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[C554]

アンスさんw
こんな呼び方で呼ばれているアリスを初めて見た
  • 2009-12-14
  • 投稿者 :
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[C562] コメントありがとうございまー

 凄まじく変なネーミングセンスだということで1つ。
  • 2009-12-17
  • 投稿者 : クロガネ
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魔法の使えない魔法使いの魔法  3

 夕日が沈みかけて赤く染まった空を、文字通り一直線に飛んでいく黒衣の少女と大型の狼の姿があった。
 フェイト・T・ハラオウンとその使い魔、アルフである。
『休みなのに済まないな、フェイト、アルフ』
 念話にてフェイトに通信が入る。声変わり途中の少年とも青年ともつかない男性の声である。
 その声にきりりと引き締まっていたフェイトの表情が若干和らいだ。
「大丈夫だよクロノ、それよりもやっぱり例の事件かな?」
 和らいだ表情を引き締めなおし、フェイトは念話を飛ばす。
 連絡の主はクロノ・ハラオウン。血こそ繋がっていないが、フェイトの兄であり、同時に時空管理局に勤めているフェイト直属の上司であり、フェイトの所属している船、アースラの艦長である。
『確認は取れていないが、そうだと思って間違いないだろう』
「大丈夫かな……状況は?」
『えーっと、襲撃を受けているのが武装隊所属のクレイ・アードル訓練生と第6技術開発部所属のマレスト・アードル主任の2名。相手は今までと同じくドールタイプだと推測、数は11、魔力ランクCからA+までばらばら!』
 フェイトの質問に答えたのはクロノではなくアースラのオペレーター、エイミィ・リミエッタだった。
 エイミィの報告に対してフェイトは渋い顔をした。
「多いね……今まで2体くらいだったのに」
『奴らも数で押し始めたのかもな』
「一人は開発の奴なんだろ? ヤな奴らだよ」
 クロノの漏らした言葉にアルフは牙を見せながら唸った。
 
 現在、時空管理局では厄介な事件を抱えていた。
 
 魔道師を狙った襲撃である。
 時空管理局に所属しているしていないを問わず、魔力が高い低いを問わず、ランクの上下を問わず、種類を問わず、男女を問わず、魔法が使える人間であればかまわないと言わんばかりに魔道師に狙いだけを狙った襲撃だ。
 襲撃にくるのは所属も正体も不明の鎧のような魔道人形であり、通称『ドールタイプ』と呼ばれていた。
 量産型なのか姿恰好皆同じだが、内包している魔力の個体差が激しく、攻撃方法も魔力砲であったり徒手空拳であったり剣を使ったりとばらばらである。なかなかに手強いドールタイプもいれば、あっけないくらいに撃退されるドールタイプもいて、一概に厄介な相手だとは言えない。
 なのははまだ襲撃にあったことはないが、はやてはフェイトはすでに別の任務中にドールタイプの襲撃を受けたことがあった。
 その時は弱いドールタイプで危なげなくはやては破壊したらしいのだが、時空管理局の中では手強いドールタイプの襲撃を受け敗退している局員もいる。やられたとはいっても酷い怪我を負わされて重態という訳でもなく、気絶させられたくらいであり管理局内で最大の被害を被った局員でも全治3日という軽いものだが、だからといって笑い事で済ませられる問題でもない。
 この襲撃事件、キリがないのだ。
 ドールタイプを撃退しても撃退しても、下手をすればその日のうちに別の場所でドールタイプが魔導師を襲撃してくる。
 目的不明、正体不明、後ろに組織がいるのかどうかすら不明。これがフェイトやクロノが口にした『例の事件』である。
 ただし、この事件で一番厄介なのは襲撃にくるドールタイプではなく……
「エイミィ、看視者は?」
『外れだね。今回もお休みみたい』
 エイミィの言葉にほっとしたような残念そうな、そんな複雑な表情を浮かべた。

