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[C150]

生命活動の意地
「維持」ですかね。
  • 2008-02-27
  • 投稿者 :
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[C159] 訂正ありがとうございますー!

 修正しましたー! サンクスです!
  • 2008-03-05
  • 投稿者 : クロガネ
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魔法の使えない魔法使いの魔法  5

 忘れ去られたかのような砂漠の世界。砂金かと思うほどに綺麗に輝くその砂を、沈む事のない2つの太陽が延々と照らし続ける。夕日のように地平線を這い続ける太陽と、地平線へ落ち、そして沈む前にその地平線から昇り反対の地平線へと反復を続ける太陽。その世界は朝と昼と夕方しかない、白夜の世界。
 沈みかけた片方の太陽が上へ上へと徐々に昇り、赤く染められていた空に青の絵の具を垂らしていく。赤と青の混じったその世界にて、砂漠の砂を踏みしめて、フェイト・T・ハラオウンは相棒たるバルディッシュを振るった。
 振るわれたその戦斧は鎧のみで出来た自動人形、通称ドールタイプの人間で言うところの首を直撃し、強烈な破壊音と共に兜の部分がぐるぐると空に舞った。頭を失ったドールタイプは鎧同士を繋ぎとめる魔力を失ったのかのようにがらがらと崩れ落ちる。
 アルフと共に破壊したドールタイプはこれを含め合計11体。最初に確認された数は全て倒し、そして今視界内にも稼動しているドールタイプはいない。だがフェイトは油断する事なくバルディッシュを構え、辺りの警戒を続けた。
 砂の世界。
 一面見渡す限りの砂。
『――魔力反応全消滅確認』
『よし、フェイト、アルフ、作戦終了だ』
 念話の通信にて告げられ、そこでようやくフェイトは肩の力を抜く。
 確実な確認を取れるまで作戦は終わらない。執務官として、クロノから教わったことだった。
「やれやれ、今回は歯ごたえなかったねぇ、こいつら」
 同じく警戒を解いたのだろう、漸く口を開いたアルフは狼形態のまま手近にあったドールタイプの破片を前足で軽く蹴り飛ばして面白くなさそうな口調で言った。
 蹴り飛ばされたドールタイプの破片を見、一応それは重要参考物のはずなんだけどと思いつつ顎まで垂れてきた汗を手の甲で拭う。何度やっても、実践と言うのは緊張するものである。
「そうだね、連携が出来てなかったし、同士打ちも多かった。きっと集団戦のプログラムが組み込まれてなかったんだ」
 そのフェイトの言葉にアルフは短く、だね、と同意の言葉を口にする。
 本来、魔道師を襲うドールタイプというのは単体で出てくる。それなのに今回は11体という大所帯であった。
 剣を持つもの、斧を持つもの、素手のみのもの、砲撃主体のもの、そして何より魔力値も上から下までばらばらの様々なタイプのドールタイプであったが、戦ってみれば実に大したことはなかった。
 11体の内、なんと6体が仲間であるはずのドールタイプからの攻撃により撃破されているのである。
 フェイトが剣を持ったドールタイプと鍔競り合いになってしまった時に、突如横から別のドールタイプが手にした斧を振るい仲間のドールタイプごとフェイトを叩き切ろうとしたのもいた。全治3日が今までで最大の被害じゃなかったのかと思いながら慌てて身を落とし斧を避けると、当然のように鍔競り合いをしていたドールタイプの胴体を砕き粉砕していた。生身で当たっていたら上半身と下半身が間違いなく泣き別れしていただろうと顔を青くしたものだ。
 あるものはアルフに向かって魔力砲を打ち込んだは良いが、仲間の配置を一切気にしていなかったその砲撃は、アルフが避けた後にいたドールタイプの上半身を消し炭に変えていた。対物の殺傷設定になっていたのだろう、バリアジャケットやら何やらがあるとは言え、全治3日くらいの怪我しか負わせられない奴らだと思っていたその認識を改めた。
「クロノ、今回のドールタイプ、殺傷設定の砲撃してたんだけど……」
『ああ、アースラでも確認してる。どういう事情かは知らないけど、本格的に嫌がらせレベルじゃ済まなくなってきたのは確かだな。もしくは君達だけか特別か……嫌な言い方だけど、次の襲撃がない限りは何とも言えないな』
 苦笑いのような声が帰ってきた。
 事件による被害というのはゼロになる事などありえないが、少ないに越した事はない。しかし、事件の証拠や進展を見るには事件が起きなければ分からない。ジレンマである。
 特にこのドールタイプによる襲撃事件は主犯へと繋がる手掛かりや証拠が少なく、少しでも手掛かりが欲しいならもう何件か事件が起きねば掴めないだろう。
 そんな心情が分かっているフェイトは、クロノのその言葉に苦笑すら返すことが出来ずに表情に影を落としてしまった。
 悲しむ人をなくしたい。そう思っているのに、事件の早期解決を目指すには事件が起きねばならない。しかし、事件というのは必ずどこかで悲しみを作るものである。クロノのように達観した見方が出来る程、フェイトの心は割り切れるものではなかった。もっとも、クロノも割り切れる人間かと言われればNOなのだが。
『いや、まあ、とにかく今回は被害がなくて何よりだ』
『慣れない軽口言うから……』
『うるさいなエイミィ。ともかくフェイト、ドールタイプの残骸は回収できそうか』
 フェイトの表情を良く見ていたとしか言いようがない程に敏感に察知したクロノが慌てて話を逸らす。途中エイミィからの呆れたような一言が漏れたが、それはフェイトの耳には届かなかった。
 ちらりとフェイトは自分が最後に首を叩き割ったドールタイプの残骸へと視線を落とす。
「無理だね」
 返事をしたのはアルフであった。
 いつのまに人型形態になったのか、アルフ自身の破壊したドールタイプが持っていた大剣をひょいと持ち上げてまじまじと見ているところであった。フェイトよりかは年上に見えるが、それでも20に達しているようには見えない女性が身の丈ほどの剣を持ち上げている光景は、何か変だった。
 アルフの持ち上げているその大剣へとフェイトは視線を移す。

