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[C648] データーは嘘つかないよ(by乾)

基本的に戦った相手は死んでるし、策を弄せず勝ててしまう分、データーを取られると脆い部分があるわけですね。逆に縁がしっかりと勉強していたら無敵の存在になってたわけですが


しかし作戦上仕方ないとはいえ、ここでなのは達に手出しさせたらフェイトの説得はまるっきり薄っぺらになりますよね。人によっては「最初から時間稼ぎ」のつもりに見えますし。
  • 2010-06-26
  • 投稿者 : ミヅキ
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[C649] 乾汁

○ミヅキさん
 チートですからねぇ。
 チートでゲームを最初からプレイして、途中でそのチート分を丸ごと相殺してくる敵に襲われた状態ですか。今まで楽に勝てた分、戦術を考える力がないのです。
 さて――どこまで 「時間稼ぎ」 かな?
  • 2010-06-27
  • 投稿者 : クロガネ
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[C650] 違和感ww

はい。違和感を感じるクロガネさんに問題ありかとw
私としては変態丸出しのフェイトに違和感バリバリでしたので、今回のフェイトこそ自身のイメージと一致しました~。
小ネタを挟むナイスガイ達のアースラクルーの活躍に拍手喝采しながら誤字の報告をば。

>蟻の体重と像の体重くらいの差はあるかもしれない。

これは「象」が正しいかと思われます。勿論「像」でも通用しなくは無いですが…(汗

>「あれだけの魔力量なんだから、本当はこんなメンドクサイ術式通すないんじゃないの!?」

これは…「通さない」が正しいでしょうか…?
ちょっと自信ありませんが。


それでは、失礼いたします。
次回も楽しみに待たせていただきますので。
  • 2010-06-27
  • 投稿者 : ノヴェール
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[C651] そんな……違和感を感じないなんて。

○ノヴェールさん
 しょぼーん。まぁ、クロガネも純粋に熱いフェイトも好きですが。
 アースラスタッフ、名前がないと実にやりたい放題。というか、これくらいしてくれないと、マジで鬱い。

 誤字報告ありがとうございましたー! 修正しましたー!
  • 2010-06-28
  • 投稿者 : クロガネ
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魔法の使えない魔法使いの魔法 62

第10章――第6節
――砕けた最強の盾―――


「海鳴さんの防御機構は大きく分けて、魔法の無効化、異様に堅いシールド、そして海鳴さん自身の外皮、この3つ」
「外皮って防御機構なの?」
「バリアジャケットと人間の骨を拳で殴り壊して、それでも皮膚に傷一つない時点で相当堅いと思う」
 説明を切り出したフェイトの言葉に、うへぇ、と嫌そうな声を上げたのはガンザだった。
 ただでさえ前2つの防御機構でさえ抜けないのに、最終装甲が待ちかまえているのかと思うと、なんとも勝てる気がしない。その考えはガンザ以外にもいたのか、数人ほどに多様な表情になっている。
「でも、逆に言えば、それ以外の防御はないと思うんだ」
 そして、さらりと言葉を続けるフェイトのそれに、なのはが首を傾げる。
「なんで?」
「必要ないからだよ」
 答えたのはクロノ。
 視線がクロノに集まった。
「海鳴 縁はその3つの防御機構を今までに抜かれたことがない。抜かれたことがないから、抜かれたときの対策がほとんどないはず……と言うことか?」
「そうだね。海鳴さんは今まで負けなしの無敵だったから、逆にそこにつけ込む隙があると思う」
 ほぼその通りなクロノの言葉に頷く。
「でも、縁ちゃんだって防御が抜かれたときの対策くらい、あると思うんだけど……」
 疑問の声を上げるのは再びなのは。
 3つしかない防御機構に頼っているのは、本人である縁自身が重々承知していると思うのだが。
 しかし、それに対し、まずクロノが首を振る。
「なのはがカードリッジシステムを導入したのは、ヴィータに負けたからだ。スターライトブレイカーも、もとはフェイトに勝てなかったから生まれた。そういう事を繰り返して能力や戦術というのはバリエーションが富むんだ。海鳴 縁にはそういう相手が幸か不幸かいなかった」
「それに、海鳴さんは圧倒的に “戦闘経験” が不足してると思うんだ。一方的な展開ばかりで、追い込まれたこともあるかどうか」
 続けるフェイトの言葉に、そう言えば縁が本格的に魔導師を虐殺して回りはじめてから、まだ半月ほどしか経ってないことを思い出す。それ以前は目撃されても逃げるだけで、縁自身はまるで戦闘していない。
 そして、その虐殺も戦闘と呼べる代物はいくつあるやら。
 短い期間に単純な虐殺作業を繰り返し、それで戦闘経験を積んでいるとはとても思えない。
「あと、バリエーションが少ないのは攻撃の面も同じでね、確認されてるのはピンポイントの爆破と、メタルストーム、サンライト、アクセルシューター、この4つだけ。これだけあれば事足りるから、逆にそれ以上の魔法が必要ないって事だと思う」
「……ホントだ」
 確かに少ない。
 魔法の種類が、異様に少ない。
 そんな少ない魔法で、今までの虐殺全てを行っているのだ。
 それで事足りるから。
 その全ての魔法の性能が、既存の魔法を圧倒的に凌駕しているから。
 だから、少なくても問題がないのだ。
「……ですけど、強いのは変わらない、っすよね?」
 小さくガンザが呟いた。ちょうど静かになったタイミングだったので、嫌に響いた。
「そうだな。防御機構が少ないからとは言え、そのどの防御も抜けた試しがないのは、確かだ」

「ううん。防御機構で抜けたことがないのは、シールドだけだよ」












 爆破したのは残像だった。
 そんな表現が最も適切なほど、左腕を狙った爆破をフェイトは急加速をもって回避した。爆破した地点には既にフェイトはおらず、その両手首・両足首から伸びる黄金の翼と、手にした大検の輝きが尾を引いているだけだった。
 速い。
 単純に速い。
 即座に縁は視界を広げて周りを探る。顔の両脇近くに配置された巨大な複眼は、人間の目よりも視界の範囲が圧倒的に広い。
 空中に蛍光ペンで落書きしたかのように、黄金の輝きが尾を引いている。フェイトの姿自体がまるで追えない。
 その高速機動に追従できるなら、落書きのように空に描かれた黄金の尾の、その描かれる先端を見極めれば良いだけだが、とても出来そうにはない。
 速い。
 速い、が。

 フェイトよりも速い魔導師を、既に殺した経験が縁にはあった。

 殺すだけなら。
「…………ッ」
 懐かしい光景が、浮かんだ。
 何の光景か。
 どんな光景か。
 いつの光景か。
 それを理解するよりも早く、縁はその光景を頭の中から叩き出した。きっと、自分はもう浸ってはいけない思い出だ。
 頭から叩き出すと同時に、縁は術式を一気に組み上げる。
 計算など一瞬。魔力を流すのも一瞬。

 その二瞬で、縁の周り5m半径に、大量のフォトンスフィアが出現した。

 速いだけなら対処は簡単至極。大量の障害物をバラ撒くだけで事足りる。
 狙いをつける必要もない。相手が高速で動く以上、大量の障害物があるだけで動き辛くなる。そして障害物に衝突してしまえば、自身の加速している分だけダメージが増大する。速いというのは、それだけでリスクを背負い込む諸刃の刃である。
 大量に配置したスフィア。
 それだけでも十分のはずなのだが、そのスフィアの間を縫うように黄金の光の尾が走る。
 避けてる。
 良い目をしているという事か。それとも避けられるだけの速度に意図的に抑えているのか。
 舌打ちしたくなる。
 スフィアと言っても、所詮はその次に繋がるプラズマランサーの下準備。そのスフィアそのものは、遠隔操作用の術式を打ち込まれた大量の魔力と、それにより発生している静電気である。
 スフィアに衝突するくらいなら、あの速度に薄いバリアジャケットのことだ、昏倒する程度で済む。その後に落下するが、運が良ければ助かるだろう。
 今リタイアすれば、良かったのに。
 それでもスフィアを避けたフェイトに、舌打ちをしたくなる。
 やはりフェイトに情けを掛けようとしている自分に、舌打ちをしたくなる。
 善良ぶる気など、今更ないのに。
 ならば。
『プラズマランサー……メタルストーム』
 その掛け声に答えるように、スフィアがばちりっと雷を発する。
 配置したスフィアの数は合計400基。そのスフィア全てから、全方位ランダムにプラズマランサーを発射する。例え低速飛行でも、人の大きさならばその時点で回避不能なレベルに弾丸をバラ撒く。
 非殺傷ではない。
 殺す気でいく。
 相手は魔導師だ。遠慮する必要は、ない。
 ――バニングスさんは、悲しむだろうか。
 そんな今更な想いを振り切って。
『ファイ』
 ア、と号令をかける。