 看視者。

 この呼び名も通称でしかなく、ドールタイプと同じく正体・所属・目的の何一つとして分からないが、姿だけは統一されているドールタイプとは明らかに違う姿をしているのでリーダー格ではないかと思われている。根拠はない。
 魔道師の襲撃の際、5件に1件くらいの割合でドールタイプと一緒に現れ、ドールタイプと襲撃を受けた魔道師との戦闘を手を出すことなく傍観して去っていく。例えドールタイプが不利になろうと破壊されようと気にすることなく観察し続け、ドールタイプを全て撃退した魔道師が攻撃をしてきても反撃することなくのらりくらりと逃げまわるだけ逃げまわった後に空間転移にて逃走する。一貫してそのスタイルだからこそ『看視者』という名で呼ばれている。
 魔力ランクは推定A+。攻撃を一切確認されていないので魔道師としてのランクは不明だが、逃走の際に使用する空間転移の魔法を含め看視者の使用する魔法は時空管理局の情報に全くない完全なオリジナルであり、発動までの時間も性能もステルス機能も異常なほどに完成度が高く、魔道師としての腕前は決して低くないと思われている。戦闘時にも反撃せずに逃げるだけという決して簡単ではない行為を楽々とやってのける手腕もあり、本格的に戦闘に参加する前に捕獲を行うというのが現在の時空管理局の方針である。
 
 捕獲である。
 
 拘束ではない。
 
 看視者は姿が統一されているドールタイプとは違い、全く違った外見をしている。
 2対4本の腕は細長く、足は太く長い。代わりに胴体は手足に比べると短く、全体的に昆虫を思わせるような筋肉繊維を剥き出しにした姿。体全身にぬらりと粘着性のぬめりがあり、体の所々に尖った角のようなものが突き出て、細長いイメージがある。
 そして何より、対峙した魔道師の印象に最も残るのが頭部である。
 人間のように目が2つ、鼻が1つ、口が1つなのだが、顎の部分が斜め前方に長くそり出し、後頭部が後の伸びている。口は大きく裂けており、口を閉じていても凶悪な牙が見ている。そして目の部分は前と後に長く伸びた顔の部分の大半を埋め尽くすように大きく、複眼であり、まるでトンボのような印象がある。
 一番最初資料で姿を見せられたとき、以前なのはと見た映画に出てくるエイリアンをリアルにしたようにフェイトは思い、同じく資料を見たはやては車椅子だったから周囲に悟られなかったが、腰を抜かしてしまった。ドールタイプと戦闘を行う前に看視者の姿を見ただけで気を失った気の弱い魔道師もいたという位である。
 もちろんそのような姿をした生物を今までに見たことがいる人物はおらず、時空管理局の巨大データベース『無限書庫』にすらそのような情報は一切なかった。
 正直な話、フェイトは看視者を捕らえ事件の早期解決をしたいという気持ちと、そのような気持ち悪い生き物を間近で見たくないという気持ちが半々である。
『フェイト、もうそろそろだ』
「……うん、見えてきた」
「なんか団子になってるねぇ」
 クロノが投げかけてきた言葉にフェイトは気持ちを引き締めなおす。アルフがもらした通り、同じ姿をしたドールタイプが11体、魔道師2人に寄ってたかっている。集団戦闘は苦手なのだろうか、明らかに効率の悪いおしくらまんじゅうか何かに見える。
 飛行魔法の出力を上げ、赤い空を切り裂くようにフェイトとアルフはドールタイプめがけ突撃を開始した。
 






「……普通に綺麗ね」
 縁の部屋を見渡してからのアリサの第1声はこうだった。
 そんな呟きに、縁は無表情ながら掃除は得意だからなと自慢気に平らな胸を張る。表情としぐさがまるで一致していない。
 正直なところ、アリサはアパートの廊下に負けず劣らず老朽化の激しいボロい部屋だと思っていたのだが、覗いてみればそんな事はなく普通の部屋―――本当に掃除の行き届いた、老朽化など感じられない世間一般で言う普通の4畳半の部屋だった。
 お化け屋敷並みの廊下との落差が激しい。
 ヒビがはいりまくった打ちっぱなしの安いコンクリートだった廊下の壁や屋根とは違い、汚れ1つない真っ白な壁紙が張られていて清潔感が漂う。しかもただ壁紙を張っただけではなく、コンクリート部分のひび割れ等を補修してから張ったのか無駄な皺がない。畳も新品のようであり、不思議なことに何故か日本茶のような香りがする。窓も良く磨かれており、文字通り曇り1つない窓ガラスである。
 掃除が得意、というレベルだろうか。どうみたって業者がこんなアパートをリフォームするはずがない。むしろ建て替えることを勧めるだろう。
 注意してよく見渡してみると、補修した部分や増築部分がちらほら見られる。しかも目立ちにくい。
 手入れも整理も行き届いており、部屋全体としてはさっぱりとしている。
 いや、さっぱりとしていると言うよりも物がない。小さい机にごつい本棚くらいだ。寝具は押入れの中だろうか。
 まあ、部屋の状態に関しては、ケチをつける所がない。
「アパートの全体とは随分違うわね、この部屋」
「修理してみたらこうなった。後は掃除の成果だ」
 かちゃんと安っぽいコンロに火を点し、ヤカンを火にかけながら縁は再びえへんと胸を張る。無表情続投で。
「壁はどうしたの? やっぱ最初はひびだらけだったんでしょ?」
「生ゴムとボンドを混ぜて隙間を埋めて、それからコンクリートを塗り直してからどろどろにした紙を壁紙代わりに塗ってみた」
 手製だったのか。
 もう一度壁に触れてみて、変な感触だったのはそのせいだったのかとアリサは納得する。
「窓ガラスって新品?」
「去年に一度換えてからから換えてない」
「その割には綺麗よね」
「濡らした新聞紙でよく拭いて、しっかり綺麗にしてからフィルマーカーと単純油でコーティングをしてみた」
「畳は?」
「お茶の葉で掃除してる。外からの臭いも防げる」
「もしかして、あの増築っぽいダクトは……?」
「向こうの廃工場から少し材料を貰ってきた。自信作だぞ?」
 どこのリフォーム業者だ。
 もう一度部屋全体を見渡してから、掃除と修繕のみでここまで復旧できるのかとアリサはへぇと息をもらす。確かにアパート自体の土台やら柱やらの修復をしていない以上ここの部屋だけを綺麗に整えても意味は薄いと分かってはいるが、それでも復旧に勤めた縁の力量は凄い。自分ではとても真似ができないとさえ天才を名乗るアリサでも思った。
 