 その剣は、先端から大気へと溶けるようにゆっくりと薄れていた。

 ドールタイプによる魔道師を中心にした襲撃事件の解決への兆しが一向に見えない原因が、この証拠隠蔽性の高さである。
 普通、魔法を使用した自動人形などは、物質に魔力を通し、そしてその物質その物に構築したプログラムを植え込み完成するものである。よって、通常の自動人形であれば撃破したら元にした物質そのものが破片なり何なりの物的な物として残るのである。
 しかしドールタイプは物質に頼らず、1から10まで全て魔力のみにて構成された兵士なのである。
 鎧に見えるそれも、剣に見えるそれも、全て魔力の固まりである。
 よって破壊されたら構築した魔力はセーターの糸がほどけて行くように、ゆっくりと分解されていく。5分もしたら跡形もなく消えるのだ。そして、それを食い止める手段が今のところない。
 証拠など一遍も残さぬ用意周到ぶりである。
 これらを踏まえればドールタイプの襲撃事件における背後の存在について、いくらか考察することはできる。
 ドールタイプを量産できるという事から、背後には一定の規模を持った組織があるのだろう。そして管理局が知るどの文明よりも、魔法についての研究が進んでいるのだろう。推測と言ってもこの程度だ。
 ドールタイプには魔力反応がある。
 逆に言えば、リンカーコアを持っている証拠でもある。
 管理局の研究ですら未だにリンカーコアの全貌が分かっている訳ではない。その扱いは未だに人体に宿る神秘の結晶扱いだ。それを魔力のみで構築されているドールタイプが持っているという時点で、リンカーコア、ひいては魔法技術の発展が管理局よりも大きく進んでいる証拠とも言える。
 ドールタイプが物質を寄り代としたのならば納得がいく。根拠は分からないが、物質というのは全てにおいて魔力を帯び、そこにさらに魔力を通すことによりリンカーコア “らしき劣化品” が備わる。
 しかしドールタイプは全てにおいて魔力で生み出されたものである。
 つまり、ドールタイプのリンカーコアは人工的に生み出されたものなのだ。
 そして、そんな物を量産するのは個人ではまず不可能。よって組織、それもかなり大きな組織であろうと推測されている。
 だが確証はない。証拠が何もないのでは、あくまでそれは推論の域を出ないのだ。

