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  • 2007-09-09
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魔法の使えない魔法使いの魔法  7

 がらりと盛大な音を立て、険しい表情でアリサ・バニングスは教室のドアを開く。かなり目立つ登場である。
 何事だ? と言うようにクラスメート全員が視線を向ける中、アリサの探していた人物は我関せずと、英語のタイトルで書かれたハードカバーの本を黙々と読みふけっていた。
 吊り目の、黒髪の、無表情。
 今朝ダイナミックな轢かれ方をされていたはずの縁という少女は、何事もなかったかの如く教室にいた。
 つかつかと歩み寄る。心優しいクラスメートの誰かが開けっぱなしにされていたドアを律儀に閉めてくれていたりするのだが、アリサはそれに気がつく事なく縁の横で立ち止まった。
 縁が読んでいた本の中身をちらりと見ると、英語だろうか、もしかしたらそれ以外かもしれないが、とにかく日本語ではない文字がびっしりと書かれていた本であった。そう言えば英語の本を読んでいたとなのはが言っていたなと思いながら、アリサは無言でひょいと縁からその本を取り上げた。
「ん?」
 そこでようやく縁が顔を上げ、アリサはパタンと取り上げた本をぱたりと閉じる。
「ああ、おはようアン――」

 ごん!

 アリサの存在を確認して挨拶をしようと口を開きかけた縁の額に、アリサが軽く振り下ろした本の背表紙が直撃。実に軽快な良い音が響いた。
 その打撃音にクラス全体に沈黙が波紋のように広がる。
「……アンス、流石にこれは痛いぞ」
「だったら病院行きなさい馬鹿! あんだけポンポン車に轢かれてるのに、何で普通に登校してるのよ!?」
 痛いと言いつつ全然痛くなさそうな声色で縁は苦情を口にしたが、それは一刀で切り捨てられた。
 クラス内でぽつりぽつりと、誰だあいつ、と言う声があがる。縁の事だろう。自発的に縁に話しかけるもの自体珍しいのは分かるが、クラスメートなのに顔も名前も知らないというのはいかがなものだろうか。はやても覚えてなかったが。
「なんだ、アンスも見てたのか。それは恥ずかしいところを見られてしまったな」
「恥ずかしい以前の問題でしょうが! どっか痛いところないの!? 」
「ああ、怪我ならない。受身はとれている」
 嘘つけ。あのどこに受身をとる暇があるのか。
「そういう問題じゃなくてっ、自覚ないだけで骨にヒビとか入ってるかもしれないんだから病院には必ず行くの! 後遺症でもあったらどうするの!?」
「……病院は苦手だ」
 アホか。
 心の中で即座につっこんだ。
 交通事故に遭い、すぐに診察を受けないのがどれほど危険な行為か、アリサ自身体験した事はないが何度も教わっている。骨にヒビがいっているかもしれない、筋肉を痛めたかもしれない、衝撃により脳や内臓の機能がおかしくなっているかもしれない、その他もろもろ、痛くないからといっても自覚できない障害があるかもしれないのだ。交通事故というのは、そういうものである。
 その事を縁も知らない訳ではないだろう。しかし、それを病院が苦手というだけで行かないと言う。
 半分感情的ではあるものの、アリサは駄々っ子のような言い分の縁を更に説得しようと口を開きかけ――
 ひょいと、ずっと縁の額に押しつけていた本を横から奪われた。
「あ」
「おはようさん。えっと、縁ちゃん……で良かったよね?」
 八神はやてであった。
 にこーっと笑みをアリサと縁に向け、続いてアリサから取り上げた縁の本をぱらぱら捲り軽く読もうとして、めまいが起きたのだろう、頭が一瞬ぐらりと奇妙な動きで揺れた。