 やはり一人暮らしをしていると自然と手先が器用になるのだろうかとアリサは思い、そこでふと縁の両親はどうしたのだろうという考えが浮かんだ。
 
 ちらりと縁を盗み見る。
 宣言通りお茶を出すのだろう、種類の違う湯飲みを2つ取り出しているところでありアリサの視線には気がついていない。
 当たり前なことなのだが、一人暮らしとは両親の下を離れ1人で暮らすことである。
 縁はまだ10か11の少女であり、そもそもそんな年齢の子を一人暮らしさせるということ自体がおかしい。家庭の事情があり両親と離れなくてはいけないとしても、施設なり親戚なりに預け保護者と一緒に暮らすはずである。
 それなのに、縁は1人だ。
 深い事情だろうか、それとも不幸―――?
 そこまで考えアリサは慌てて頭を振り思考を断ち切る。
 考えても仕方がない。聞こうにも初対面、ではないが親しい間柄でもないのにそんな事を聞く訳にもいかない。なにか海より深く山より高い事情があったのだと思うようにする。
「――――――」
 かちゃかちゃとお茶の葉が入っているのだろう、『地球・日本のお茶』と書かれたビンを取り出している縁を見ながら、アリサは口を横一文字に閉じる。
 アリサは1人暮らしの経験などない。そもそもアリサはかなり裕福な家庭で育っているのだ。本人もそれは重々自覚しているので、1人暮らしというのがどれほど大変なことなのかは想像もできないが、それでも縁はその大変な状況に置かれている。
 理由は知らないし聞くのは気が引けるが、1人暮らしとはどれほどの苦労があるのだろう。
 誰にも頼れず、全て自分でこなさなければいけない。
 加えて縁は孤独だ。
 学校では友達の1人もいない。こんな幽霊アパートでは人は寄りつかないだろうし、学校以外の友人がいたとしても何人いるだろう。縁がドアをあける時に言っていた『教授』という人物は友人だろうか。
 夜寝る時も、朝起きた時も、食事もずっと1人。
 それはとても辛い事ではないだろうか。
 それはとても寂しい事ではないだろうか。
 アリサの胸の中に言いようのないもやりとした感情が漂ってきた。
 同情だろうか、責任感だろうか、それは分からないが、自分がどうにかしなければという感情である。そもそも学校で友達1人もいないというのは最初っから良くないことだ。
 見られていることなど気がつくことなく、かたかたかたとお湯が沸いたのか、暴れだしたヤカンの蓋を縁は素手で取り外す。熱くはないのだろうか。
 そしてスプーンでお茶の葉を山盛りにすくい――
 