『全く、相変わらず口の硬い兵隊達だな、管理局に欲しいくらい優秀だ。フェイト、アルフ、作戦は終了だ、帰還してくれ』
「あいよ。休日取り消したんだから何か褒美の1つくらいあるんだろうね?」
 君の休日なんて風呂に入ってるか寝てるか散歩してるかしかないだろう。面白そうな口調で言うアルフに対してそう思いながらアースラにてクロノが苦笑する。
『分かった分かった、今度どこかに……フェイト?』
 適当にアルフをあしらおうとして、ふいに何も言ってこないフェイトが気になった。いつもならば了解と短いながらも返事をするのに、フェイトはクロノの声が聞こえてないのかアルフが持ち上げ肩に担いでいるドールタイプの大剣をじぃっと見ていた。
「フェイト?」
「――――あ、うん、帰還だよね。分かった」
 クロノの声に振り向いたアルフがどうしたのかと不思議そうに呼ぶと、フェイトははっと気付いたようにアルフの方を見てから数テンポ外して肯く。そんなフェイトの様子に察しがついたのか、それとも使い間と結ばれているリンクを伝い何かが漏れたのか、アルフは眉をしかめた。
 そんなアルフを見て、気付かれたと察しフェイトはすっとアルフから視線を逸らし、視線を逸らした先にも消え行くドールタイプの残骸を見てしまい、今度は隠す事なく嫌そうな表情になった。
「まあ、私は現場を見てないけどさ……確かに嫌なものがあるよね」
「うん、そうだね」
 アルフもフェイトに習うように視線を落とす。
 ゆっくりと消えていくドールタイプは、何度見てもフェイトの中にある嫌な記憶を思い出させてしまう。
 ドールタイプと同じく魔力のみで構成されたプログラム、八神はやての最愛の家族、ヴォルケンリターと呼ばれる者達。例えこの先どんなことがあろうとも忘れることはないだろう、聖夜の日。
 消えていくドールタイプは、シグナムやシャマルが消えていくあの光景を髣髴とさせる。それから次に消えていくヴィータとザフィーラ。
 そして、今でも鮮明に思い出せる、あの悲鳴。
 あの、悲しい、悲しい、大切な者を失った者の、あの悲鳴。
 それがまるで、今でも響いているかのように記憶の底から聞こえてくる。
『―――フェイト、大丈夫か?』
「……うん、大丈夫。大丈夫だから」
 何を考えているのか分かったのか、クロノがやや心配そうな声を投げかけた。それに対して頭を振り、フェイトはまるで自分に言い聞かせるように呟く。
 自分はあんな悲鳴を聞かないため、あんな涙を流す人を1人でも多く救うため、管理局に身を置いているのだ。
 そう自分に言い聞かせるその言葉は、ある意味お決まりの文句のようになっていた。
「じゃあ、帰ろっか、アルフ」
「……了解」
 笑顔を作りフェイトは話しかけるが、それが無理な笑みだというのがリンクを伝ったものはなくともアルフには分かる。自然とアルフの声は渋渋としたものになっていた。拗ねたようにドールタイプの残骸にあった兜をげしりと蹴り飛ばす。
 思いの外、それはよく飛んだ。
 アルフの渋り声にフェイトは苦笑してから、足元に金色の魔法陣を展開する。転移魔法の準備だ。
「座標設定完了……アースラ船内へ転――」

 ぞくりと、まるで背中に氷を滑らせたかのような寒気が背筋に走った。

 鳥肌が一斉起立。
 じりじりと肌を焼くような2つの太陽に晒されているのに、一瞬だけ寒いと感じた。それもただの寒さではない。砂漠にいるのだと分かっているのに、寒いと感じたその瞬間はまるで北極や南極に自分がいるのではないかと思ってしまった程、体を廻る血が凍りつくような寒気だった。
 そして寒いと感じた次の瞬間、一斉に体中の血の気が引く。
 心臓がばくばくと全力で稼動した。
 続いて油のような冷や汗が体中から一気に吹き出す。
 突然のことに一瞬フェイトの頭はパニックを起こしたが、それは本当に一瞬で、いきなりの寒気の原因は即座に思い当たった。
「フェイト!」
「分かってる……」
 アルフも同等の寒気を感じ取り、既に戦闘体勢を取っている。
 そんな使い魔へと視線を走らせた後、それに習うかのようにフェイトはバルディッシュを構え戦闘体勢を取る。
 間違いない。
 先程の寒気、慣れこそしないが、それは間違いなくフェイトが管理局の仕事についてから向けられる事の多くなった感覚。

 殺気。

 もしくは敵意と置き換えても良いかもしれない。
 そんな、肌にまとわり付くような嫌な感覚。
 ただしフェイトが今まで受けてきた敵意とは格が違った。闇の書事件の際にでも、シグナムと対峙した際にここまでの敵意を向けられた事はない。
 それは相手の敵意や殺気が強いということではない。
 その敵意や殺気を隠すことなく、御魔化すことなく、そしてただ純粋に向けられている。そのレベルで、格が違った。

『フェイトちゃん! 強力な魔力反応出現! 後ろ!!』

 エイミィからの突如の通信に反応するように、フェイトとアルフは全く同時に砂漠の砂を蹴り前方に跳び、そして即座に飛行魔法の術式を一気に構築しながら体の向きを反転させて後を向き、体が落下する直前に飛行魔法を実行、ふわりと体が浮き上がった。
 視線を走らせる。
 敵意を向けてきた、エイミィの言う魔力反応の主を確認しようと視線を走らせ、まずアルフが 「げっ」 と女性としてそれはどうだろうと言う声を上げ、それからワンテンポずれてフェイトが 「うわ」 と言葉をなくした。