 その瞬間に、黄金と黒が視界の隅に。

 シールドを展開するのは、ほぼ反射的だった。
 電流がシールドの向こうで暴れ回る。
 身の丈からすれば異様に巨大な大剣の、その切っ先を縁にまっすぐ向けながら、発射寸前のスフィアを掻い潜り、一気に突撃を掛けてきたのだ。
 不意をつかれた。小癪な。
 その弾丸のような突きを、防いだシールドの面を傾けて反らす。
 若干相殺されながらも勢いそのままに、シールド面を切っ先で削りながら滑るようにしてフェイトの突きは受け流される。
 受け流され、縁のすぐ横を高速で通過するフェイト。横顔が見えた。
 目が、まっすぐに縁を向いている。
 フェイトが加速して “目” で追えなくなるその前に、縁はフェイトの方へ振り向く。
 高速で縁のもとから離脱するフェイトの姿。
 そのフェイトの目の前、進行方向に黄金色の光で編まれた魔法陣。
 魔法陣、いや、ラウンドシールド。
 そのいつの間にか構築されていたラウンドシールドの術式を読み取るのと、フェイトが前転をするかのように縦方向にくるりと身体を半回転させたのは全くの同時だった。
 フェイトの顔が、まっすぐ向けられた。
 赤いその目が。
 こっ、と、展開されていたラウンドシールドにフェイトが “着地” する。高速で突っ込んでいるのに、膝から腰まで猫のようにしなやかに曲げ、反動をうまく相殺している。
 メタルストームシフトを、再び起動させ損ねた。
 その事に気付いたタイミングで、フェイトがぼそりと呟く。
「……バリアバースト」
 瞬間、フェイトの降り立ったラウンドシールドが爆発した。
 ラウンドシールドが弾けるその反動で、フェイトは一気に加速。縁めがけて再び弾丸の如く一直線に突っ込んだ。
 迎撃。
 いや、フェイトはまた大剣の切っ先を縁に向けて構えている。
 斬撃ではなく突き。
 振るう瞬間の隙がある訳ではない。
 超高速で突っ込み、槍の如く突く。その戦法がどこか頭の片隅にひっかかりながらも、縁は即座にシールドを展開。三角、四角、五角、六角、丸に象形文字のような絵の羅列。不可思議で解読不明なその魔法陣が、シールドとして置き替わる。
 ギッ、とシールドがフェイトの大剣を受け止める。
 受け止める、というより。
『ぬっ?』
「一撃!」
 突っ込んできた刃を受け流すよう、フェイトに対して予めシールド面を傾けておいたのだが、その大剣はシールド面を滑ることなくしっかりと喰らいついてきた。
 シールド面に電流が走った。
 嫌な感覚がする。喰らいつくようにシールドに突き刺さる大剣が、無理矢理にでもシールドを破ろうとしている。
 だが、突破には程遠く。
 瞬間、フェイトの手首足首から伸びる黄金の翼が、一気に巨大化する。
 その翼が、大きく羽ばたいて。
「必倒!!」
 衝撃が一気に増大する。
 力技で突き破ろうとするかの如く、無茶苦茶に押してきた。
 さらに翼が羽ばたく。
 縁の身体が、押される。
 なかなかに力強い。
 力強い、が。
『まだ……弱いっ!』
「だったら、ブースト!!」
 フェイトのその掛け声に応呼するかのように、フェイトの足下に魔法陣が展開。雷をまとった魔法陣だ。
 バチッ、とその魔法陣が唸りをあげる。
 まさか。
「スマッシャァァァァッ!!」
 魔法陣が、雷の火を噴いた。
 ブースターのつもりか。
 その最大出力に押されるように、縁の身体がわずかに下がる。それを更に押して、押して、シールドを押し破ろうとするかのようにフェイトは無茶苦茶に押してくる。
 ブースターのように後方へ噴射される雷の炎が、その出力を上げてきた。
 連動するように黄金の翼が一層大きく羽ばたく。
 大剣の切っ先が、シールドに喰らいついて離れない。突き刺さったそこから突き抜けようとする。
 だが。
 それでも。
『届かないんだよ! テスタロッサさん!!』
 叫ぶように、縁が吼えた。
 口から出るのは意味を成さない雄叫びで。
 それ以上押し下がることなく、縁は左下の掌をまっすぐフェイトに向ける。そして一気にシールドを押し返す。
「ぐっ!?」
 弾かれた。
 突き飛ばされたに近い。
 あれだけ全力で突っ込んで行ったのに、簡単に押し返されたフェイトは数mほど宙を舞い。
『トラウマと共に墜ちろ』
 掛け声と共に、大量に散布されているスフィアが一斉に輝いた。
 雷の槍。
 フェイトの顔が一瞬歪む。

『プラズマランサー・メタルストームシフト、ファイア』












「海鳴さんの皮膚が硬いって言っても、シールドを突破した後にもちゃんとした攻撃能力が残っていれば傷を負わせるのは可能だよ」
 続けたフェイトの言葉に、さて、先と言っている事が矛盾しているんじゃないだろうかと思うものが数人いた。
「私が最初に海鳴さんと対峙したとき、魔力刃は確かに海鳴さんの喉を傷つけた。シグナムの刃もそう。シールドとかの魔法と違って、魔力量の増大とかに皮膚の強度は左右されないと思うんだ」
 アルフと共に、日の沈まぬ砂漠で会った。最初とはそれを指していた。
 何だ、硬いって言ってもそこまでは硬くないのか。脅かさないでくれ。ガンザ含め数名ほど、ほっとしたような安堵の息が漏れた。
「まあ、鎧くらい……ドールタイプ程度の物理強度があるのは確かだから、シールドを突破するのに全力で海鳴さんに対しての攻撃そのものが緩くなったら意味がない、くらいで良いと思う」
「……ねぇ、フェイトちゃん」
 声を上げたのは、硬い表情のなのは。
「それってやっぱり、対物……殺傷設定、だよね?」
「魔力量の差が絶望的だからねぇ」
「仮に有限だとしても、まず削り取れない。なのはが1万人いても怪しいところだ」
 エイミィの苦笑いに、眉を顰めながらクロノが続けた。それになのはは渋い顔をする。分かってはいるが、割り切れない。
 なのはが1万人。若干口端がゆるんだ親友と、青い顔で頭を抱える教え子の様子には気がつかなかった。
 魔力量が魔導師の実力差、とは言わないが、縁の魔力量は度を超している。相手の魔力量を削って倒すという非殺傷の戦いというのは、確実に成立しない。それこそ管理局が万全の状態だったとして、全魔導師を総動員しても成立するか否か。それほどの差だ。
 その点、対物設定、俗に言う殺傷設定ならば魔力量に関係なく肉体的にダメージを与えられる。無論、間違えれば相手を殺す可能性も、ある。

「魔法は大体、凶器だよ」

 ぼそっと、フェイトが呟いた。
 魔法世界の住人からすれば耳を疑うような、そんな一言。
「バインドだって、ううん、非殺傷の設定でも、使い方次第で人は殺せるよ。治癒の魔法だって、リバースさせたら殺せるよ」
 さらりと恐ろしいことを口にして、まっすぐになのはに目を向ける
「なのは、私達は、そういうのを扱ってるんだよ。そういう怖いのを扱ってるんだよ」
「あ……」
 どこか聞いたことのある台詞だった。
 武器はあくまで人を殺すものだと、そう口にしていた少女がいた。
「それを生かすも殺すも、活用するのも悪用するのも、全部自分達次第。殺傷設定とか非殺傷設定とか、そこで悩んじゃ駄目だよ」
「……うん」
 頷く。
 フェイトの物言いに、クロノは少しだけ笑んでいた。
 非殺傷だって、相手を殺せるのだ。そこに慢心して安心してしまうと、魔法の怖さを忘れてしまう。武器の怖さを忘れてしまう。殺傷だろうと非殺傷だろうと、武を向けるには違いない。
 それを説いた少女に、挑むのだ。
「で、抜けた事がないというシールドを抜く作戦はあるのか?」
「うん、それについてはアースラにお願いしたことがあるんだ」
 話を切り出すクロノに、フェイトは顔を向けてすぐに切り替えした。
 面倒事が来るんだろうな。まず縁と対峙しようとしている時点で面倒事以外の何物でもないのだが、そんな事を考えてしまいエイミィは軽く苦笑してしまう。
「海鳴さんのシールドは確かに特殊な術式で組まれてこそいるけど、結局のところ何らかの法則に則った術式により起動しているんだから、バリアブレイクの理論はちゃんと通用するはずなんだ」
 なのはが眉を顰めた。
「でも、それってこの前失敗した……」
「失敗は成功のお母さん。前にバリアブレイクで中途半端に解析しかけてるシールドのデータが、バルディッシュに残ってるんだ」
 構築式不明、術式不明、系統不明、意味不明。そんな縁の魔法のデータ。
 前に縁と対峙したとき、なのはの言う通りシールドを破壊するのは失敗した。だが削れた感触は確かにあったのだ。
 ただ、時間がなかった。
 術式の解析と割り込みを行う時間が、まるでなかった。
 だから、逆に言うならば、時間さえあれば、できるはずだ。
「今、そのデータを元に全体の術式の予測解析をしてるの。それで足りない分は、ぶつかった時に割り出すよ」
「……え、もしかして私達って」
「うん、手伝って」
「なるほど、フェイトちゃんは私らに過労死しろと」
 随分としたたかな子になったなぁ、とエイミィは一瞬遠い目をした。
 未知の術式のほんの一部から、その術式全体の予測をしろとか鬼過ぎる。何パターンになると思っているのだろう。
 もっとも、フェイトはシールドの術式の全てを解析してほしいとは言っていない。未知を既知にするのではなく、割り込んで破壊する部分だけ割り出してほしいのだ。もちろん、術式全てを解析した方が破壊の成功率は格段に上がるだろうが、それを解析するだけの時間は恐らくない。
「あの……」
 と、ガンザが小さく手を上げる。
「厄介な防御機構が、一つ残ってるんっすけど」
「あ、そうだよね、魔法の無効化……」
 外皮、シールド、そして魔法の無効化。フェイトが一番最初に切り出した3つのうち、最も厄介なのが魔法無効化の能力である。
 縁が現在魔導師に対して圧倒的優位に立っているのは、人間の魔導師とは桁が違う莫大な魔力、そして全ての魔法を無効化してしまうその能力のせいだ。特に魔法無効化の能力は、魔導師に対して絶大な効果がある。
 魔導師は、結局のところ何でもかんでも魔法に頼っている。それを全て無効化されてしまっては、まず戦闘が成り立たない。
 それに対峙した魔導師をまず殺すという、徹底した相手の戦闘経験の排除だ。戦闘を交えて瀕死でこそあったが生きて帰ってきたなのはとフェイトが特殊なだけで、対峙した魔導師はまず殺されている。データこそ死に際に残せても、戦闘経験を引き継げない。失敗をデータでしか生かせない。だから対策を立て難いのだ。
「それなら空戦に持ち込めれば、確実に封じられるよ」
 その対策を、フェイトはさらりと口にした。
「ガンザ、あなたは魔法なしで空を飛べる?」
 きょとんとしたガンザに投げ掛けられたその質問に、ガンザは慌てて首を横に振る。
「いいえ、そんな特殊なスキルは……」
「そうだね、それは海鳴さんも同じ。それじゃあ、いつもどうやって飛んでる?」
「それは、飛行魔法っすけど」
 そのガンザの問いに、あー、とやや間の抜けた声が上がった。
 クロノだ。
 額を片手で押さえ、天井を仰ぎ見ていた。
「なるほど、そうか。どうしてこんな単純な事を、誰も予想できなかったんだ」
「なのはの世界には、コロンブスの卵って言うのがあってね」
「知ってるよ」
 天井を仰ぎ見ながら苦笑するようにクロノは呟く。
 何を言っているのだろう。なのはが首を傾げた。
「あの、話が……」
 見えないんっすけど、というガンザに、フェイトは改めて向き直る。
「つまりね、海鳴さんも空を飛ぶときは飛行魔法で飛んでるんだよ。そして飛行魔法で飛んでいるっていう事はね――」
 一呼吸置いて。