「……と、とりあえずあれや、これ何語?」
「英語だ。おはよう、八神さん」
「あ、名前知っとるんや。と言うより縁ちゃん、英語読めるんやね」
「読めて損はないのだと教わった」
「教わっただけで読めるんか……面白そうな本があったら今度教えて欲しいわ、日本語でな」
「そうか、探しておく」
 ぱたんと本を閉じてから縁に本を返し、はやてはこほんと咳を1回してから表情を改める。
「ほな縁ちゃん、まずは保健室に行こか」
「断る」
 即答だった。
 強情な奴。アリサの頬が一瞬引きつった。
 しかし、その答えを予想していたかのようにはやては表情を崩さない。
「あーかーんー。大事ないと思うけど、それでも診てもろたら皆も安心できるやんか。人に心配させるもんやないで」
「……八神さんは心配なのか?」
「そらあんな愉快な轢かれ方されとったら普通心配するわ。骨折れとるんやないかな、頭打ったんやないかな、記憶跳んどらへんかな、痛ないのかな、色々心配や。なんや遅延性の怪我でぽっくり逝ったりぱーになっとったら事故見とった者として後悔しまくりやで、ほんま」
 愉快ってなに?
 首を傾げ問いた縁へ返したはやての言葉の中に変な単語が混じっていた気がするが、言ったはやても気にしなければ言われた縁も気にしていないので、アリサは何も口にする事はなかった。
 はやての極端と言えば極端な言葉に縁も何かを思ったのか、ぽつりと後悔かと洩らしながら暫し考え込み、顔を上げまっすぐにアリサの方へと向けた。
「アンスも後悔するのか?」
「へ?」
 いきなり話を振られてアリサは瞬時言葉に詰まる。しかしそこは慣れなのか、すぐに表情を取り繕った。
「そりゃね、死なれたら誰だって後悔するわよ」
「アンスは?」
「……するわよ」
 聞かなくてもいい所をわざわざ聞きなおしやがって。正直なのは良いのだが、それに付き合うのは新しい羞恥プレイな気がしてならない。
 そうか。縁はそうぽつりと呟き、はやてから受け取った本を開く事なく机の中に押し込んでからがたんと席を立つ。
「とりあえず保健室に行ってくる」
「病院は?」
「私は現金を所持していない。だから教授に指示を仰ぐ」
 誰だよ教授って。
 前にも同じような言葉を心の中でつっこんだ。
 保護者なのだろうか、縁の言葉を聞いているとその教授というのは育ての親なのだと思われる。縁の保護者と言われればアリサの中では育児放棄を行った諸悪の根源のようなイメージがあるが、会った事もないので勝手なイメージに過ぎない。
 行ってくる、と言う縁にはやては笑顔で手を振りながら行ってらっしゃいとか言って送り出した。アリサも一緒に手を振って追い出してやろうかと思ったが、流石に教室の中でそんな真似はしたいと思わない。
 縁の背中を見送り、その姿が教室から見えなくなった後、アリサはぐるっと教室を見渡した。
 ぱっと、まるでアリサと視線を合わせないようにしてクラスメートが顔を背ける。
 ――別に取って食う訳じゃないんだから……
 別にクラスから村八分を食らっている訳ではない。自慢ではないがアリサはクラスの中ではリーダー的存在でもあるので人望はある。あるのだが、だからと言ってクラスメートと分け隔てなく仲が良いかと言われればそうではない。早熟なせいもあるが、根本的に同年代とソリが合わなくなってきて、皆とは1歩引き客観的立場にいるからこそのリーダーシップだと言えた。
 ふんと鼻を鳴らし、縁の席のすぐ後、自分の席にアリサはカバンを置いてから席に着いた。
 横を見ると何とも言えず申し訳なさそうな表情のはやて―――は、今日は休みなのだろう、不思議そうな表情をしているはやてがいる。
 