 結論から言う。

 看視者だ。

 一度見たら見間違えることのない、その特徴的な姿。
 まるで枯れ木の枝のように細長い腕は4本あり、肘や手首の当たりからは角のような突起物が伸びている。足も長いが腕とは逆に太く、腕と同じく膝などからは角のような突起物。そして人間ならば本来肘や膝と呼ばれる関節が2つづつあり、人間のように2足歩行なのにまるで違うようなシルエットになっている。
 胴体は手足の部分と比べると短く、飾りなのか実際に使えるのかは分からないがセミのような薄い羽が2対4枚背中から伸びているのはとても昆虫を思わせる。
 朝日と呼ぶべきであろうか、空を青く染めていく片割の太陽の光が看視者を照らし、その体を保護するような透明のジェルが所々反射してぎらりぎらりと輝いていた。
 思わずフェイトは半歩程後に下がってしまった。
 正直に言おう。
 映像で見たときよりも、リアルで見た方が何倍も気持ち悪い存在だった。
 顔面部の大半を覆っているトンボのような複眼と思われる巨大な目が、どこを見ているか分からないはずのその目が、気のせいではなく確実に自分の方を見ているのが感覚で分かる。
 アルフの方をちらりと見る。
 同じく後に身を退いていたが、フェイトとは違いかなり後に退いていた。そして物凄く嫌そうな顔をしている。その気持ちは良く分かる、あれを見てしまえば夏場に見てしまった生命力の強い黒くて硬い装甲を持った頭文字がGの昆虫はまだ可愛く見える。それだけ看視者は不気味――もはや醜悪と置き換えて良いくらいの姿をしている。
『確認した、間違いなく看視者だな』
「そ、そうだね……」
「生で見るとさらに気持ち悪い奴だけどな」
 アルフが嫌そうな表情のままクロノとフェイトに呟く。その声をしっかり拾ったのだろう、かなり間を置いてからクロノが 『確かに』 と漏らした声が聞こえた。
『フェイト、コンタクトは取れそうか』
 すぐに気を取り直し、フェイトへとクロノは確認を取った。
 管理局そのものからの命令は捕獲であるが、クロノは話し合いの交渉の後に管理局へ同行を願う形をとる事にしていた。
 相手は体系こそ不明だが魔法を使える――それは魔法を実行するプログラムの構築が出来るということであり、少なくとも知能がないというのは考えられない。言語が共通化・翻訳化を出来ない、もしくはそもそも言葉を話す機能が看視者の肉体にない可能性は消えないが、それでもクロノは話し合いを最初からしないというのを善しとしなかった。それはフェイトも賛成であり、アースラのスタッフ全員の意見でもあった。
「分からない。なんだか敵だって、思われてるみたい」
『敵だって? どうしてだ?』
「背中が寒くなるくらい凄い敵意が向いてる……でも、話し合いはしてみるから」
 ぎゅっと、その感覚を再確認するようにフェイトはバルディッシュを強く握りしめる。
 その様子を見たのか、通信念話の向こうから溜息に似た何かが聞こえる。
『頼む』
 短い、とても短い、だけど彼らしさが垣間見えた一言に対して、フェイトはこくりと肯く。
 ちらりとアルフのほうへと視線を送る。
『アルフは2m間隔で後方に待機。魔法は禁止、構築含めてね』
 リンクを伝って念話とは違う声を飛ばす。
 うんと肯くのを見て、フェイトは視線を看視者に視線を戻す。そこには変わる事なく砂漠の砂を踏みしめ石像のように立ち続けている奇妙な生命体。
 思わず生唾をごくりと飲んだ。
 ひるむな、フェイト・T・ハラオウン。
 生理的に逃げ出そうとした心を叱るように、静かに心の中で一言。
 まずは飛行魔法を決して砂漠へと足をつける。
 1歩、足を前に踏み出す。
 足が重く感じた。
 竜のような巨大な幻想亜種と立ち向かった事もあった。100は下らない大量の魔道師を相手に立ち回った事もあった。いずれも戦闘中に死ぬかもしれないと何度も思った。実際背中を預けたアルフやクロノ、そしてなのはがいなければ本当にまずかった状況だった。