 ばしゃっとヤカンに直接投下した。
 
「はいはいはいっ、蓋取った辺りでオチは想像してたけど何やってんのよあんたは!」
 第2段を投下するつもりかさらにお茶の葉をすくおうとしている縁をアリサは呆れたような声で止めに入る。
 一方、止められた縁は何故止められたのか分からずにきょとんとしていた。
「お茶を入れているが」
「見れば分かるわよ! 普通直接ヤカンに入れないでしょうがっていうか何で水になみなみ入れてるのよ吹き出すでしょうに! 第一そんなに誰が飲む――って本当に普通のヤカンだ!」
 当たり前のように答える縁へずかずかと歩み寄り、アリサはマシンガンのようにぽんぽんと注意する。
 ちなみに、使用していたヤカンは2リットルのタイプである。
「ヤカンとはこういう物じゃないのか?」
「そうだけど……その前に茶越しかコーヒーフィルターかあるの?」
「なんだそれは?」
 頭の中をすずかの言葉が通り過ぎる。指の肉が入りそうになった野菜炒め。
 何故注意されているのか全く分かっていない縁は頭を抱えだしたアリサを実に不思議そうに見つめる。
「どうしたんだバニングスさん。頭痛か?」
 確かに頭は痛いわね、とアリサは聞こえないように小さくもらす。
「あんたね……はぁ、一応聞いておくけど、このお茶ってこのまま煮込んで終わり?」
「湯飲みに移すが?」
「当然でしょうが」
 ぽろりと本音がこぼれた。
「まあ、急須を買えとは言わないけどさ……ザル、何か網目の細かいザルとかある?」
「そこの上にあるが」
「はいはい、ちょっと代わりなさい」
 縁がザルの位置をぴっと指差して、それを確認したアリサは縁を強引に退かしてコンロの前を陣取った。
 ザルを手に取り確認する。網目は十分に細かいが、普通のザルなので大きさには目をつぶる。やたらとぴかぴかなのは気になったが、買ってから一度も使ってないか使うたびに綺麗にしているかのどちらかだろう。前者の可能性が高いが。むしろ使っていたら落ちることのない黒い汚れがついていそうだ。
 アリサ自身、喫茶店の娘であるなのはや、一家の台所を任されているはやてに比べれば料理が出来る訳ではないが、少なくとも野菜炒めの中に指を入れそうになったりはしない。1人暮らしをしていると言うのに何故こうも縁と言う少女は致命的に料理ができないのか。それとも料理が苦手な人は皆こんなレベルなのだろうか。
 ヤカンのお湯を少し捨てながら、何で自分がお茶を淹れるのだろうと思いつつアリサは頭痛を堪える。
「お湯を入れるときはなみなみ入れない。熱したら膨らむんだから吹き出すわよ」
「……ああ、だから沸騰したら洪水のようになるのか」
「そうよ、使うときは使う分と蒸発する分を目測で適量入れるの。少なければ少ないだけ沸騰も早くなる……ガス代も浮くんじゃない?」
「そういうものなのか? 作り置いたほうが便利だと思ったんだが」
「冷めてもう一回火にかけなきゃいけないでしょうが」
 なるほど勉強になる、と縁はとても納得したように肯いた。
 無知なのにも程がある。今までよく1人暮らしができたなと感心だ。
 2杯分のお湯を残して全て捨てた後、ヤカンを火を止めたコンロの上に戻す。毎回吹きだしていると言っている割にはコンロは綺麗――というより新品のように綺麗である。掃除の賜物だろうか。
「それからヤカンの中に直接お茶っ葉を入れないの。匂いが移って他に使えなくなるわよ」
「……毎日カップ麺でほのかにお茶の匂いがするのは……?」
「間違いなくそのせいよ、って毎日インスタント!?」
「基本的には栄養剤を使ってる」
 眩暈がしてきた。こんなに無知なのだから料理をしているとは思ってなかったが、インスタント食品ばかりと言うのは同じ年の少女としてどうだろうか。むしろ胸を張って栄養剤に頼ってると言うな。
「毎日インスタントはいけないわよ……でも料理できないのよね?」
「死にたくなければやめろと言われたことがある」
 去年の調理実習でだろうか。
 ちなみに全くの余談だが、去年の調理実習ではすずかに包丁を取り上げられ班全員に仕事を奪われた縁はひたすら洗い物と掃除を行っていたのだが、アリサやすずか含め誰の知るところでもなかった。