「飛んでる時に魔法無効化の能力を発動させたら、海鳴さん自身の “飛行魔法” がキャンセルされちゃうんだよ」












 確かに、縁はファランクスシフトをコピーした。
 加えて一発当たりの威力も増大し、プラズマランサーの基台であるスフィアの数も10倍を軽く越え、その射撃間隔も極短で、更には掃射時間も延長されている。ファランクスシフトをコピーしたと言うが、その総合火力は天と地ほどの差がある。蟻の体重と象の体重くらいの差はあるかもしれない。
 が、縁がコピーしたのはファランクスシフトのみである。
 あの時は縁が看視者だと分かり、気が動転していた上に友人だと思っていた縁を傷つける訳にはいかないと思い、本気ではなかった。そんな言い方をすると、まるで負け惜しみのようなのだが。
 だが実際、今のように1対1の状況、本気でファランクスシフトを使用するならば、フェイトは縁のような使い方はまずしない。
 基本的にファランクスシフトはコンボ前提である。
 まず相手の体力や魔力を削り、バインドで足止めを行う。そしてファランクスシフトを撃ち込む。本来ならば手順はそうなるのだ。
 ファランクスシフトは魔力の消耗が激しく、外せない一撃だからだ。外せないからこそ、外さない状況を整える。

 逆を言えば、ファランクスシフトはそこまで命中率の良い魔法ではないのだ。

 ソニックセイルをフルオープン。
 手首足首より展開されている金色の翼が大きく羽ばたくのと、雷のスフィアが輝きながら一瞬膨らむのは全くの同時。
 そして、スフィアよりプラズマランサーが発射される。
 遅い。
 瞬き一つ、その間。
 プラズマランサーが発射されるその時には、フェイトは既にその場にいない。
 全方位へランダムにプラズマランサーを射撃する、その有効範囲にフェイトの姿がない。更にそのど真ん中に位置する縁は、飛び交うプラズマランサーの嵐に視界が悪過ぎ、いなくなったフェイトの姿を探せない。
 フェイトは速い。
 有効範囲から離脱したというのだろうか。この一瞬で。
 面倒な。
 このままプラズマランサーを大量にバラ撒き続ければ、いつかは当たるかもしれないが現状では埒があかない。
『ストップ』
 その号令と共にプラズマランサーの射撃が止む。
 空気が帯電しているとでも言うのか、パチ、パチ、と微かに弾けるような音がする。
 スフィアで視界が悪い。
 更に縁はそのスフィアも霧散させ

「ぅやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 直上。
 黄金の光を放つ大剣、その切っ先を真っ直ぐに向けて突っ込んでくる人影。
 それが何かを判断するより速く、即座にシールドを展開。
 直後、大剣の切っ先がシールドを捕らえた。
『っ、しつこい!』
 シールドを削り、貫き、突き破ろうとする大剣とシールドとの間に火花が大量に飛び散る。
 その火花の向こう。
 金の髪を持つ、綺麗な少女。
「頑固者だって、よく怒られてて!」
 金色の翼を羽ばたかせ、再び縁のシールドを押し破ろうとしているフェイトは、苦笑と共に吼えた。
 ちっ、と小さく舌打ちをすると共に、フェイトに対してシールド面に一気に角度をつける。受け流すかのように角度をつけられたそのシールド面を、大剣の切っ先がガガッと音を立てながら滑るように削る。だが喰らいつく。
 本当にしつこい。
 更にフェイトが押してくる。
 その程度でどうにかなる程脆いシールドでも、不安定な飛行魔法でもない。
『私のことも、諦めれば良かったんだ!』
「これでも随分悩んだんだから! 海鳴さんはとんでもなく強くて、凄く怖くて!」
『だろうな、私は――っ!』
「それでも悩むっていうのは!」
 がりっと、シールドを削る。損傷率はコンマ1にもまるで届かないが、確かに少し、シールドが削れる。
 大剣にある黄色の宝石が、ぴか、ぴか、と数回光った。嫌な感じがする。
 金色の翼が、より一層羽ばたいた。

「心の何処かで、諦められなかったってことで!!」

 それがしつこいと言うのだ。
 シールド越し、縁は左下の掌をフェイトに突き出す。
 だったら頭を吹き飛ばす。
 その頭を。
 誰かを思い出させる、金の髪があるその頭を吹き飛ばす。
 容赦なくピンポイントでそこを爆破してやろうと、縁が狙いを定めた瞬間、フェイトの目が見開かれる。
 しつこいくらいに喰らいついてきたのに、爆破してやろうとした途端にフェイトの大剣がシールドの上を滑った。
 削り、滑り、頭の位置がブレる。
 そしてブレたと思った瞬間にはフェイトの姿がない。超高速で離脱している。
 シールドの向こうで爆発が起きる。誰もいないところでの爆発。
『っ』
 シールドの目の前での爆発を、自分のシールドで防ぐ。自爆じゃないか。
 視界が一瞬塞がれる。
 となると。
 後ろにシールドを展開するのと、そのシールドを抉るかのように大剣の切っ先がぶつかったのは、ほぼ同時だった。
 大剣と言うか、ほぼ突撃槍だ。
 その身体に合わぬ程の大剣を振るうより、隙が少なく高速戦闘に合った戦術だ。
 振り返ると、シールドを破り抜かんばかりに大剣を突き立てているフェイト。心の底から思う、いい加減に諦めてほしいと。自分のことなぞ放っておけばいいと。
 放っておいて、地球で静かに暮らしていれば、命までは。
「海鳴――さんっ!」
 呼ばれた名前にはっとする。
 フェイトは魔導師だ。
 魔導師だから、殺さないと。
 即座に縁はシールド越しに右下の手の平をフェイトへ向ける。
 アクセルシューターを撃ち込むか。否、シールドが邪魔だ。ならばやはり爆破するか。いいや、こんな至近距離じゃ。
 一瞬の迷い。決して躊躇ではない、はずだ。
 魔導師は殺す。
 魔導師だから殺す。
 殺さなくては。
 脅迫概念に近い妄執が、頭の中をひたすらに駆け巡る。
 すぅ、と、手の平を向けられて尚、今度は逃げもせずにフェイトは小さく息を吸う。
「……ぇ――」
 小さく、そんな一言が向けられて。