 そんな絶望的な状況と比べれば何ともないはずなのに、看視者のその姿は、その向けられる敵意は、フェイトの進もうとする足を後に追いやるくらいの迫力があった。
 1歩、そしてまた1歩、フェイトはゆっくりと看視者に向かって歩み寄る。その後を指示された通りにアルフがつく。
 看視者のと距離は50m弱。
 近づけば近づくだけ、その異様な姿がはっきりと見えてくる。なんとなく吐き気がしてきた。
 ――これだけの距離にいたのに、アースラのレーダーセンサーは今の今まで拾うことが出来なかった。
 歩きながら、フェイトは思考を高速で走らせる。
 ――それどころか、私達が殺気に気付くほうが早かった。何らかの転移魔法……いや、ステルスの魔法の可能性が高い。それより問題なのはこの敵意。敵意を見せるということは敵対の意思がある? そもそも何で敵対の意思が……ステルスで隠れて見てたなら何でこのタイミングで? ドールタイプを破壊したせいだとしたらもっと早く出てくるはず。
 ざくざくと、砂漠の大地を踏みしめる。
 後から聞こえるアルフの足音が、握られたバルディッシュの感覚が、唯一の救いである。
 しかし――
「バルディッシュ」
((Yes sir))
 そのバルディッシュを、フェイトは待機形態へと移行させる。
 平和の使者は、槍を持たない。
 以前、ヴィータから教わった一言である。
 戦斧は金色の小さな台座に変わり、フェイトの手でも完全に包み込めるくらいになっていた。
 それでもフェイトの足は止まらない。
 ――そもそも看視者の目的は? 戦闘を観察して去っていく事から考えられるとしたら戦闘のデータ―収集。でも魔道師でも前線のタイプじゃない魔道師も被害にあってることを考えると魔道師自身のデータ―か、もしくは魔法そのもののデータ―か。もしくはドールタイプのテストの可能性も……いや、全部おかしい。だとしたら看視者が今ここで姿を現す必要なんて全然ない。何かしらの “情報” が目的ならそれを集めた時点で成功のはず、敵意を向ける要素がない。看視者自身は戦闘行為を行わない以上、姿を現す行為そのものには何のメリットもないはず。
 1歩。
 また1歩。
 看視者との距離、およそ5m。
 立ち止まった。
 バルディッシュを戻したからだろうか、看視者が放っていた敵意が大分和らいでいた。
 看視者の姿は正直正視したくない姿であるが、それを堪えて看視者の大きな複眼をまっすぐに見る。看視者の匂いだろうか、微かにフェイトの鼻をくすぐる匂いがしたが、それは関係のないことだと無視をする。ただ、不思議なことに決して悪臭という訳ではなく、紅茶のような甘い良い香りであった。
「―――」
 いざ話しかけようとフェイトは口を開き、そしてすぐに閉じる。
 何と話しをすれば良いのかを考えていなかった。
 第一、困ったことに看視者自身には捕獲命令こそ下ってはいるものの、何らかの罪状がある訳ではない。
 看視者はドールタイプの襲撃の際に一緒にいて、そして一切手出しする事なく去っていく。ドールタイプの襲撃に関与しているのではないかというのも所詮は推測でしかなく、証拠が何もない以上看視者に罪は何もないのだ。
 今は暗黙の了解と言うよりも黙認されてはいるが、ドールタイプとの関連性を示す証拠がないので看視者の扱いは本来ならば管理局の資料にもない稀少価値のある保護対象の生命体であり、そんな看視者へ魔法攻撃を行うのは本来であれば禁止されている。もしも看視者に知性があり言葉を喋る事ができるならば、訴えたら勝訴間違いなしなのだ。
 しかし、管理局としては看視者の存在を放置しておく訳にはいかなかった。それは理由を聞かずともフェイトは重々理解できる。
 なにせ、看視者という生物そのものが今まで観測例のない新種の生命体、もしくは何らかの異常進化なりを遂げた亜種である。これだけでも十分に管理局としても手中に収めたいと思うだけの価値があるが、それ以上に価値があるものは別にある。