「たまには外食とかしないの?」
「やり方が分からないから行った事がない」
「あんた本当に同じ年よね?」
「バニングスさんは飛び級してるのか?」
「してないわよ」
「なら同じ年だ」
 うんと肯きながら縁は答える。皮肉すらも素直に答えられてしまっては、もう何も言うまい。アリサは何度目か分からない溜息を吐きだす。
「はぁ……とりあえず、お茶入れるならポットか急須が必要よ。それにこれ煎茶でしょ? 適温は大体90℃とか80℃位なんだから、沸騰させ続ける必要もないし、それ以前に沸騰させたなら少し冷ます工程が必要なの」
「沸騰させたらダメなのか?」
「ダメとは言わないわよ。それに蓋を取って10分くらい沸騰させ続けたお湯を使えばもっと美味しくなるし」
「なぜだ?」
「さぁ? 酸素を抜くとか塩素をどうにかするんじゃないの? まあ、軟水のミネラルウォーターがあれば一番手っ取り早いんだけどね」
「…………」
 蓋を取りヤカンの中を除きこみながらアリサは言葉を続ける。
 アリサ自身は日本茶と紅茶どちらが好きかと聞かれれば間違いなく紅茶が好きなのだが、それでも日本茶の煎れ方が分からない訳でもない。生粋のお嬢様育ち、という言われ方はかなり嫌だが、教養のある育ちをしているのは事実だ。
 ゆらりゆらりとヤカンの中を、直接投下されたお茶の葉が踊り続ける。色がかなリ濁っているが、これは致し方がない。
 もうそろそろ良いだろうかと見計らい、蓋を閉じようとして、ふと縁が静かになったのが気になった。
 振り向くと、痛く感心した様子の縁。心なしか目が輝いているように思えた。
「な、なによ?」
「いや、凄いと思ってたんだ。ああ実際凄いんだなバニングスさんは、色々知っていて」
 うっ、と一瞬言葉に詰まったが、アリサはすぐに気を取りなおした。
「あのね、これくらい誰でも知ってるから別に誉められても―――」
「でも私は知らなかった。そしてそれを知っているバニングスさんはやはり凄い人だと思う。お茶と言うのは総じてお湯に葉を入れて煮込めば終わりだと思っていた」
 再び言葉に詰まった。
 どうも、この縁という少女はアリサのペースを乱す。
 いつもならば誉められれば胸を張り天狗になるのだが、まさかこれ如きのことで天狗になれるはずもなく、むしろ無表情で真面目に誉められると反応に困る。
「だから別に、これくらい知らない方が変―――」
 変だから。そう言いかけてアリサは言葉を切った。
 知らない、と言うか、教えられたことがない、のだろうか。
 友人はいないから友人に教えてもらうこともなく、学校で教わることもなく。親は……先も考えた通りいるのかいないのかは知らないが、ここまで無知の様子を見ると両親がいたとしてもまともな教育はしていないだろう。
 何も知らないというのは、イコールで、何も教えられていない、である。
 再び、胸の中にもやりとした同情だか使命感だか分からない感情が浮かんでくる。
 急に言葉を切ったアリサを不思議に思ったのか縁は首を傾げた。
「……………そう言えば、さ」
 何か言わなくては。
 そうは思っても言わなくてはいけない、その“何か”が思いつかない。
 かなり間を置いてからぽつりともらしたアリサの前置きに、縁は気にすることもなくうんと返事を返した。
「あんた、寂しいとか、思わないの?」
 違う。そうじゃない。
 聞きたいのはもっと違うことである。
 いや、言いたい事が違うのだ。
 もっとも、何がどう違い、何を言いたいのかが自分でも分からないのだが。
「寂しい……? すまない、質問の意味がよく分からない。もう少し分かり易く言ってくれると助かる」
 再び首を傾げながら聞き返してきた。
 なんとなく、その言葉自体が質問への返事とも取れた。
 アリサは縁の方を向くことなく、ヤカンを持ち上げてザルを湯飲みの口に当ててゆっくりとお茶を煎れていく。
「だから、その、学校じゃいつも独りでしょ?」
「クラスメートが……」
「いやそうじゃなくって、友達いないでしょ?」
 縁の言葉を遮って、アリサは言葉を選ぶことなくずばっと聞いてみる事にした。
 その質問に対して縁はしばし考えるように天井を見上げてから、アリサの方を向いた。
 