「――縁っ!」

 名前を、呼ばれた。
 何故だろう、たったそれだけの事なのに。
 名前を呼び捨てにされただけなのに。
 胸の奥がザワりとする。
 フェイトに向けた手を、一瞬戻してしまった。
 訳はない。理由もない。きっと、我武者羅に突き抜けようとシールドを押してくるフェイトの猛攻にたじろいだのだ。
 決して。
 絶対に。
 怯んだ訳では。
 ない。
 怯んでなんか。
 ない。
 一瞬だけ、そう、たった一瞬だけたじろいで戻しかけた手を見て、フェイトが少しだけ笑った気がした。
 何だ。
 なんだ。
 なんなんだ。
 怯んだとでも思ったのか。名前を呼ばれただけで、怯んだと思ったのか。
 ぐちゃりと奥歯を噛みながら、再びフェイトへと手の平を向ける。
「最初から、そう呼んでれば良かった……そう呼んでたら、違ったかな、私たち!」
『ごちゃごちゃとっ!』
「私は――うわぁっ!?」
 喰らいついているシールドごと、フェイトを弾き跳ばした。
 フェイトの身体が面白いほどにくるくると宙を舞い、5m程離れた場所でようやく体勢を立て直す。
 その時には既に魔力弾を形成し終わっていて。
『アクセルシューター、ファイア!』
 その弾丸が、体勢を立て直したばかりのフェイトに撃ち込まれた。
 容赦なく。
 アクセルシューターという名前ではあるが、なのはの使うアクセルシューターとは、既に別物である。
 加速量がとんでもなく、計算上は発射した1m地点で音速を既に突破し、2秒後には音速の5倍に達する。内包した魔力量云々や、直撃したら大爆発を起こすロケットランチャー的な性能という前に、まずその速度だけで人を殺せる。そんな性能のアクセルシューター。
 いくらフェイトが速いとはいえ、これより速くはない。
 まして、体勢を立て直したばかりのフェイトが避けられるはずが。
 そう考えての一撃で。

 ソニックセイルを羽ばたかせ、無理矢理身体を捻るように飛び避けた。

 避けた。
 紙一重ではなく。
 避けた。
 体勢を立て直したばかりなのに。
 まるで、追撃が来ると分かっていたかのように。
「っ、やっぱり理詰めだ、縁は」
『縁と呼ぶな!!』
「縁が、魔導師とかテスタロッサさんとか、私をそう呼ばなくなったら考えるよ」
 そう皮肉のように、それなのに綺麗な笑顔を浮かべてから、フェイトは再び大剣を構える。
 左足を約半歩踏み出して右上段の構え、そのまま下ろしてつばが口の高さ、八相の構えをとってから、ゆっくりと大剣の剣先を下ろす。切っ先がまっすぐに縁に向けられた。
 突きか。
 馬鹿の一つ覚えでもあるまいし。
「これの意気込みは――今だってまだ、2人分だよ」
『……2人分?』
「私と、縁の」
 そんな、縁にはよく分からない意気込みと共に、フェイトは空を蹴る。
 蹴ったその瞬間に、フェイトの身体が黄金の光を引き連れて残像と共に消える。当たり前だが一直線に突っ込む真似はしないらしい。
 視界を広げる。
 全天文全方位、縁を取り囲むように黄金の光の帯が駆け巡っている。
 意気込みは2人分。
 何だと言うのだ、それは。
 どこか引っかかりを覚えてしまうフェイトの言葉に、縁は小さくねちゃりと舌を打つ。
 そんなこと、今はどうでも良いはずなのに、妙に気になる一言で。
 それに気を取られた。
 シールドを展開。
 真上。
 即座に顔を向けるのと全く同時、そのシールドを真っ正面からフェイトの一撃が捉えた。
 ガッ! とシールドを叩き、喰らいつく。
 加速をつけたその突撃。しかし、先までと同じくその突撃では縁のシールドを突破できない。
 黄金の翼を必死に羽ばたかせ、喰い破ろうと剣先を突き立てる。
 でも届かない。
 フェイトの攻撃は、縁の防御を僅かにしか削れない。足下にも届いていない。力不足も良いところである。もっと速く、もっと強く、もっと重く、もっと凶暴な一撃でないと、このシールドに届きはしない。
 結局魔導師は、こんな弱いものだったのか。
 フェイトもまた、こんなに弱いのか。
 フェイトは速いが、たったそれだけで。
 そして、その速さとやらも、その気になれば十分に対応できる程度でしかなくて。
 今まで魔導師の力を測りかね、怯えていた自分が馬鹿みたいじゃないか。
 これだったら、この程度だったら、人間の生活なんてせず、そのまま魔導師を片っ端から殺して回れば良かった。ひたすら殺して、ただただ殺して、そんな化け物であれば良かった。
 そうだった、悲しい思いも、苦しい思いも、しなかった。

 アリサにだって、逢わなければ。

「縁っ! 私はね!」
 その声に、ふと我に返る。
 シールドに喰らいつきながら、フェイトが叫んでいた。
 うるさい。
 叫ぶのは、悲鳴だけで十分だ。
 返事のように、縁は左下の手をフェイトに向ける。
「私は、弱い人を助けたい!」
『っ?』
 どこか、聞いたことのある言葉。
 即座に頭を爆破してやろうとした動きが、止まる。
「困ってる人を救いたい! 理不尽な力に、理不尽な現実に、泣くような人達を守りたい!」
 だから力が欲しい。だから強くなりたい。
 ああ。
 ああ、そうだ。
 それは、フェイトの言葉だ。
 そうか、そうだ。思い出した。

 速さを最大限に生かした突撃戦法。それを提案したのは、自分じゃないか。

「今でもそう思ってる!」
『だから、具体的には、誰を助けたいとほざくんだ!!』
 気がつけば叫び返していた。
 あの時と、あの剣道場の時と同じような言葉を。
 人のために、人のために。
 何処の誰かもよく分からない、それが善人なのか悪人なのかもよく分からない、そもそも助ける必要のある奴なのかどうかも分からない。それなのに全部を全部、助けられるだけ片っ端から助けたい。そんな “人のために” という化けの皮を被った破滅主義の理想論。
 無茶で無謀で際限なく高い目標を、無理矢理力ずくで達成しようと、求める力もまた際限なく。
 そして自身ではその力を得られなかったとなると、それを他に丸投げしてしまう、押しつけてしまう、そんな馬鹿の理想論。
 夢を託したと。
 理想を託したと。
 そんな綺麗な言葉で取り繕って、他の奴を地獄へ巻き込んで押しつける、そんな屑の理想論。

 縁はその、人を助けるための力とやらを目指して、その綺麗な言葉の理想論を目指して、作られたのだ。

 まだ言うのかフェイトは。
 そんな不特定多数を助けるために暴力が欲しいと、まだ言うのか。
 それで誰かを巻き込むのか。
 助けるという名目で、誰かを不幸にする気なのか。
 結局フェイトも、魔導師に過ぎないのか。
 胸の奥に怒りが灯る。
 爆破なんて生温い。
 多少刃が肉を抉ろうと構いはしない。
 その頭を、握り潰してやる。
 そんな考えと共に、シールドを消そうとすると、フェイトはすぅ、と小さく息を吸う。
 弱い人を助けたい。
 困っている人を助けたい。
 理不尽な力に、理不尽な現実に、泣いている人を助けたい。
 こんなはずじゃなかったと、泣いている人を助けたい。
 それは今も変わらない。その想いは変わりはしない。縁にバルディッシュが武器だと言われても、人殺しの道具になんてさせて堪るかと誓ったときに、改めてそう思った想いは今でも変わりはしない。
 そして、それが誰かと聞かれた。
 具体的に答えろと言われたら。
 今、返す答えは1つしかない。

「君だよ、縁っ!!」









「言語体系からまず違うって、普通に考えたらそこから解析始まるんじゃないかなぁ!?」
「魔力から術式経由して外界に力やエネルギーを形成するんだから、俺たちの魔法の常識から地平線までかけ離れちゃいないでしょう!?」
「突破する綻びとかね、見つかる気がまるでしねぇ!」
「ベアハックだ、死ねぇ!!」
「術式量からしてほどんど儀式魔法じゃないか! バリアブレイクじゃなくって儀式破壊や神殿崩壊の理論は使えないの!?」
「それだそれ! 儀式破壊のデータを流用するんなら!」
「ちょっとちょっと! そんなブレイクの仕方したらあのアホみたいな魔力量がそのまま爆発するでしょうが!!」
「霧散させりゃいいんだろ霧散させりゃ! 用は展開したシールドの魔力を解きゃいいんだよ!」
「出来たらもうしてるって!」
「術式これで全部だよな! もう転送してくんなよ艦長の妹!」
「さんを付けろよデコ助野郎!」
「あれだけの魔力量なんだから、本当はこんなメンドクサイ術式通す必要ないんじゃないの!?」
「簡単な術式でも力技で速攻発動できるよねぇ!?」
「バーサーカー魂!!」
「次元震起こさないようにとかの術式じゃねぇの!?」
「アホか! シールドはこんな訳分からん魔力量になる前から使ってたじゃねぇか! 改良する必要ねぇからそのまま使ってんだよ!」
「固有振動数値、割り出し完了っ!!!」
「よっしゃぁぁぁあぁっ!」
「ブレは!? シールド展開毎に振動数違うとかいう素敵に無敵に絶望的な展開ないよね!?」
「6パターン全部解析出してます!」
「何で固有振動数調べてんの!?」
「あのシールド物理的な強度も半端ねぇから、だったら物理的な振動数による破壊が出来るんじゃないかって!」
「これでソリタリーウェーブが有効ですね!」
「意味分かんねぇよ!」
「6パターン全て中核の固有振動数値にブレなし! いけます!!」
「あとは魔力壁だ! もう一踏ん張りすっぞーっ!」