 無論、看視者の使用する正体不明の魔法である。

 一般的に普及しているミッドチルダ式の魔法とは根本的に異なり、そしてベルカ式をはじめとした管理局が知るあらゆる術式とも異なる新種の魔法体系。
 これが最大の価値がある。
 ドールタイプの使用している魔力砲は純粋に魔力を撃ち込んでいるだけの術式も何もない力技でしかないので違うが、看視者の魔法は――とは言え看視者自身攻撃性の魔法を今まで一度たりとも使用した記録がないので一概には言えないが、現れる際や逃げる際に使用する転移魔法や攻撃を防ぐ防御魔法等はどの魔法とも異なるものであり、なおかつ完成度のレベルが異常なのだ。
 通常転送魔法というのはかなり高度な魔法であり、発動までの時間はどうしても長いものである。それに構築自体も難しいので転移魔法展開したまま移動なり別の魔法を並列処理することは不可能に近い領域であった。しかし看視者の転移魔法は全く異なり、推定だが発動までの時間がランクにしてS、時間にしたらほんの1秒以下で発動、そしてその構築中に防御魔法を展開している記録もある。
 そして防御魔法も尋常ではない。硬いだけではなく柔軟性も高く、そして種類も豊富に確認されている。魔力砲を跳ね返す鏡のような防御壁、ヴォルケンリッターの1人のように空間と空間を繋ぎ攻撃を流すという荒技も記録されている。また、何かの防御魔法を展開されているのかは確認されていないが、一定以下の魔力攻撃、推定Aランクに届かない魔力砲は看視者の一定空間では消滅するという怪現象すらも正式な記録にはないが噂されている。
 発動時間や効果・威力、どれもこれも完成度はケタ違いに高く、もしもこの魔法体系が完成されたらまず間違いなくミッドチルダ式は現在の最も一般まで普及しているという座を追われる。
 管理局も基本的にミッドチルダ式が支配しているところであり、上の立場にいる者達としては己の身が危うくなることからの危惧を、そして管理局内の魔道師はハイスペックな魔法に対しての興味を、更には技術者たちは解き明かしたいというその好奇心をそれぞれ持っており、看視者の捕獲は間違いなく管理局の総意であると言っても過言ではない。
 フェイトも魔道師である以上、やはり看視者の魔法体系には興味があるのが本音である。
 しかし、それが理由で看視者の意思に関係なく捕獲――拘束するのはいかがなものであろうか。
 そう思うからこそ、フェイトは同時にクロノの意思に賛成なのである。
「――私は、時空管理局嘱託魔道師、フェイト・T・ハラオウンです。もしも私の言葉が分かるのなら、あなたの名前を教えて欲しい」
 待機状態のバルディッシュを確かめるように少し強めに拳を握り、フェイトは名乗りを上げた。
 嘱託魔道師。それが現在のフェイトが管理局に身を置いている立ち位置であり立場である。ちなみに目標である執務官への試験は前回・前々回と力及ばず2回連続で滑っている。
 対する看視者は応える事なく、じっとフェイトの様子を窺っていた。
「現在、ドールタイプと呼ばれる傀儡兵による魔道師を狙った連続襲撃事件があります。あなたはドールタイプと行動を共にしているという情報があることから、一度話し合いを行いたい」
 ひるむ事なくフェイトは言葉を続け、そして言い切る。
 しかし看視者は黙ったままだった。
 もしかしたら魔法を行使できる知性はあっても、話し合いをする知性はないのかもしれない。
 そんな考えが頭をよぎるが、すぐにそれは否定する。もし話しあいが出来るだけの知性がなかったと仮定した場合、看視者の行動の大半は人間で言う小脳に値する行動、すなわち生命活動の維持と本能的な行動や反射的な行動しか出来ないはずである。その場合、敵意を向ける先であるフェイトが近付いたのならば距離を起き、言葉が理解できない以上フェイトの声は看視者には動物の鳴き声と同じとしか理解できないはずである。
 もしそうであれば、フェイトが近付いても退かず、フェイトの言葉を黙って聞き続けることはないはず。
 もしくは本能的にフェイトが自分よりも格下の存在だと看視者が認識しているならば、逆に観察し続ける必要もなければ逃げる必要もない。
 もちろん100%そうであるとは言いきれないが、野生の動物とは違う反応から、フェイトはそう結論付ける。
 待つ。
 看視者が口を開くまで待つ。
 見ていて気持ち悪くなるくらいの看視者を、まっすぐ見ながら、フェイトはじっと待った。
 1分、2分。
 太陽の1つが徐々に空を青く染め、少しづつだが気温が上がっていく。
 看視者は動かない。
 それと同じくフェイトも動かない。胸の鼓動が嫌に耳についた。
 更に時間が数分経つ。
 最初に動いたのは、看視者だった。
 砂の大地を蹴り飛ばし、そのたった一蹴りでフェイトとの距離をぐんと5mは引き離す。
「あ……待って!!」
 一瞬遅れでフェイトも砂の大地を蹴った。反射的に足が動いたので魔力も何も乗せていない蹴りは年相応の―――と言うにはかなりの飛距離だが、看視者とは違い1m弱しか跳ばない。
 更に看視者は地面を蹴りフェイトとの距離を再び一気に引き離した。
『フェイト! 逃がすな!!』
「うん! アルフ!」
「あいよ!」
 クロノの鋭い声にフェイトは肯き、今度は魔力を込め飛行魔法を一気に構築、2足目で地面すれすれの低空を滑るようにして加速する。
 フェイトが更に地面を蹴るとほぼ同時にアルフも金色の魔法陣を高速展開。
「いくよっ、リングバインド!!」
 逃げる看視者に狙いを定め、拘束力こそ弱いものの構築から起動までの時間が早いことが売りのバインドをけしかけた。
 看視者の右足に一瞬金色の光の輪が出来たかと思うと、次の瞬間には一気に看視者の右足をしめつける。
 突如の拘束に看視者は空中で姿勢を崩し、そしてそれを見逃すほどフェイトの足は遅くなかった。
「バルディッシュ!」
((Yes sir. Haken Form))
 一息でバルディッシュをハーケンフォームにへと移行させ、その大鎌が完成するときには既に看視者の目の前まで迫っていた。そのスピードをそのままに、フェイトはバルディッシュを振るう。
 バルディッシュの魔力で出来た刃先は、看視者の首の紙一重で止まった。
 完全に捉えた。これならば逃げようとした瞬間に攻撃できる体勢である。
 しかし――
「――――」
 捕らえた。
 と、フェイトは楽観できなかった。
 呆気ないほどに簡単すぎた。それが逆に不気味である。今まで様々な魔道師が捕らえようとしたにも関わらず、看視者はその全てを独自の魔法を駆使して、魔道師へと一切攻撃する事なく逃げてきたのだ。
 相手を攻撃する事なく逃げるというのは、簡単そうに見えて実際はかなりの高等戦術である。看視者はそれを今までやってきたのだ。
 にも関わらず、今は魔法を使った形跡が一切ない。
 隠し玉がある。
 そう読んだ。
「……抵抗は止めてください、私達は話し合いを――」
 