「なあアリサちゃん。 『アンス』 って誰や?」
 
「……私よ」
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 時空管理局、無限書庫。
 管理局情報データベースの心臓部。調べ物がございましたら気軽にどうぞ。 (ただしブックドラフトに巻き込まれても自己責任にて処理をお願いいたします)
 そんな張り紙がしてあった無限書庫のドアを、クロノ・ハラオウンは気にする事なくぶしゅ―っと自動ドア独特の音をさせながら開いた。
「それが終わったらB区の5400番台の資料を集めてください! クニーさんはAリスト30から40までの処理を優先してください!!」
「スクライアさーん! 今日分のCリスト頭っからケツまで全部終了しやしたー!!」
「ありがとうございます! 提出部署への振り分けは連絡部署の方にお願いしてますからそのまま出してください! それからマイルクさんの支援を……いえ、F区の2000番台の資料を3年分まで集めてください!!」
「第14陸隊が請求してた資料どうなってるのかって連絡来ましたー!」
「マレーさーん!! Kリストの36番どうなってますかー!?」
「5分下さーい!!」
「14陸に10分後に取りに着てもらえないか連絡してください!」
「スクライアさーん! グランバル船から新しい依頼来ましたー! ロストロギア 『夜鷹』 の過去情報が欲しいとの事でーす!!」
「 『夜鷹』 のランク測定を先に回してください!」
「スクライアさーん! 中核部署から依頼の方来ました―!!」
「クニーさーん! Aリスト一時中断して対応お願いします!!」
 普通に修羅場であった。
 人や大量の本が飛び交う無重力に近い空間で、クロノの探していた人物はその役職に恥じない統率力と的確な指示を行いつつ自らの作業にも手を抜かない完璧超人ぶりを発揮していた。
 無限書庫。
 管理局の誇る一大データベースだが、2年前まではその膨大な量のデータである本が多すぎるため資料を探すにはかなり苦労を強いられあまり役に立たない場所と有名ではあった。しかし、とある事件を切欠に無限書庫に勤める事になったユーノ・スクライアという若干9つの少年が無限書庫を利用し易いように整備したり時間軸やジャンル毎による本の並び替えやらを行い、更には1週間はかかると思われていた資料探しを僅か半日できっちり揃えたりと有用性を律儀にも示しつづけた結果、現在ではハードワークである管理局でもトップクラスの忙しさを誇っている。
 ユーノも職員の体調管理には気を使っているのだが、ついに先月過労と睡眠不足で司書が3人ほど倒れている。残業が全員100時間を超えていれば、まあ誰かは確実に倒れるだろうと予想していたが、まさか3人同時とは思ってもみなかった。根本的に人手が足りず、そして依頼されてくる仕事の量も半端ではないのでユーノへの咎めは幸いにもなかった。
 無限書庫内の様子をクロノはぐるりと見渡してから、流石にこの状況ではユーノに話しかけるのは躊躇われたので、クロノは手近にいた同じ年くらいの少女を捕まえる。
「ちょっとすまない、アースラのクロノ・ハラオウンだが――」
「あ、こんにちはクロノさん、スクライアさんに用事ですか?」
「え? いや、ただの依頼――」
「スクライアさーん! クロノさんがおみえでーす!!」
 困った事に顔を覚えられていたようで、クロノが止める間もなく少女はユーノを呼んでいた。人選ミスっぽかった。
