's



――――――――――――――――――――――――――――――――
 スランプ絶好調! すみませんシャイニング・フォース イクサが面白くてハマってました。アミタリリとファークリン狙ってるだろ。第8話でLv140突破って何だろう、ガリュウが弱く感じましたよ。
 はい、今回で一旦なのは嬢のお悩み相談編終了です。もちろんアフターケアは少しずつ挟みますけど。
 不屈のエースの逸話がしたかっただけだなんですが!
 伏線張るのもあれですが、この話ではクロガネ自身が言いたい事もいくつか混じっているので中途半端にしたくないと思ったら伸びる伸びる。いやもう短編書いてる気分でしたよ何故か、起承転結の起き上がりの部分なのに。
 つーか、すずか喋らねぇ(笑) 台詞の半分以上が予定外なことにはやてが奪っていく。この間長編が堂々完結した某所のアリすず糖分が強すぎて下手なの書けないという心情もありますが、この子喋ると自然とアリサと絡むんで……うーん。
 はやて暴発暴露話。相手は作中に明記するつもりはさらさらありません(ぇ 。伏線だけは既に何個か張ってるので気がついた人は静かに黙っていてくださいね(笑顔)。まあ、途中でばればれになるかもしれませんが。
 
 ちなみに涙で人は救えないと言ったのはウルトラセブンです、変身できなかった時の。個人的にはA最終回の台詞に次いで好きな言葉です。リアルタイムじゃ見てないのに、昭和作品大好きですよ、仮面ライダーしかり。
「その顔はなんだ! その目はなんだ! その涙はなんだ!! お前がやらずに誰がやる! その涙で奴が倒せるか、地球は救えるか……」
 唐突すぎて怖すぎる、その話の展開が大好き。
 
 次回はツンデレロリィ担当の赤い子が出てきます。
 
 
 
 
○ガンザ・アーカー
 男。12歳。Cランク。空士。時空管理局武装隊補助教導官。ぴかぴかの、いちねんせい♪
 オリキャラです。重要なキャラじゃないです。なので誰かとカップリングすることなどありえません。とある別作品のキャラクターをイメージして作りましたけど、以前書いたものの都合上そうなっただけで、笑って許してください。
 未来で100人切りしたなのはが育てた5人の1人。上から4番目の子です。手加減してたんだよ?
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3件のコメント

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  • 2007-04-17
  • 投稿者 :
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  • 2007-04-19
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[C15] 管理者閲覧であれですが

 コメント本当にありがとうございました。きちんと見て直してるクロガネです。
  • 2007-04-19
  • 投稿者 : クロガネ
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4/6更新 リリカルなのは、短編と呼ぶべきかネタと呼ぶべきか考えた結果これはクロガネ式妄想劇と呼ぶべきなんじゃないのかなぁという曖昧な結論に落ち着きました、みたいなお礼ありです。

魔法の使えない魔法使いの魔法

注意事項!

プロローグ

第1章 『海鳴 縁という少女』
       
基礎情報 第1章終了時点
第2章 『悩み』
         
基礎情報 第2章終了時点
第3章 『誰が為の剣』
           
基礎情報 第3章終了時点
第4章 『教授』
           
基礎情報 第4章終了時点
第5章 『恋ですか?』
           
基礎情報 第5章終了時点
第6章 『切実な事情、迂闊な発言』
           
基礎情報 第6章終了時点
第7章 『縁と看視者』
           
基礎情報 第7章終了時点
第8章 『その言葉、届かない』
           
基礎情報 第8章終了時点
第9章 『失意』
               
基礎情報 第9章終了時点
第10章 『挫けぬ雷刃』
           
基礎情報 第10章終了時点
第11章 『届け、星の光!』
             
基礎情報 第11章終了時点
第12章 『祝福される騎士と風』
 
第13章 『アリサ・バニングスという少女』
第14章 『そして、日常』


本筋関係ないパラレル短編
           

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Author:クロガネ
 鉄と書いてクロガネ。文系の皮を被った理数系。人種差別主義。有神無宗派論者。白衣の天使。瞑想で一日潰したことがある。萌えにも燃えにも反応する。二次元より三次元の方が楽しいと思う。宇宙人未来人超能力者魔法使い等特殊な人間じゃなくて本当に良かったと思っている。変な人といわれる。仲間と言うのはチャレンジャーな人、友人と言うのは変わった人、知人と言うのは普通な人。
 これがクロガネ。
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