「そもそも “ともだち” とは何なのだ?」
 
 今度こそ、アリサは黙った。
 そして分かった。
 無知である、何も知らない、そんなレベルではないことを。
 海鳴 縁という少女は、辞書や教科書の中身のみを詰め込んだような、人間味のまるでない人物であるということが。
 それを理解して、続いてアリサの胸の中ににじみ出てきた感情は、もやもやした訳の分からない感情ではなく、はっきりと理解できる感情だった。
 怒りだ。
 しかも、かなりの怒りだ。
 まず、縁の保護者に対しての怒りだ。
 顔も名前も知らないし会った事もないが、若年の娘に何も教えることもなく、育てるという責任すらも放棄している、そんな縁の保護者がとてつもなく憎く思えた。
 次に、自分自身がとても憎かった。悔しかったと言ってもいい。
 縁に友達がいないだろうというのは前々から気付いていた。話し相手ぐらいにはなろうかなと、前々から思っていた。前々から、本当に前々から。
 それが、タイミングが掴めないから、切欠がないから、合わせられるような趣味も話題もないからと、延々と引き伸ばしにしてきた。いや、逃げてきたと言ってもいい。
 話せば簡単だ。実際、縁はとても話し易い。
 それをずっと先伸ばしにしてきた。
 
 その先伸ばしにしてきた間、ずっと縁は独りだった。
 
 そして、その独りが寂しいのだと、理解出来ないほどの可哀想な空間にいたのだ。
 
 ずっと。
 独りで。
 
 可哀想と言うのは同情だ。
 同情は相手を見下すような行為だ。
 分かってはいるが、可哀想としか言い様がなかった。表現のしようがなかった。
「…………」
 縁の質問に答える事もなく、アリサはザルでお茶を越し終えて軽くなったヤカンをコンロに戻す。それから湯飲み持ち上げて、くるりと縁の方を振り向いた。
 縁の目が振り向いたアリサの目を追尾するように動くのがしっかりと見えた。アリサも、まっすぐ縁の目を見る。
 最初、見惚れそうになった、縁のその目は、とても綺麗だった。
 何も知らず、何も分からず、ひたすらに純真な、綺麗な目。
「――縁」
 初めて呼んだ名前は、すらりと口から飛び出した。
「ん? 出来たのか? バニングスさんは手際が良いな」
 アリサの目から視線を外し、一度アリサの手に握られた二つの湯飲みを見てから、縁は再びアリサと目を合わせる。
 すぅ、とアリサは気合をいれるように一度深呼吸を行った。
「その“バニングスさん”ってのをまず止めなさい」
 見つめられたその目を反らさずに見て、はっきりと、吐き出す息は全て言葉に換える位にはっきりと、アリサは言葉を放った。
 それに対して縁は表情を変える事なく、不思議そうに首を傾げる。
「何故だ? バニングスさんのファミリーネームはバニングスで当っていたと思ったんだが……」
 もしかして呼んでいる名前が間違っていたのだろうかと思ったのか、そう聞いてきた縁にアリサは首を振って否定した。ここで宇宙機雷がコックピットにぶち当たって死んだ人と同じ名前だったはずと言ったら迷わず煎れたてのお茶を顔にかけるところである。
「だったらバニングスさんという呼び名は間違って―――」

「他人行儀だっつーの、その言い方は!」

 ほっとしたような縁の言葉を強引に打ち消すかのようにアリサは若干大きい声で言いきった。
 その声に驚いたのか、それとも意味を理解しかねたのか、ぽかんと開いた口を塞ぐことも忘れた縁に向かい、アリサはびしっと指をさしてたたみ掛けるように口を開いた。良い子は真似してはいけない。

「バニングスバニングス言うけどねっ、私の家族はみんなバニングスよっ! 確かに今日の今日まで話したことなんて一回もないけど席だって前後なんだしあんた……縁からしたら毎日毎日背後にまとわり付いてるのが私でっ、私からしたら毎日毎日黒板見る時に後頭見なくちゃいけなくて先生の話が逸れた時に枝毛を調べたりして暇潰す相手が縁なの!  おまけに縁が休めばプリント持って来るのよ私は! お互い顔も名前も知っていて席も近くて家も近い! ここまできといて私が “縁” で縁が “バニングスさん” よ!? ここは公平に平等に民主的にいくべきよ!」

 湯飲みさえ持っていなければぐっと握りこぶしを握り熱く語る所であった。今のところは湯飲みを握りしめ、木製の湯飲みなので熱伝導は悪いとはいえじんわりとした温かみが伝わってくる。
 かなり無理矢理かつ自分勝手の言い分だが、数分の付き合いでも縁は決して反論しないだろうと踏んでの台詞であった。ちなみに枝毛など調べたこともなければ民主的というのは語呂が良いから言っただけである。
 アリサの予想通り、縁は反論する事なく口を閉じてあれ? と首を傾げた。勢いだけで言い切られた言葉はどうやら縁の頭では理解しきれないらしい。
 しばらく縁は唸る。それから再びアリサの目を見て口を開いた。
「つまり、バニングスさんは別の名前で呼んでほしいのだな?」
「ええ、その通りよ」
 理解頂けて嬉しいわと、にこりと微笑みかけた。どうやら要所要所のつっこみ所は無視されて、話の内容だけは分かったらしい。
「で、なんと呼んだら良いんだ?」
 かくりとアリサの肩が落ちた。
 苗字で呼ぶなと言われて、後は名前以外になんと呼ぶ気なのだろう。
「バニングス以外で好きに呼んで良いって言ったら、あと何が残るのよ……」