 他の人に指示を出し終えてからユーノは返事をしながら振り返り、そして隠す事なく盛大に嫌な顔をしてくれた。まるでゴキブリでも見るかのような顔であった。
 それからてきぱきと他の人に残りの指示を出してから、ユーノはその身をふわりと浮かせつつクロノの前まで移動する。
「ありがとう。シャリーさんは続けてE区の片付けをお願いします」
「はい、ごゆっくりー」
 ぽんと少女の方を叩いてから指示を出すと、にこりと少女は笑い手を振りながらE区と呼ばれた場所と思われるところへとふわりふわりと飛んで行った。
 ユーノも少女へふりふりと軽くてを振った後、両腕を腰にあててクロノの方を明らかに不満そうな顔をして向く。しかしクロノは全く気にする事もなかった。
「人気があるじゃないかフェレットもどき」
「誰がフェレットもどきだよ。それよりもまた仕事? クロノまで僕達を殺す気?」
「そんな訳はない、聞けば君は前々から申請してた有給を取ったそうじゃないか、休養はしっかり取れてるだろう」
「固定休だったんだよっ、毎回毎回休日出勤だったからね。それにその日はずっと前からなのはと遊びに行く約束があったんだから」
「ほう、ようやくデートまでこぎ付ける事が出来たか。首尾はどうだった?」
「君の妹が乱入して散々だったよ」
 思い出したかのようにユーノは盛大な溜息をはいた。
 先に断っておくと、別にユーノとクロノは仲が悪い訳ではない。どちらかと言えば良好だと言える。
「だいたい偶然フェイトも映画見に来たって言うけど、明らかに狙ってるじゃないか。これで3回連続で乱入されてるよ」
「わざとだって言うのか? ははは、まさかうちのフェイトに限ってそんな事する訳ないじゃないか」
「黙れシスコン。それよりクロノ、仕事ってなに?」
 話を打ち切ってユーノはクロノが持っていたボードへと視線を落とした。
 そろそろ話が戻るだろうと予想していたのだろう、クロノはすっとユーノへとそのボードを見せる。
 そこにはいくつかのウィンドウが開かれたモニター。
 そのメインウィンドウには、昆虫を無理矢理人型にしたような気持ち悪い姿が映っていた。ユーノの顔が一瞬引きつる。
「……クロノ、まさか君までこいつの魔法体系調べろとか言うんじゃないよね? もう未知の体系だって結論は出てるんだけど」
「それも一興だが、今回の依頼は違う」
 うんざりしたように言うユーノ。
 ドールタイプの事件が発生してからというもの、無限書庫にもあらゆる部署から情報を調べてほしいという依頼が殺到している。もちろん看視者の事も含めて。
 事件の手掛かりが少ない事から少しでも情報を引き上げたいという気持ちは分かる。分かるのだが、調べど調べど情報は何一つとしてヒットせず、全てにおいて空振りに終わっているのが現状である。正直なところドールタイプの事件については調べたくないというのがユーノの本心でもあった。
 それに対してクロノもそう言うと分かっていたのか、首を振って否定した後、ボードのスピーカー部分を指差した。
「昨日フェイトが看視者と接触した際の記録だ」
「え!? フェイトは大丈夫なの!?」
 デートを引っ掻きまわしてくれた相手とはいえ、フェイトの身を第一にあんじる。優しさはユーノの長所でもあり短所ともいえた。
「ああ、噂の通り逃げられたさ。だけどその際、看視者が何らかの言語を喋っているのが確認された」
 喋れたのか。
 ユーノは心の中で呟いた。口がある以上何らかの鳴き声なりは出せるだろうとは思っていたが、あの不気味な姿の看視者がコミュニケーションできる言語をきちんと喋れるのは想像し辛かった。