 アースラは戦場である。
 惑星上空、衛星軌道上に乗っかり浮遊するアースラのブリッジに、大量のデータが送りつけられていた。
 送り主はフェイト。
 データはそう、縁のシールドのデータ。
 本来の戦闘におけるバリアブレイクならば、侵入して得たデータはデバイスの中で処理されて解析するのだが、そのシールドに侵入して得たデータを全部送りつけてきている。丸投げだ。
 解析しなければいけない量が多いならば、解析速度を上げればいい。
 たったそれだけの理論だ。
 バルディッシュをフルドライブ状態にし、全力で縁のシールドに割り込みをかけてデータを収集する。そしてそれを解析など一切行わず、全てアースラに押しつける。
 そしてアースラの機材・スタッフを総動員して一斉にそれを解析するのだ。
 小さなデバイスと、巡洋艦に搭載されたコンピューター。どちらの処理能力が高いかなど、問うまでもない。さらには人海戦術だ。それも発想が嫌に柔軟な前艦長に鍛えられたスタッフ達だ。フェイトが送りつけてくる大量のデータを、怒声と悲鳴と歓声と小ネタを叫びながらも片っ端から処理していく。
 早い早い。データの処理が実に早い。このスタッフの戦列には、ユーノ・スクライアというもはや人外レベルの天才や、艦長であるクロノ・ハラオウンという秀才が揃っていなくとも、これだけの処理が出来るのだ。
「いや本当、うちのクルーは優秀過ぎて怖いねぇ」
 ぼそりと他人事のようにエイミィが呟いた。
 エイミィ艦長代理である。
 本来ならばもっと違う人が指揮を執るべきなのだが、その艦長代理として指揮を執るべき人が全てで払っているために押しつけられた艦長代理職である。ちなみに、現在クロノがいない時に指揮を執るべきはユーノである。クロノでもスピード出世だというのに、入局して2年でそのクロノを追い抜くとか、本当に光速出世をした化け物だ、あの少年は。
 暢気に呟くエイミィは、そののほほんとした表情とはまるで別物のようにキーボードを叩いている。魔法術式のデータ解析はどちらかと言えば得意ではあるが、正直なところ術式を組み上げるというのは苦手である。苦手ではあるがキーボードを叩くその指が止まることはない。
「固有振動数値のデータ、先に転送する!?」
「それだけ送ってどうすんだよ! バルディッシュちゃんはフルドライブなんだろうが!」
「バリアブレイクに物理障壁の破壊機能を組み込んだ方が速くない!?」
「ブレイクインパルスだ!!」
「全速前進だ!!」
「複合術式!? 無茶だろ!」
「魔力壁も抜くんだよ! 別々にやれるか!」
「抜くって卑猥だよね!」
「誰ださっきから小ネタ挟む奴!?」
「アレックスです!」
「違います!!」
 仲間達は実に頼もしい。
 言ってることは大変あれだが、まぁ、頼もしい。
 高速でキーボードを叩きながら、エイミィは小さく笑う。
 でー、きた。
「OKっ!! 第1魔力壁、ブレイク術式完成!!」
「さっすがエイミィさん! 素敵です!!」
「無敵です!!」
「結婚してください!!」
「ほらほら! 素敵も無敵も良いから、次の術式組み上げて!! それに結婚はお断り! 私だって一応好きな人いるんだから!!」












『はっ! 私が弱いと、よくほざくっ!!』
「力だけ強くても、魔力だけ多くても、技だけ巧くても……弱いじゃないか!!」
 変わらず馬鹿の一つ覚えの如く無茶苦茶に押してくるフェイトを、念話という “声” で叫び返しながら、力技で縁はシールドごと一気に弾き飛ばす。
 弾かれる準備は既に出来ていたのか、もしくは予測できていたのか、フェイトは弾かれるその先に極小のバリアを展開していた。ピンポイントバリア、ガンザオリジナルの魔法だ。使用してみるとなるほどどうして、実に実践向きのバリアである。
 そのバリアに下から “着地”。
 縁の手に魔力弾。4つの手にそれぞれ1つずつの計4発。アクセルシューターという名前の全く別の魔力弾だ。
 縁へフェイトが顔を向けるよりも速く、縁はその4発を同時に発射。
 フェイトを中心に左上、左下、右上、右下。少し避ける程度ならば逆に直撃するコースで、動かなくとも衝撃余波の4重奏で十分削れるはず。
 なの、だが。
 フェイトは縁へ顔を向けることなく、見ることなく、まるで察知していたかの如く、4ヶ所から生える黄金の翼がアクセルシューターの射出と共に小さく羽ばたく。
 音速に迫る超高速の弾丸が、横滑りする残像を貫いた。
 速い。
 この距離、この速度、普通なら同時に動いてもアクセルシューターの方が先に直撃するはずなのに。
 アクセルシューターより速いとでもいうのか。冗談。
『悲しいなどと、思っていないっ!!』
 アクセルシューターをすり抜けて弧を描く、その雷を引く光の残像に縁は叫び返すと共に、縁は即座にシールドを全方向に張り巡らす。
 直後、真下から衝撃。
 攻撃を受け止める用意をしても、どこからフェイトの刃が牙を剥くかが予測できなかった為に、衝撃がモロに襲いかかる。十分な加速距離がなくとも、かなりの衝撃がきた。
「何でこんな事になったんだって、そんな顔をしてた! 沢山の人を殺して、壊して、それなのに一番悲しそうな顔をしてた! 今だって!!」
 再びシールドを突き破らんと大剣を突き立てながら、フェイトは縁に負けず叫び返す。
 全方位にシールドを展開したから、その分シールドの強度が落ちているとでも思ったのか。
 だが甘い。届いていない。
 仮にシールドの強度が9割落ちていたとしても、フェイトでは力技でシールドを破ることなど、出来はしない。
『私がいつ、泣いたぁぁっ!!』
「だから、今だよ!!」
「アァッ!?」
 その口ぶりに思わず “口” で返事を返してしまった。
 低く、歪で、腹の底に響くようなその声。だが間違いなく、それもまた海鳴 縁の声である。
 全方位に展開したシールドを、フェイトが刃を突き立てる面へと集中させる。破られると危惧している訳ではない。単純に、全方位にシールドを張り巡らせている状態ではフェイトを弾き飛ばせないからである。
 フェイトの黄金の翼が、大きく羽ばたく。
「今、泣いてるじゃない! 悲しくて、辛くて、泣いてるじゃない!!」
 泣いてなどいない。
 複眼のこの目は、このレンズは、涙を流せない。
 だからフェイトの言っている事は的外れだ。的外れのはずなのに。
 言葉が、気持ち悪いくらいに、すんなりと胸に落ちる。
「こんな筈じゃなかったって! 本当は誰にも化け物なんて呼ばれたくなかったって! 幸せだった日常を、手放したくなんてなかったって、泣いてる! 今だって、泣いてる!!」
『戯れ言を!!』
 フェイトに向けたシールドで、叫び呼びかけるフェイトを再び弾き飛ばそうとして

 ザリッ

 刃が、滑った。
 面を傾けても、そのシールドに喰らいついて離れなかった刃が、不自然なほどに突然シールド面を横滑りする。
 いや、フェイトがシールド面に沿って横に。
『だから助けると!? 私を助けたいと!? 私は助けて欲しいなどと、思っていない!!』
 人間に、魔導師に、助けてなんて欲しくない。
 シールドに喰らいつくのを止め、そのまま左へと避けるように横滑りに飛んだフェイトの黄金の翼が、小さく羽ばたく。
「私も助けられた時は、助けて欲しいなんて思ってなかった!!」
 その声が、すぐ近くから聞こえた。
 左。
 至近距離。
「チッ!?」
 全方位にシールド面を張り巡らせていたのを、フェイトの方向にだけ向けたせいか。
 解除されたところから、フェイトお得意の高速機動にて詰められた。
 だが、シールドからの距離が近過ぎる。一度シールド面を素って横滑りしたフェイトは、大剣を突きの体勢に構え直している時間はない。
 ならば。
 高速で思考が走る。
 フェイトは右利き。剣を握るときは自然と左手が手前に来る。フェイトの身体に合わないくらいの大検だ、振り上げるときは右上、振り下ろすときは左下が理想。現在は自分の左を取っている。体勢的には下から向き合い迫ってくる。ここで大剣を振るか。いいや、フェイトは既に自身が高速で動けば大剣を振らずとも済むと知っている。この場合剣を振るうなどと隙のある動きをするとは思えない。現在左、振り下ろしたときに左下が理想。左下に剣先が向くように構えていれば。
 思考の時間など、一瞬もいらない。
 縁の身体が半歩分だけ後ろに下がる。
 身体能力に物を言わせ、高速で。
 フェイトの動きに引けを取らぬくらいに素早く後ろに下がる。