「例えば―――アンス、という呼び名がある」

 呆れたようなアリサの言葉に、ほぼ即座に縁がまじめに答えてきた。
 は? と、今度はアリサが首を傾げる番になってしまった。
 アンス。
 誰だそれは?
「アリサ・バニングスで間違いないのならA・B・Sだけど、調子が悪いからBをずらしてA・N・Sでアンス。これなら問題ないだろう」
 どうだと言わんばかりにえへんとない胸を張る縁。何か根本的に間違っている気がする。
 確かに愛称も名前ならば名前の略方も間違ってはいないが、それはネイティブ、しかも訛りの強い略方だ。
「あの……」
「うん、ではアンスさんだ。これで良いのか?」
 アリサが訂正をかけようと声を出すのとほぼ同時に、縁はその声を塗りつぶしてきた。他意も悪意もないだろう。なんとなく縁の目を見れば分かる。素だよこのやろう。
 途切れた言葉をそのまま溜息のように吐き出す。
 好きに呼んで良い、と言ったら何が残る。アリサは確かに言った。そして残った。名前ではなく愛称であったが。
 よくよく記憶を掘り起こしてみると、アリサは生まれてこの方人生の道に一度たりとて愛称を命名された事がない。日本の子供からしてみたらアリサのように海外の名前が珍しく、名前そのものが既にニックネームの役割も担っていたためだ。
 生まれて初めてつけられた愛称が、訛りの愛称とは。
 湯飲みを持ったまま、アリサは少し唸り、幸せが逃げていくなと内心苦笑しつつ本日何度目かの溜息をついた。
「まあ……呼び易ければそれで良いわ。はい、これがお茶」
 心の内が出てしまい、自然と苦笑いをしたまま縁に片方の湯飲みを渡す。
 湯飲みを受け取り、その中を覗き込み、縁は目を丸くした。
「茶葉がない……」
「いや、普通そうだから」
 本当にお茶の葉ごと飲んでいたのだろうか。縁がもらした驚きの言葉に即座にアリサはつっこみ返す。
 それから縁は湯飲みに口をつけ、飲もうとしたところ熱かったのか一度慌てて口を離し、今度は息を吹きかけ冷ましはじめた。猫舌なのだろうか。
 十分に冷ました後、縁はゆっくりとお茶をすする。
「…………おいしい」
 驚きの表情。
 驚きの表情だ。
 ようやく無表情だった縁の表情が動いた。
 そんな縁の様子に内心でガッツポーズを決めてから、アリサも立ちながらだがお茶を一口飲む。かなり熱かったがここは我慢である。
「……うーん、やっぱ最初の葉の量はどうにもなんないか。失敗ね、苦いし濃いし」
「そんな事はない、こんなに美味しいお茶は生まれて初めてだ。こんなお茶を煎れられるなんてアンスさんはやっぱり凄――」
「はい、今度は “さん” を抜いて私を呼んでみて」
 無表情に戻りアリサを誉めようとした言葉を再度塗りつぶすように、器用にも湯飲みを握ったままピしっと縁を指差しながらアリサは声を重ねた。
 言いかけの所を切られてしまい、縁は口を開いたままアリサの言葉を理解している最中ですという風に固まり、それから首を傾げた。首を傾げるのが一種の癖なのだろう。
「アンス、で良いのか?」
「そうよ、ニックネームなんだから別に “さん” なんて付ける必要ないわよ」
 そうなのか、と縁はこぼした。
「ま、目を見て名前を呼んでっていうの、別の友達の受け売りなんだけどさ――」
 もう一度お茶を一口飲む。
 それから、なるべく優しい笑顔を浮かべた。
 柄じゃない、こういうのはすずかの役目だ。それは分かっているが、アリサはなるべく優しい笑顔を縁に向ける。