「ただ、その言語が不明だ。それについて調べてもらいたい」
「……あのね、言語不明のをどう探せってのさ、本で」
 溜息をはく。
 無限書庫は巨大データベースではあるが、その実態は巨大図書館でしかない。それを検索魔法で引き出したり移動したりするからこそデータベースとして機能しているのだが、突き詰めれば無限書庫には本しかないのだ。
 もちろん、無限書庫にはありとあらゆる言葉の辞典も辞書も揃っていればそれを翻訳するのも取り揃えてはいる。だが、なんの言語かが不明である以上辞書の調べようもなければ翻訳のしようもなく、それ以前に探す事自体が困難としか言いようがない。もちろん不可能という訳ではないが、無限書庫にあるそのありとあらゆる辞書を全て目を通して白み潰しに探せば見つかる可能性だって十分にある。看視者については正体不明な点ばかりなので、もしかしたら言語も未確認のものの可能性も高いのだが。
「もちろん連絡できるところには全て伝達を行って少しでも多くの情報を集めるように上に申請したさ。とりあえずイタチ紛いの耳にも入れた方が良いだろうという意味もある」
「誰がイタチだよ。取りあえず探してみるけどさ……そのうち上からも指令が来そうで怖いよ、僕はね」
「管理局自体、看視者についてなら砂粒程度の情報でも欲しがるからね、覚悟しとくんだな」
「ありがとうクロノ、気分が悪くなってきたよ」
「お互い様だ、この事件はな」
 用件は済んだのでそれじゃあとクロノは踵を返した。クロノも忙しい身であるし、それにユーノも忙しい身である。これ以上無駄に話をするのは両者とも特にならず損でしかなかったと、言わずとも分かっていたのでユーノも特に引きとめる事はしない。むしろ仕事持ってくるな帰れというのがユーノの素直な本音である。
 そのままクロノは戻ろうとして――ふと自分のすぐ隣の本棚の角隅に転がっている小汚い本が目に付いた。
「……おいユーノ」
「ん、なに?」
 ふわりと飛んで戻ろうとしていたユーノはクロノの呼びかけに反応して振り向いた。
 呼びかけたクロノはユーノの方を向く事なく転がっていた本まで近より拾い上げる。
「まだまだ整理がなってないな、職務怠慢じゃないのか?」
「あ、ごめんごめん。ありがとう」
 振り向きユーノへとその本を投げ渡しながらクロノは皮肉を言いつつ頬を緩め、ユーノも苦笑しながら礼を言った。
 まだまだ無限書庫の整理は半分と少ししか終わっておらず、ユーノが目指す誰でも利用しやすい状態にまで整えるのにはまだまだ時間がかかりそうである。そしてまだその途中のためか、たまに本が変なところから出てくるというのも多々あった。
 ユーノは表紙についた埃をぱんぱんと払ってから、そのタイトルに目を通す。
「……あれ?」
 途端、眉間に皺が寄った。
「どうした?」
「いや、えっと、あれ? この本確か前に整理した気が……あ、でもナンバリングされてない」
 クロノの声も聞こえないのか、ユーノは少しの間ぶつぶつとなにやら独り言を呟いていたが、すぐに顔を上げた。
「これ多分落とし物だね、後で警備部にでも届けとくよ」
 ありがとね。そう言い残して飛び去ろうとするユーノを咄嗟にクロノは引きとめた。
 流石にこの状況のユーノに更に負担をかけるのはクロノとは言え忍びなかったためである。それに自分はこれからドッグに入れているアースラに戻るのだから、少し寄り道すれば警備部にも十分に近いといえる。何だかんだ言いつつ仲が良い。
「いや、僕が届けとく」
 