 雷の刃が、顔面先すれすれを通過する。

 電流が伝わったかのように、身体がピリっときた。
「人から見たら間違った事をしていても、私は間違ってないと思ってた! 今だって正しかったか間違ってたか分からないけど、それでも手を差し伸べてくれて助けてくれた事は感謝してるから! 嬉しかったから! だから!!」
 避けられることは最初から分かっていたかのように、フェイトの言葉が続けられる。
 イラッときた。
 超高速の弾丸となり、結果的に縁を素通りして上空へと舞い上がったフェイトを見るように顔を上げる。
 剣先が、既に向けられていた。
 上空に展開されていたピンポイントバリアに、フェイトが真下から着地している。
 またか。
『だったら殺されろ、私にっ!!』
 受け止めるために更にシールドを展開しながら、はっきりと縁は告げる。
 魔導師を殺す。
 自分を作り、苦しめ、捨てた魔導師を皆殺しにしてやる。
 今魔導師を殺すのを止めても、自分は殺される。このまま魔導師を殺し続けても、いずれは何らかの策により殺されるだろう。
 ならば、自分が終わる最後まで、魔導師を殺し続ける。
 だから、縁にとっての救いは、暴れるのを止めろと止めることなんかじゃ、ない。

 だったら、今の自分にとっての救いは何かと聞かれても、もう、答えられないが。

『私を助けたいなら、私に殺されろ! せめて、せめてテスタロッサさんは、苦しませない!』
「ありがとう! でもその前に、今苦しんでる君を助けたい! こんなこと、止めさせる!!」
『そんな助け、いらないっ!!』
 瞬間、黄金の翼が羽ばたく。
 ほぼ同時と言って良い。衝撃が真上から襲い掛かってきた。
 速い。最短距離、一直線で突っ込んで来た。速さがそのまま鋭さと重さになる。
 雷がシールドの周囲に飛び散る。相変わらずフェイトの持つ大剣の剣先はシールドに喰らいつくものの、少しもシールドに損傷を与えることは出来ていない。
『私はっ!』
 今度は粘らせることも、不意打ちをかけてくることも許さず、即座にシールドを振り回すようにしてフェイトを弾き飛ばした。ほとんど投げ飛ばしたに近いようなフルスイングである。
「にっ!?」
 流石にこんなに早く振り払われるとは思ってなかったのか、フェイトの身体が思いっきり宙を舞った。大剣が弾かれると、その大きさ故にまだまだ成長途上のフェイトの身体は引っ張られてしまっている。
 そのフェイトを、縁は指差した。
 右上の手、その細長い指で。
『化け物だっ!』
 その言葉と共に、フェイトのいた周囲が爆発した。空間爆破だ、遠慮も容赦もなく。
『魔導師と戦うために、時空管理局が担う危険な前線に耐えうるように、生き残れるように、最初から闘うしか能のない化け物として作られた!』
 叫ぶ。
 広域で、最大出力で。
 念話で叫ぶ。
 便利な魔法だ。声も枯れない、血も出ない、魔力さえあれば何処まででも叫べる。
 だから、叫んでも叫んでも、気持ちが何も出て行かない。血を吐くように叫んでも、声よ枯れろと叫んでも、どうにもならない。そんな空しいだけの叫びしか、“声” を出せない縁には許されていない。
 そういう風に作られた。
 念話さえあれば、肉声など必要ないと。
 そう作られた。
 化け物に、された。
 更にフェイトのいたところを爆破する。大爆発と言って良い。威力が倍ほどにも増していた。
『だから生まれたその瞬間から化け物なんだ!』
 また爆破する。
 吹き飛ばす。
 殺意しかない攻撃。
 しかし、手応えはなく。

 視界には、空いっぱいに蛍光ペンで落書いたように、雷の光が走り回っていた。

 縁は一気に手を広げる。
 4本の腕を、バラバラの方向に広げて。
 全ての指をバラバラの方向に向けて。
 それは全部、空に広がる光の帯を指差して。
『そんな制止、私にとっての助けではない! 救いでもないっ!!』

 爆炎の花が咲き誇る。

 耳を貫くかの如く激しい爆発と、燃えるほどに熱い衝撃が吹き荒れる。
 爆破。
 爆破。
 爆破。
 全空間全方位、ランダムに爆破する。1発1発が既にフェイトに対して致命傷レベルの爆破を、マシンガンの如く次々に行ってゆく。
 光の帯を全て潰すかのように、片っ端から爆破する。
 吹き飛べ。壊れろ。死んでしまえ。
 トリガーハッピーのような高揚感。片っ端からの爆撃に堪らず立ち止まったのか、それとも進路を急転換しようとしたのか、縁の広い視界の片隅にフェイトの姿が一瞬だけ映った。
 間髪入れる事なく、そこもまた爆破する。更にはアクセルシューターを10発即座に叩き込んでいた。
 爆破の威力が手加減もなしに行ったせいか、対戦車グレネードでも直撃したかのような大爆発を起こす。
 やったと、思いたいが。
「私だって、生まれた時に決められた道があったよ!」
 しぶとい。
 振り向くと、いつの間に後ろに回りこんだのか、フェイトの姿。大きく肩で息をしている。あれだけの高速機動戦闘だ、体力の消耗も魔力の消耗も激しい。
 それでも、フェイトは口を開く。
 縁には出来ない、意味を成す言葉を、肉声で叫ぶ。
「私は、生まれた時は身代わり人形だった! 姉さんの身代わりとして、そう決められて生まれたよ!!」
『存在としての話だ! 生き方のことじゃない!』
「私も縁と一緒でっ、培養液いっぱいのポットから生まれたんだっ!!」
 すぐに爆破してやろうと、指しかけた手の動きが一瞬固まる。
「作られた身体なんだ! 姉さんと一緒の容姿で! 姉さんの記憶を複写されて! アリシア・テスタロッサっていう、私の姉さんの変わりになるように、作られた! その失敗作が私! 私の名前はね、プロジェクト・FATEっていうプロジェクトから貰った名前なんだっ!!」
 まっすぐ縁に向き合い、まっすぐ縁を見て、フェイトははっきりと言う。
 作られた。
 自分と、一緒。
 縁の身体が思わず固まってしまう。
「だけど恨んでなんかない! 私を作った私の母さんは、それでもやっぱり私の母さんだったから! 私をこの世に出してくれたのは、事実だったから!!」
 ぶわりと、フェイトの手首足首から伸びる黄金の翼が、肥大化する。
 はぁ、とフェイトは大きく息を吐き出してから、きゅっと一度口を閉め、唾を飲む。
「辛い事もあったよ、悲しい事もあったよ! 全部投げ出したかった事も、もしかしたら私はいない方が良いんじゃないかって思ったことも――このまま死のうって思った事も、あるよ!!」
 大剣を持ち上げた。
 天に翳すように、まっすぐ真上に持ち上げて。
 ぶんっ、と振り下ろして構える。
「それでも、楽しい事もあった! 嬉しい事もあった! 皆と笑いあったり、一緒にお弁当を食べたり、遊びに行ったり! 好きな人だって出来た! それは全部全部、私を作ってくれた母さんがいたからっ!!」
 剣先はまっすぐ縁に向かう。
 脇を絞め、突撃の姿勢。前に縁が提案した戦法に適した、その構え。
「縁はどうなの!? 辛い事や悲しい事、それが全部じゃないじゃないっ!!」
『うるさいっ!!』
 応えるのは叫びと、そして7発のアクセルシューター。
 亜音速で撃ち出された弾丸を、フェイトは軽く避けた。軽くだ。
 何で当たらない。
 何で避けられる。
 それが異様なまでに縁の神経を逆なでする。
 何で。
 何故。
 かすりもしない。
 何で!?
 ばさりと、黄金の翼がはためいた。
 反射的にシールドを展開していた。
 衝撃。
 だが足りない。
 鋭い一撃。
 だが足りない。
 重い突撃。
 だが足りない。
 大剣の剣先はシールドを捉えた。捉えたが、やはりそれだけの話で。
『いい加減慣れるな、一つ覚えの突撃はっ!!』
「バルディッシュ! ソニック!」
 縁のそれに返す事なく、フェイトはシールドに剣先を突き立てる己の大剣に命を下す。
 黄色の宝石が応えるように輝いた。
 そう言えば、この大剣はインテリジェントデバイスのはずなのに、大した働きを何もしていない。むしろ、デバイス自体が反応したのは今がようやく初めてで。
(( Yes, sir. Sonic Sail second mode.))
 その声と共に、フェイトの手足が一瞬光り。

 黄金の翼、ソニックセイルが、増えた。

 手首の辺りから伸びていた2枚の翼は、4枚の翼に。
 足首の辺りから生えていた3枚の翼は、6枚の翼に。
 そして、それぞれの翼が2回りほど大きくなる。
 加速用の翼が増えた。更に速くなるとでも言うのか。
 軽く舌を打ってから、縁はこのままフェイトを弾き飛ばすのは得策ではないと判断。このままシールドをゲージ状にして閉じ込め、逃げられないようにして爆殺するべきだ。良い考えだ、最初から思いついていればすぐに殺せたはずなのに。
 が、それを実行するよりも早く、速く、フェイトはシールドに突き立てていた大剣を戻し。