 
「ラムピリカポンメノコ……ヤイヌマレ、フェイト・T・ハラオウン」
 
 
 一瞬、何の音なのかが分からなかった。
 腹の底に響くような重い声。そう、声である。
 それが看視者の声だと気付くのに少し時間がかかってしまった。
「ら……らむ?」
 眉をしかめる。
 言葉を話したのは分かったが、肝心の内容が分からなかった。いや、最後に自分の名前を読んだのは理解できたが、それ以外はフェイトにとって初めて聞く言語であり、そして翻訳できない言葉であった。
 くっと、看視者の体が沈む。
 逃げるのか。
 咄嗟にフェイトは看視者の首にバルディッシュの魔力刃を押しつけようとし―――
 
 看視者が、まるで自分の首を切断するように自ら魔力刃に首を押しつけてきた。
 
「え!? わ!」
 何度も繰り返すが、管理局の下した命令は捕獲である。無論、頭に生きたままとつく。決して生死は問わないというわけではない。
 まさか首を切り落とす訳にもいかず、反射的にフェイトはバルディッシュの魔力刃を消してしまう。
 消すタイミングが若干遅かったのか、魔力刃が看視者の人間で言うと丁度喉仏の上を軽く切ってしまい、体を保護しているジェルのような粘液に混じって数滴の緑色をした不思議な液体が宙を待った。
 ――血?
 その血のほうに思わず視線が動き
 
 ぱきっ!
 
「んなっ!!」
 
 軽い音をたててアルフのしかけたリングバインドを、まるで紙の糸でもちぎるかのように簡単に砕く。
 いくら速攻性を重視したために拘束力が弱いとは言え、そこまで簡単に破壊できる魔法ではないはずなのだが――いや、もしかしたらとフェイトはその考えを即座に打ち消す。ランクがAに届かない砲撃を無効化できるくらいのAMFのような防御魔法を展開できるとしたら、ランクAには到底届かないリングバインドを打ち消すことは簡単である。
 看視者はリングバインドを砕いてから、ぐっと姿勢を前に倒し、フェイトの懐に潜りこむ。
 全身から鳥肌がたち、体の血液が音をたてて退いていくのが聞こえた気がした。
 看視者のその姿を間近で見たからではない、現在の体勢は、魔力刃を消したバルディッシュでは、防御も回避も出来る状態ではなかったからだ。
 ―――まずい!!
 咄嗟にフェイトは目をつぶる。看視者が攻撃をしかけてきた記録が今までないのだと頭では分かっていても、看視者のその禍々しい姿は本能的に身を守る体勢を強要してくるものだった。
 ――いや、目を閉じたら駄目だ! 相手を見ないと!
 一瞬でフェイトの理性が本能を叱りつける。
 そして即座にフェイトはその理性の声に反応して目を見開き――
 