 
 
 
 
 
 
 
「それでは出席を取ります」
 教卓の前にて出席簿を片手に担任の先生がクラス全体をざっと見渡す。
 結局朝のホームルームが始まっても縁は帰ってこなかった。保健の先生にでも説教されて潔く病院に行ったんだろうなと思いながら、昨日と同じく本来目の前にある後頭部がない席をぼんやりと見ながら、アリサは小さく欠伸を1つした。
 眠い。その一言である。
 幸いにも催眠光線とも取れなくない太陽光が直撃する席位置でない事が助かる。もしもぽかぽか陽気の最大効力射程範囲に捕らえられていたら、朝とはいえども今のアリサに誘惑に耐え切る自身などカケラ程にもない。
「えーっと……その席は……」
 縁の席が空いている事に気がついたのか、担任が名簿に視線を這わせる。まさか担任まで名前を覚えていないというのか。
 その行動にアリサは軽く苦笑する。まあ、クラス替えからまだ1ヶ月ちょっと。ひたすら地味であった縁の事を覚えていなくても、それは仕方がないと言えば仕方がない。
 
 と、教室のドアががらりと開いた。
 
「海鳴 縁、遅れました」
 縁だった。
 病院に行くはずの縁は、何故か淡々と喋りながら教室の中に入ってきた。病院はどうした。思わず口を半開きのままアリサは縁の方を向く。
 どうかしたんですか? 保健室に行ってました。そんな会話を担任と数回交わしてから、縁はつかつかと自分の席まで歩く。流石に顔を見て思い出せないほど担任もクラスを見ていない訳でもなかったらしい。
「ただいま」
「おかえり。病院どうしたのよ?」
 席に座りながらアリサに話かけ、アリサも即座に縁に小声で問い返した。縁は席に腰を下ろして、振り向くように体を捻りアリサの方を見る。先生の話を2人とも聞く気はないらしい。
「帰ったら診てやると言われた」
「……もしかして、その 『教授』 って人お医者さんなわけ?」
「いいや。今は研究者らしい。何を研究しているかはよく分からないが」
 診てやる。そんなことを言えるという事は、医療関係の研究者だろうか。もしくは、今は、という言い回しから察するに以前は医者だったとか。
 なんとも謎な保護者である。
「でも、ちゃんと病院で診てもらった方が……」

「金も時間も勿体ないと言われた。だから病院には行けない」

「――――――」
 一瞬、自分の耳を疑った。
 理解が追いつくのにまばたきを3回。
 金も、時間も、勿体ない。
 事故に遭い、その心配よりも、金と時間。
 自分の子供が、面倒をみている子供が、車に轢かれたというにもかかわらず。
 理解した。
 同時に、がたんっ、と椅子を鳴らして立ち上がる。条件反射化のように、無意識に、気が付いたら立ち上がっていた。
 ふざけるな。
 何だそれは。
 ふざけるな。
 金と子供を天秤にかけんな。そして金をとるな。
 ふざけんな。
 突如として立ち上がったアリサの目を追うようにして見上げてくる縁の顔が、ぽかんとしたものになる。
「あの、バニングスさん?」
 戸惑ったかのような先生の声に、ようやくアリサはハッと我に返った。
 教室を見渡すまでもない。視線が突き刺さっている。
「あ……あはは、ごめんなさい」
 苦笑いに近い愛想笑いを浮かべながらアリサは着席した。着席の際にはやてまでもが思いっきり呆気にとられた顔をしていやがったのがちらりと見えた。あれだ。ハトが分隊支援火器を喰らったような顔だ。
 着席し、こほん、と意味もなく咳払いをひとつ。
 縁が首を傾げていた。
「どうしたんだ?」
 自分自身に問い質したい一言である。唯でさえ現在クラスでの立ち位置は微妙なのだから、あまり悪目立ちするような行動は控えたかったのに。
 少し顔を赤くしながらアリサは口をへの字にひん曲げる。
 ああ、とても、途轍もなく、無性に、非常に、腹が立つ。
 会ったこともない 『教授』 という人物に、腹が立つ。
「いいえ、別に……で、病院には行かなくてもいい、って言われたの?」
「ああ」
「帰る前に具合悪くなったらどうする気なのよ」
「自己責任だと言っていた」
 内心の怒りを表に出す事なく、平静を装って質問を続けたが、それに返した縁の言葉にアリサ自身平静を装えたか自信がなかった。不覚にも一瞬、自分がどんな表情をしているのか把握できなかったのだ。
 そういえば立ち上がった時も、どんな表情をしていたのか覚えがない。
 それくらいに怒りがわいていたのだ。
 自己責任じゃないだろう。万が一なにかあったら、それは病院に行かせなかった 『教授』 の責任であるはずなのだ。本当にふざけんな。
「……で、そのまま引き下がったの?」
 必死に内心を表情に出ないように努めたが、若干声に凄みがにじんだ。
 しかし、それに気がつく事なく縁はうんと肯く。
「今教授は怪我をしている。あまり迷惑をかけたくない」
 お前は怪我以前の問題だろう。
 そう口にしようとして、それは呑み込む。確かに聞いた限りでは 『教授』 の対応は横暴としか言いようがなかったし、明らかに 『教授』 は人間として最低としか思えないイメージはあるものの、それはやはりアリサの勝手なイメージでしかなく、縁を見るからに縁自身はその 『教授』 を信頼している様子である。
 それは他に信頼できるものがない生活を送ってきたせいな気もしなくはないが、それでも縁にとっては信頼している相手の悪口を言うのも気が引けた。
 なんと言うか、縁は良くも悪くも素直なせいで、悪口を言ってもそれを頭から信じてしまいそうな気がしてならなかったせいもある。
「そ、そう、怪我ね。大変な怪我なの?」
「いや、猫に首を引っ掻かれたと言っていた。丁度この辺り」
 その程度かよ。
 丁度喉仏あたりを指さしながら言う縁へのそのつっこみも呑み込む。
「……1つだけ聞いて良い?」
「ん、なんだ?」
 呑み込んだ言葉を溜息に変えた後、どことなく疲れたような声でアリサは問う。
「縁は、その 『教授』 って人の事、信頼してるの?」
 あんな劣悪な環境、きっと縁が部屋をリフォームする前はもっと酷かっただろうあのアパートに1人で住まわせた張本人を。面倒など見ていないであろうそんな奴を。車に轢かれても心配してなさそうな保護者とやらを。
 言外にそんな意味も含めているのだが、縁はその意味を理解しているのかいないのか、おそらく言葉の深読みなどすることなく額縁通りに受け取ってこくんと肯く。