「どう? 少なくともこれで私たちの関係は “ともだち” よ」

 ぽかんと、縁はほうけた表情になる。
 ――なんだ、結構表情豊かじゃないの。
 アリサは作った笑顔ではなく、普通にくすりと笑った。
「実際のところ、私だって友達っていうのがなんなのか分からないわよ。深い付き合いのもいれば、浅い付き合いだっているし……縁は読書家みたいだし、多分縁の方が色々知ってるわよ」
 部屋の隅にあった本棚に目をやり、アリサは言葉を続ける。ここからでは本棚に何の本があるのかは分からないが、整理整頓と掃除が得意の縁の事だから無駄なくぎっちりと詰まっていそうな気がする。
 アリサが目を反らしたと同時に、縁は正気に戻ったようにほうけた表情から戻る。
「ともだち……アンスと、私が、か?」
「そうよ、友達。友達が何なのかなんて後でいいのよ後で。そういうのは言葉じゃなくて感覚で分かるわよ、その内に」
 そこまでいった後、アリサは縁へと視線を戻し――

 心臓が、跳ねた。

 ぱあ、と、縁が笑ったのだ。
 花が咲くような笑顔とは、こういうのを言うのだろうか。
「そうか、友達なのか! 私とアンスは友達になったのか!」
 再び心臓が跳ねた。
 嬉しそうに。実に嬉しそうに言う縁を見て、逆にアリサはパニックに陥っていた。
 なんだ、どうした、縁の笑顔を見た途端に、急に心臓が跳ねた。
 それだけではない、金縛りにあったかように体が動かない。丁度そう、縁の笑顔に釘付けになったように目が離せなくなっていた。
「嬉しいな、生まれて初めての友達だ。それもアンスのような凄い人となんて」
 どくん、どくんと心臓が暴走する。
 まるで全力疾走したような状態だ。大量に勢い良く送り出された血液が体を凄まじい速度で駆け廻り、あっという間に体が熱くなってきた。
 自分の状態に混乱しているアリサの心内など知らず、縁は未だ花が咲き乱れたままの笑顔で興奮したように続けた。
「光栄だ、とても光栄……ああ、言葉が出てこないけど、とても嬉しいよ、アンス」
 その笑顔を見せられ、アリサは返事が返せなかった。
 アリサ・バニングス、そして海鳴 縁。
 ありとあらゆる意味で人生の分かれ道放り出された瞬間だった。





――――――――――――――――――
 終わり方が微妙?
 それはそうだろう、書いた本人だって変だと思ってるんだから(ぇ
 ようやく事件らしい事件が発生。まあどこにでも見かけるありがちな設定の事件ですけどね!?
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2件のコメント

[C554]

アンスさんw
こんな呼び方で呼ばれているアリスを初めて見た
  • 2009-12-14
  • 投稿者 :
  • URL
  • 編集

[C562] コメントありがとうございまー

 凄まじく変なネーミングセンスだということで1つ。
  • 2009-12-17
  • 投稿者 : クロガネ
  • URL
  • 編集

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4/6更新 リリカルなのは、短編と呼ぶべきかネタと呼ぶべきか考えた結果これはクロガネ式妄想劇と呼ぶべきなんじゃないのかなぁという曖昧な結論に落ち着きました、みたいなお礼ありです。

魔法の使えない魔法使いの魔法

注意事項!

プロローグ

第1章 『海鳴 縁という少女』
       
基礎情報 第1章終了時点
第2章 『悩み』
         
基礎情報 第2章終了時点
第3章 『誰が為の剣』
           
基礎情報 第3章終了時点
第4章 『教授』
           
基礎情報 第4章終了時点
第5章 『恋ですか?』
           
基礎情報 第5章終了時点
第6章 『切実な事情、迂闊な発言』
           
基礎情報 第6章終了時点
第7章 『縁と看視者』
           
基礎情報 第7章終了時点
第8章 『その言葉、届かない』
           
基礎情報 第8章終了時点
第9章 『失意』
               
基礎情報 第9章終了時点
第10章 『挫けぬ雷刃』
           
基礎情報 第10章終了時点
第11章 『届け、星の光!』
             
基礎情報 第11章終了時点
第12章 『祝福される騎士と風』
 
第13章 『アリサ・バニングスという少女』
第14章 『そして、日常』


本筋関係ないパラレル短編
           

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クロガネ

Author:クロガネ
 鉄と書いてクロガネ。文系の皮を被った理数系。人種差別主義。有神無宗派論者。白衣の天使。瞑想で一日潰したことがある。萌えにも燃えにも反応する。二次元より三次元の方が楽しいと思う。宇宙人未来人超能力者魔法使い等特殊な人間じゃなくて本当に良かったと思っている。変な人といわれる。仲間と言うのはチャレンジャーな人、友人と言うのは変わった人、知人と言うのは普通な人。
 これがクロガネ。
 とりあえずメールはこちら↓
kurogane951@yahoo.co.jp

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