 瞬き一つも許さない間に、縁の遥か上空を陣取っていた。

 縁の広い視界だと、まるで一瞬だけフェイトが2人になったような錯覚を覚える。
 速い。
 今まで対峙したどの魔導師より、速い。
 油断していた分を差し引いたとしても、知覚がまるで追いつかなかった。今までのように黄金の翼が羽ばたくのすら見えなかった。
 見上げる。フェイトの息は荒い。
「私も、慣れてきたよ!」
 荒い息のまま、それでもフェイトは縁に聞こえるように声を張り上げる。
「バルディッシュ! 準備は!?」
(( All right.))
「なら行くよ――皆の、私達の、この一撃っ!!」
 威勢の良い宣言と共に、また構える。
 剣先を真っ直ぐに縁に向けるその構え。まるでその構えしか知らないように、一つ覚えのようにまた。
 だが。
(( Zamber form Fully driving.))
 大剣の刃を構成している雷の輝きが、一気に増した。
 光が刃の形を成していない。まるで暴走しているかのように、大剣の本体部分からエネルギーが大量に流出している。
 いや、暴走しているかのように、ではない。あれは暴走だ。
 魔力が刀身として固定されていないのは、術者とデバイスの処理能力を遥かに超えた魔力を流し込んでいるせいだ。
 あれは危険だ。
 一歩間違えれば、大剣が――バルディッシュが耐え切れずに壊れてしまう。
 いいや、最悪の場合、込めた魔力が暴発する。
 安全性を無視したフルドライブだ。
『やめ――っ』
 咄嗟に、止めろ、と叫ぼうとしてしまった。
 何を馬鹿な。勝手に自滅してくれるなら、それに超した事はないじゃないか。散々手こずらせた分、惨めな最期となるだろう。
 化け物としての縁が、そう自身に囁く。
 そうだ、自滅してくれるなら、それで良い。それで良いはず。
 きっと止めろと静止しようとしたのは、せめて苦しめずに殺すと、そう言ってしまった手前だからだ。きっとそうだ。
 その自分に対する言い訳は、まるで胸に落ちてはこなかった。
「駆けろ疾風! 轟け迅雷!」
 ソニックセイルが、まるで見せ付けるように大きく羽ばたく。
 突っ込んで来るのか。
 縁は即座にシールドを展開する。
(( Sprite Zamber.))
「スプライトザンバー!」
 構えたバルディッシュから、押さえ切れなくなっている魔力がエネルギーとなって漏れ出した。
 濁流のように魔力を固定化しきれず駄々漏れになっている、刃と言えるか怪しい状態から更に放電のように雷が発生し始める。
 フェイトは本当に死ぬ気かもしれない。ただ何となく、真っ直ぐフェイトにシールドを構えながらも縁はそう感じた。
 あれはもう、玉砕覚悟だ。
 死ぬつもりで、来る。
 何の為に。
 海鳴 縁を、救うために。
「グッ」
 奥歯を噛み締める。
 止めろ。
 止めろ。
 止めてくれ。
 フェイトのような、縁の知るフェイトのような良い人が、優しい人が、命を賭してまで救うような価値がある存在じゃない。こんな化け物を、命懸けで止めようとしないでくれ。
 頼むから帰れ。
 魔法を捨てて、平和に暮らせ。
 そうすれば、殺しになんて行かないのに。
 泣き言のような呟きが、頭の片隅で漏れる。
 それでもフェイトは魔導師だ。魔導師として立ち塞がっている。
 ただでさえ速かったのに、ソニックセイルを倍に増やして更に速くなっている。最早、全力飛行中に緻密な姿勢制御など出来ないだろう。出来るのは精々、一直線に最高速で突っ込んで来る事だけだ。
 だったら、フェイトが魔導師として立ち塞がり、魔導師を殺す化け物としてやることは、シールドを構えて防御する事ではないはずだ。
 進路上に、アクセルシューターを幾つか配置していれば、フェイトは勝手にそれにぶつかって撃墜される。そうするべきだ、化け物ならば。
 なのに。
「ブーストォォォォ……」
 ばさっと、再びソニックセイルが羽ばたく。放電のように青白い電流が、その周りを走った。
 フェイトの足元に小さな魔法陣。
 さっき見た、ブーストスマッシャーか。間違いなく全力全開全速力の突貫をする気だ。
 シールドをフェイトに向けて真っ直ぐ構える。
 真正面から受け止める。
 こんな防御に徹する必要はないはずなのに、それなのに。
 くっ、とフェイトの身体が沈んだ。
 大勢が低くなる。
 足元の魔法陣が一気に輝く。
 ソニックセイルがいっぱいに伸び。
「スマッシャァァァァァァァァァァアァァァァァァアアァァァァァアァァァァァァァァァァァァアアァアッ!!!!!」

 真上から、叩き落される感覚が襲った。

 衝撃。
 真上から来ると分かっていたのに、踏ん張れない。
 押される。落される。
 シールドを抉るように、バルディッシュの暴走した刃が激突した。それを理解するより先に自身の身体が弾かれるように押し出される感覚が襲ってくる。
 速い。
 そして重い。
 突撃槍のように暴走状態のバルディッシュを構えて、やり方は今までと同じくそのまま突っ込んできただけなのに、威力が全然違う。
 更に、今回は暴走状態の刃のせいなのか、それともスプライトザンバーの効果なのか、結界破壊や幻術・トラップ破壊など、魔法破壊の効果が付属している。
 最悪なまでの一撃だ。普通ならまず防ぐことも敵わず、防御も何もかもを突破されて墜とされる。

 普通なら。

 魔力のエネルギーと、放電のように荒れ狂う雷が周囲に飛び散る。
 金属をチェーンソーで削るような、耳を貫かんばかりの激しい破砕音。
 眼前にはフェイト。
 足元の魔法陣からは、ブースターのように魔力砲を噴射して。
 ソニックセイルを羽ばたかせ。
 暴走状態のバルディッシュを構えたフェイト。
 そのバルディッシュを突き立てている――

 シールドは、健在。

 届かない。
 届いていない。
 全力であろうその突撃は、シールドを破れていなかった。
 損傷率は、1%も、ない。
『……残念だったな』
 ぽつっと、少しだけ冷めた念話を、縁が漏らす。
 何で冷めたのかが分からない。何かを期待していたのかもしれない。
 期待?
 自分を止めてくれると?
 それとも、殺してくれると?
 馬鹿らしい。
 所詮フェイトも、一人の魔導師に過ぎない。
 たった一人の魔導師に後れを取るなら、化け物は勤まるはずがなかろうに。
 想いだけで、決意だけで、この実力差は埋まるはずがない。
 そんな縁に、フェイトは奥歯を噛み締めながら、更にバルディッシュを思いっきり突き立てる。
 バルディッシュから、何かが壊れるような音がする。
 荒れ狂う魔力と電流のせいでよく見えないが、バルディッシュの外装に亀裂が走っていた。
 暴走状態の刃に加え、超高速の突撃による衝撃だ。良く持った方だろう。
 だが、ここまでだ。
 これ以上、もう、頑張らなくてもいい。


「バリ、ア――」
(( Barrier ))


 と、フェイトが小さく呟いた。
 まだ、何かする気か。
 何をしても無駄だろうと、そう縁は高をくくり――気付いた。

 フェイトとは反対側、つまり縁からして下にある崖の上、その地面に、赤く輝く巨大なベルカの魔法陣。

 何だあれは。
 ぐるりぐるりと回る、どう見積もっても半径10mはある巨大な魔法陣。ベルカ式を象徴する、三角の魔法陣。
 トラップ型の魔法? まさか、フェイトはミッドチルダ式の魔法しか使っていなかったはず。
 あれは一体。

「ブレイク――」
(( Break ))

 上から声。
 フェイトの声。
 挟み撃ちか? これが狙いだったのか?
 だとしたら下の魔法陣は何だ? ベルカ式の魔法陣?
 しかしどんなトラップだとしても、まだ縁は荒れ果てているその地上から400mは離れている。フェイトに若干押されたとは言え、東京の赤いタワーよりは上にいる。その距離を埋めるトラップがあるとは考え辛い。
 縁は下の巨大な魔法陣も気にしながら、シールドでフェイトを食い止めて。
 気が逸れていた。

「――イン、パルスッ!!」
(( Impulse ))

 バキッ、と変な音がする。
 意識をフェイトの方へと戻したときには、既に手遅れだった。
 信じられない光景を見た。言い表すならば、そんな気分か。

 シールドに、亀裂が縦横無尽に走っている。

『――なっ!?』
「貫けぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!!」
 修復をする暇もない。
 原因を考える暇もない。

 次の瞬間、縁のシールドが、砕け散った。

 まさか。
 ありえない。
 フェイトに、魔導師一人に、このシールドが破られるはずがない。
 現にさっき、全力で突っ込んで来たフェイトの突撃にも、まるで破損しなかったじゃないか。
 それなのに、砕け散った。
 破られた。
 何が起こったのかが、理解が出来なかった。何故突破されたのかが分からなかった。
 そのはずだ。

 海鳴 縁は、バリアブレイクの理論を、知らない。

 バリアブレイクを仕掛けられた事も数える程しかなく、仕掛けた魔導師は皆、解析できずに殺されている。だからバリアブレイクの存在は知っていても、自分のシールドには通用しないものだと思い込んでいた。
 そんな筈はない。
 解析さえ出来れば、砕けない防御壁はないのだ。
 その理論を知らない。
 そして、その解析というのが、なにも戦闘している魔導師だけしか行えない訳ではないという事を、知らない。
 バルディッシュをフルドライブ状態にし、データ蒐集とアースラへのデータ転送のみに全てを割く。そしてアースラスタッフが全力を挙げて解析する。