「教授が私を拾わなかったら、こうして生きてなどいない。今まで育ててくれたから信頼も感謝もしている」

 黙った。
 黙って、アリサはもう一度縁の言葉を頭の中でリピートした。
 リピートして、そして何も言えなかった。
 確かに今、明らかに容易に聞いてはいけないような言葉があった。アリサの中にある海鳴 縁という人物のプロフィールに特記事項として記入されそうなくらい衝撃的な、そして怖い言葉が確実にあった。その一言について反射的に聞き直そうかと思ったが、それでも縁はまるで気にしていない風にさらっと言うものだから、逆に聞き難くなってしまった。
 確かに、そう、確かに聞いた。
 そして、アリサは本能的にそれを納得してしまった。
 なるほど。縁の両親は一体どうしたのだろうか、 『教授』 というのは親とは違うのだろうか、そう思っていた。それを全て納得させてくれるような一言だった。ついでに縁と 『教授』 とやらの関係もはっきり分かる一言だった。
 ただ、感情は追いついてくれない。
 つまりあれだ、だからその、なんだ。
 混乱する。
 大きく息を吸って、吐く。大きく息を吸って、吐く。いきなり深呼吸を始めたアリサを縁は不思議そうにお決まりの首を傾げるポーズで見てくるが、それに構う心理的余裕がなかった。
 もう一度、アリサは頭の中で縁の言葉をリピートする。
 更にリピート。
 しつこい位に、もう一度リピート。
 つまり、縁の言葉をそのまま捕らえるならば。


 海鳴 縁と言う少女は、捨て子であったと?


 教授が拾った。
 つまり縁は捨てられていた。
 当たり前だ。捨てられているからこそ、拾うという言葉が出てくるのだ。
 可哀想とか同情したり、なんて親だとか激怒する、それ以前に、ざぁっと音をたててアリサの顔から一気に血の気が引いた。
 確かに、自慢ではないがアリサには明らかに常識離れした人生を歩んでいる親友がいる。それ以前に常識自体が通用しない異世界の知り合いだっている。
 だが、目の前の少女は、それとは全然違う意味で常識離れをした人生を歩んでいた。
 頭の中が真っ白になった。
 同情? 怒り? そんな問題ではない。
 感情も言葉も、なにも頭の中に浮かんでこない。
 だってそうだろう、なんて言葉をかければいい? その事実になんて感情を抱けばいい? 可愛そう? 大変だったね? 馬鹿を言うな、つい昨日まで友達の定義すら理解できなかった少女が、他人と比べて自分が大変で可愛そうな立場に立っていたなんてこと分かっているはずがない。さらっと、本当に気にしていないように言っているのは、ただ単に気にする要因が理解できていないだけだ。気にしていないんじゃない、気にする理由が分かってないのだ。
 縁の言葉が嘘だとは思えなかった。そもそも縁に嘘を言うなんて高等技術、出来るとは思えなかった。
 何を言う?
 何て反応する?
 聞かなかったことにして無視するか。冗談ではない。一度知ってしまったことを無視できるほど、アリサは器用でない事はアリサ自身分かっていた。
 追求してみるか。馬鹿を言うな。傷つけるだけだ。
 なにも言わないでおくか。いや、それは駄目だ。
 少なくともアリサは、根本的に縁が 『何も知らない、理解できないでいる状況』 が我慢ならなかった。だから、それは気軽に言って良い事じゃないと、気軽に人に聞かせて良い事じゃないと、それを教えないのは 『教授』 と何の違いもない。