 誰もいなかった。
 
「…………あ、あれ?」
 慌てて辺りを見渡すが、看視者の姿は見当たらない。後を振り向いても、あんぐりと口を開けて固まっているアルフがいるだけである。
「え、えっと………看視者は?」
「え、あ、あー……逃げられた、んかな?」
 答えるアルフも何故か疑問系である。
『――逃げられたな。確認がとれた、転移魔法だ』
 クロノの声がした。
 若干声が硬く聞こえた。
「え、でも、ほんの一瞬なのに――」
『その一瞬で58以上の多重転移だ……アースラが捕らえられなかっただけで、もしかしたらそれ以上の多重転移かもしれないけどな。話で聞いた通り、冗談みたいな怪物のようだ』
 その言葉にフェイトの顔が引きつった。
 目を閉じたのは時間にしても0.5秒程度である。そんな時間で60近い、もしかしたそれ以上の多重転移? 冗談のレベルではない。
『まあ、初見で拘束できるほど相手は甘くないさ。それより2人とも、怪我はないか?』
 ふうと溜息をはき、緊張を解いたのかやや柔らかくなった口調でクロノは問いかける。それに対してフェイトとアルフはほとんど同時に肯いた。
『よし、とりあえず今回は看視者が何らかの言語を使えると分かっただけでも収穫だ。後でその言語を調べてもらおう』
 ――調べるの、ユーノの奴だよね。
 ――大丈夫かな、この前の健康診断でかなりの過労気味って言われてたらしいけど。
 クロノの発言に対してアルフとフェイトは即座にユーノへの冥福を祈った。頑張ってくれ、応援しか出来ないけど。
『それじゃあ、2人とも今度こそ帰還してくれ』
「「了解」」
 そろった返事と共に、2人の足元に金色の魔法陣が展開する。
 転移魔法を使い今度こそアースラへと帰還するのである。
 魔法を構築し、ふとフェイトは振り返った。
 
「―――なんだっけ、この匂い……?」
 
 その呟きと共に魔法は完成し、2人は光に包まれ砂漠の世界から姿を消した。
 後に残るのはドールタイプが全て消滅した砂の大地であり、そして、微かな匂いだけであった。
 紅茶の、甘い、甘い、そんな匂い。
 
 
 
 
―――――――――――――――――――――――――――
 実際に紅茶と日本茶の匂いを嗅ぎ分けてみると、かなり違うんだなぁと試してみたクロガネです。
 フェイト強化週間。
 直感や感覚で物事を捉えるなのは嬢とは違い、クロガネの中ではフェイトという子は理詰めで動いているように思えるので、その雰囲気が少しでも出ていれば良いのだけど……
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2件のコメント

[C150]

生命活動の意地
「維持」ですかね。
  • 2008-02-27
  • 投稿者 :
  • URL
  • 編集

[C159] 訂正ありがとうございますー!

 修正しましたー! サンクスです!
  • 2008-03-05
  • 投稿者 : クロガネ
  • URL
  • 編集

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4/6更新 リリカルなのは、短編と呼ぶべきかネタと呼ぶべきか考えた結果これはクロガネ式妄想劇と呼ぶべきなんじゃないのかなぁという曖昧な結論に落ち着きました、みたいなお礼ありです。

魔法の使えない魔法使いの魔法

注意事項!

プロローグ

第1章 『海鳴 縁という少女』
       
基礎情報 第1章終了時点
第2章 『悩み』
         
基礎情報 第2章終了時点
第3章 『誰が為の剣』
           
基礎情報 第3章終了時点
第4章 『教授』
           
基礎情報 第4章終了時点
第5章 『恋ですか?』
           
基礎情報 第5章終了時点
第6章 『切実な事情、迂闊な発言』
           
基礎情報 第6章終了時点
第7章 『縁と看視者』
           
基礎情報 第7章終了時点
第8章 『その言葉、届かない』
           
基礎情報 第8章終了時点
第9章 『失意』
               
基礎情報 第9章終了時点
第10章 『挫けぬ雷刃』
           
基礎情報 第10章終了時点
第11章 『届け、星の光!』
             
基礎情報 第11章終了時点
第12章 『祝福される騎士と風』
 
第13章 『アリサ・バニングスという少女』
第14章 『そして、日常』


本筋関係ないパラレル短編
           

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クロガネ

Author:クロガネ
 鉄と書いてクロガネ。文系の皮を被った理数系。人種差別主義。有神無宗派論者。白衣の天使。瞑想で一日潰したことがある。萌えにも燃えにも反応する。二次元より三次元の方が楽しいと思う。宇宙人未来人超能力者魔法使い等特殊な人間じゃなくて本当に良かったと思っている。変な人といわれる。仲間と言うのはチャレンジャーな人、友人と言うのは変わった人、知人と言うのは普通な人。
 これがクロガネ。
 とりあえずメールはこちら↓
kurogane951@yahoo.co.jp

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