 そして何より、高町なのはが、縁の術式を半端ながらに理解している事を、縁は知らない。

 フェイトが一度解析しかけたシールドのデータを、高町なのはが予測解析していた事を、縁は知らない。

「ああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!」
 シールドを突き破った、フェイトの刃が、縁に牙を剥く。
 スローに見えた。
 いや、止まっているようにすら見えた。
 近い。
 近すぎる。
 そして、フェイトが速い。
 足元の魔法陣から噴出すブースターも、羽ばたくソニックセイルも健在。
 シールドで一度止まっていて、今から加速するとしてもその初速が既に速い。
 身体が動かない。
 刃が目の前。
 バルディッシュの、暴走している魔力刃が。
 貫かれる。
 斬られる。
 それが目の前に迫る。
 殺されて堪るか。そう思う自分が半分。
 そして、やっと殺されると、安堵している自分が半分。
 何だ、自分は、死にたかったのか?
 場違いな疑問が、ふと、浮かび。

 縁の右腕2本が、切断された。

「ギィ――ッ!!!?」
 口から悲鳴のような声が漏れた。
 低く、腹に響く、醜く、淀んだ、嫌な悲鳴が。
 フェイトの刃は、右肩に命中。
 そして命中の瞬間に、右腕2本を叩き潰すように突き刺し、突き破り、そのまま身体から泣き別れさせる。
 分かっていたが、殺傷設定。だろうな。非殺傷ではダメージにもなりはしないのだから。
 貫かれたのは右肩。
 だが、暴走している魔力刃はその周囲を焼く。
 放電するような電流が、身体の中を暴れまわった。身体が中から焦げるような感触。一瞬だけだが、目の前が暗くなるような気がした。
 そして腕をぶった切ったフェイトは、肩を貫いた次の瞬間には既に通り過ぎている。速い。
 雷のせいで身体が焦げる。
 しかし、即座に身体を修復しようと、自己再生が始まった。
 即座に縁は振り返る。見下ろす。
 自分の身体に初めて刃を通したフェイトへ、振り返る。
 下、およそ200m。

 丁度、縁と地面に広がる巨大なベルカの魔法陣との、中間地点。

 そうだ、あの魔法陣は――
 そう魔法陣へ一瞬だけ意識を向けた瞬間、バルディッシュから突然煙が吹き上がる。
 真っ白な、膨大な量の煙。
 あれだけの強烈な魔法を連続行使したせいだろう、外装に皹が入って壊れかけているバルディッシュの内部に溜まった魔力残滓が、一気に放出されたのだ。
 その量が凄まじい。
 まるで煙幕のようにバルディッシュから噴出した煙は、あっという間にフェイトの姿を覆い隠した。
 フェイトの姿だけではなく、その下方にあるベルカ式の巨大な魔法陣も覆い隠すように広がる。
 その煙からフェイトが再び突撃してくるかもしれない。縁はそう考えて、油断なくその広がる煙へと目を向ける。
 身体の再生はまず、焼け焦げた体内部分から修復していく。腕の再生は後回しだろう。
 腕の再生前に、フェイトは再び来るだろう。
 そう考える。
 いつ来るか。そう神経を尖らせて――風が吹いた。
 ひゅう、と風が吹く。
 間が悪い。フェイトにとってだ。
 フェイト自身を隠していた煙が、その風で拡散し始めていた。飛び出すタイミングを謝ったのだろうか、それとも力尽きたのか。
 それでも油断する事なく、縁は拡散し始めた煙を見て――――







 巨大な、ひたすらに巨大な、魔力の塊が、姿を現した。







 桜色をした、星の光の色をした、その塊が。







―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 ジャンピング土下座。
 こんにちはこんばんは、読んでいる人によってはおはようございます、少しペースダウンしてしまった馬鹿野郎、クロガネです。

 はい、本来ならばアリサ編も入るはずだったんですが、入りませんでした。
 はははははは……クロガネ馬鹿だねぇ、自分が戦闘シーンを書くと膨らむという事をすっかり忘れてやがりますよ畜生。という訳でちと変更でございます。
 ……アリサ主人公なのにね。出番削られるとかね。

 実は縁、まともな戦闘というのをまるでした事がない件。
 基本的には力に物を言わせた虐殺か、長距離からの砲撃という名の強襲かの2択しかなかったですからね。
 そして対峙した相手はまず殺しているので、一度自分と戦った事があり、それから更に作戦を練って再戦してきた相手というのにも恵まれませんでした。
 更には己を難攻不落の城にしている最大の要因である防御、その弱点もよく理解していない。とりあえず飛んでる時は魔法無効化の能力を発動させたら自分が落ちるなー、程度にしか思ってないので、空中戦に持ち込まれると素直にそれに応えてしまってます。そしてシールドを破られた事がないものだから、自分のシールドに対して絶対の自信を持っているという。
 要するに縁、負けた事がないのが逆に弱点になっていたオチ。

 しかしここのフェイト、ずうずうしいと言うか、暑苦しいというか、無謀というか、純粋というか。
 この作中、初期の頃の変態さが成りを潜めていると、クロガネ的にかなり違和感。きっと違和感覚えるクロガネが駄目なんだろうな、そうなんだろうな……くすん。
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4件のコメント

[C648] データーは嘘つかないよ(by乾)

基本的に戦った相手は死んでるし、策を弄せず勝ててしまう分、データーを取られると脆い部分があるわけですね。逆に縁がしっかりと勉強していたら無敵の存在になってたわけですが


しかし作戦上仕方ないとはいえ、ここでなのは達に手出しさせたらフェイトの説得はまるっきり薄っぺらになりますよね。人によっては「最初から時間稼ぎ」のつもりに見えますし。
  • 2010-06-26
  • 投稿者 : ミヅキ
  • URL
  • 編集

[C649] 乾汁

○ミヅキさん
 チートですからねぇ。
 チートでゲームを最初からプレイして、途中でそのチート分を丸ごと相殺してくる敵に襲われた状態ですか。今まで楽に勝てた分、戦術を考える力がないのです。
 さて――どこまで 「時間稼ぎ」 かな?
  • 2010-06-27
  • 投稿者 : クロガネ
  • URL
  • 編集

[C650] 違和感ww

はい。違和感を感じるクロガネさんに問題ありかとw
私としては変態丸出しのフェイトに違和感バリバリでしたので、今回のフェイトこそ自身のイメージと一致しました~。
小ネタを挟むナイスガイ達のアースラクルーの活躍に拍手喝采しながら誤字の報告をば。

>蟻の体重と像の体重くらいの差はあるかもしれない。

これは「象」が正しいかと思われます。勿論「像」でも通用しなくは無いですが…(汗

>「あれだけの魔力量なんだから、本当はこんなメンドクサイ術式通すないんじゃないの!?」

これは…「通さない」が正しいでしょうか…?
ちょっと自信ありませんが。


それでは、失礼いたします。
次回も楽しみに待たせていただきますので。
  • 2010-06-27
  • 投稿者 : ノヴェール
  • URL
  • 編集

[C651] そんな……違和感を感じないなんて。

○ノヴェールさん
 しょぼーん。まぁ、クロガネも純粋に熱いフェイトも好きですが。
 アースラスタッフ、名前がないと実にやりたい放題。というか、これくらいしてくれないと、マジで鬱い。

 誤字報告ありがとうございましたー! 修正しましたー!
  • 2010-06-28
  • 投稿者 : クロガネ
  • URL
  • 編集

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4/6更新 リリカルなのは、短編と呼ぶべきかネタと呼ぶべきか考えた結果これはクロガネ式妄想劇と呼ぶべきなんじゃないのかなぁという曖昧な結論に落ち着きました、みたいなお礼ありです。

魔法の使えない魔法使いの魔法

注意事項!

プロローグ

第1章 『海鳴 縁という少女』
       
基礎情報 第1章終了時点
第2章 『悩み』
         
基礎情報 第2章終了時点
第3章 『誰が為の剣』
           
基礎情報 第3章終了時点
第4章 『教授』
           
基礎情報 第4章終了時点
第5章 『恋ですか?』
           
基礎情報 第5章終了時点
第6章 『切実な事情、迂闊な発言』
           
基礎情報 第6章終了時点
第7章 『縁と看視者』
           
基礎情報 第7章終了時点
第8章 『その言葉、届かない』
           
基礎情報 第8章終了時点
第9章 『失意』
               
基礎情報 第9章終了時点
第10章 『挫けぬ雷刃』
           
基礎情報 第10章終了時点
第11章 『届け、星の光!』
             
基礎情報 第11章終了時点
第12章 『祝福される騎士と風』
 
第13章 『アリサ・バニングスという少女』
第14章 『そして、日常』


本筋関係ないパラレル短編
           

最近の記事

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クロガネ

Author:クロガネ
 鉄と書いてクロガネ。文系の皮を被った理数系。人種差別主義。有神無宗派論者。白衣の天使。瞑想で一日潰したことがある。萌えにも燃えにも反応する。二次元より三次元の方が楽しいと思う。宇宙人未来人超能力者魔法使い等特殊な人間じゃなくて本当に良かったと思っている。変な人といわれる。仲間と言うのはチャレンジャーな人、友人と言うのは変わった人、知人と言うのは普通な人。
 これがクロガネ。
 とりあえずメールはこちら↓
kurogane951@yahoo.co.jp

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