「アンス? 気分でも悪いのか?」

 心配そうに聞く縁の言葉に、アリサははっと顔を上げる。
「あ、えっと……」
 何かを言わねば。
 そんな考えが自分を急かす。
 だけど言葉が一向に思いつかない。
 昨日もそうだった。縁という少女と話していると、いかに自分の想いを言葉に出来ないかが思い知らされる。
「……ちょっと、寝不足なだけ」
 結局、それしか言えなかった。
 そうか、寝ないのは良くない。縁は特に疑問を持つことなくアリサに一言話しかけ、前を向き、そして思い出したように再び振り向いた。
「忘れていた。おはよう、アンス」
 にこーっと、昨日言った通りに実行しているのかどうかは知らないが、あの花の咲いたような笑顔を向けられた。
 目を奪うような可愛らしいその笑顔に、アリサは苦笑のような困ったような、そんな表情しか向けられなかった。
「うん、おはよ、縁」
 話を聞きなさいという先生の声が聞こえた。
 


―――――――――――――――――――――――――
 ユーノ君初登場、って思っていた以上に書きやすいね君とクロノは。いや、ユーノ君は地味に後半で頑張ってもらわないといけないので書き易いのは大いに助かりますがね。
 ちなみに、次回更新分にサブタイトルをつけるなら 「なのは編」 になりそう……
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4/6更新 リリカルなのは、短編と呼ぶべきかネタと呼ぶべきか考えた結果これはクロガネ式妄想劇と呼ぶべきなんじゃないのかなぁという曖昧な結論に落ち着きました、みたいなお礼ありです。

魔法の使えない魔法使いの魔法

注意事項!

プロローグ

第1章 『海鳴 縁という少女』
       
基礎情報 第1章終了時点
第2章 『悩み』
         
基礎情報 第2章終了時点
第3章 『誰が為の剣』
           
基礎情報 第3章終了時点
第4章 『教授』
           
基礎情報 第4章終了時点
第5章 『恋ですか?』
           
基礎情報 第5章終了時点
第6章 『切実な事情、迂闊な発言』
           
基礎情報 第6章終了時点
第7章 『縁と看視者』
           
基礎情報 第7章終了時点
第8章 『その言葉、届かない』
           
基礎情報 第8章終了時点
第9章 『失意』
               
基礎情報 第9章終了時点
第10章 『挫けぬ雷刃』
           
基礎情報 第10章終了時点
第11章 『届け、星の光!』
             
基礎情報 第11章終了時点
第12章 『祝福される騎士と風』
 
第13章 『アリサ・バニングスという少女』
第14章 『そして、日常』


本筋関係ないパラレル短編
           

最近の記事

プロフィール

クロガネ

Author:クロガネ
 鉄と書いてクロガネ。文系の皮を被った理数系。人種差別主義。有神無宗派論者。白衣の天使。瞑想で一日潰したことがある。萌えにも燃えにも反応する。二次元より三次元の方が楽しいと思う。宇宙人未来人超能力者魔法使い等特殊な人間じゃなくて本当に良かったと思っている。変な人といわれる。仲間と言うのはチャレンジャーな人、友人と言うのは変わった人、知人と言うのは普通な人。
 これがクロガネ。
 とりあえずメールはこちら↓
kurogane951@yahoo.co.jp

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